小児科学習帳
小児科診療に関わる事柄をとにかく積み重ねていって, 少しずつよりよい診療のために
2022年8月26日金曜日
けいれん重積型(二相性)急性脳症に予測的な脳波所見
2022年8月25日木曜日
米国における新生児COVID-19の疫学 (2020年3月~2021年2月)
・新生児COVID-19に関しては様々な臨床的な情報が報告されてきているものの, 現状ではその情報は十分ではない.
・今回の研究ではデータベースの情報を用いて, 比較的多い症例の新生児COVID-19を後ろ向きに分析している
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米国における新生児COVID-19の疫学
方法 (Methods)
・Cerner® Real World Databaseから100万超の新生児の受診者のデータを抽出して分析した
・期間は2020年3月1日から2021年2月28日を対象とした
・COVID-19の臨床検査陽性もしくはICD-10-CM診断コードを用いてCOVID-19の診断が確認され入院した生後28日以下の新生児を対象とした
・年齢が不明な児は除外した
重症例の定義
・過去の報告を元にして以下の少なくとも2つを満たす場合を重症疾患(Severe illness)と定義した:
・体温37.5℃を超える発熱, 咳嗽, 多呼吸, 呼吸窮迫, 陥没呼吸, 酸素投与を要する, 嘔吐, 下痢のいずれかがある
・白血球減少(WBC<5000/μL), リンパ球減少(<1000/μL). CRP上昇(>0.5mg/dL)
・胸部X線での異常所見
2022年1月5日水曜日
日本におけるおたふくかぜワクチン接種に関連する要因
・日本においてはおたふくかぜワクチンは1993年のMMRワクチンの接種中止以降, 長らく任意接種のままである.
・定期接種として実施されているワクチンとは異なり接種率については十分把握されておらず地域によっても異なることが推定されるが, 概ね60%程度と報告されている(*1)
・現状においては接種率は十分ではなく, 実際に数年おきにおたふくかぜの流行が発生している状況で難聴などの合併症が一定数発生していることが推測されるため, さらなる接種率向上が望まれる.
・接種率上昇, もしくは低下させる因子の把握は接種率上昇のための戦略をためには参考になるが, これまで接種に関連した因子は十分には知られていない.
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「日本におけるムンプス, ムンプスワクチンに関する保護者の考えとワクチン接種に関連する因子」
2019年10月から2020年2月にかけて金沢市での1歳半健診で行われた調査でおたふくかぜワクチンの接種の決定に関連する要因を調査している.
結果としては主に以下のような内容であった
・55.6%の児がおたふくかぜワクチンを接種していた
・接種していない理由として最も多かったのは「おたふくかぜワクチンは定期接種ではないため」であった(35.9%) (ただし理由として「その他」を選んだ割合は40.8%でもあった)
・接種していないその他の理由としては主に以下のものが挙げられていた:
・おたふくかぜワクチンを接種できることを知らなかった(5.4%)
・自然におたふくかぜに関連したほうが好ましい(4.9%)
・精巣炎: 20.3%
・髄膜炎: 19.1%
・流産: 15.0%
・脳炎: 15.0%
・ワクチン接種に関連する因子としては以下のものが挙げられた:
・医師からおたふくかぜワクチンの副反応について教わった保護者
・子どものワクチン接種を家族構成員から推奨された保護者
・金沢市から提供されたワクチン接種の情報を読んでいる保護者
・その他の任意接種のワクチンを接種している児
・胃腸炎の治療を受けた児
・一般的にワクチンに関して深く理解している保護者
・ワクチン接種に関して誰からも推奨されていない
・子どもが2人以上いる保護者
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金沢市は1年度中に任意接種ワクチンの接種に対して, 1回あたり助成金1000円を2回まで受けられるという制度となっているが, この助成制度ではおたふくかぜワクチンの接種率向上にはあまり寄与していないことが推定される(1歳半までの接種率であるため, その後の接種による上昇は一定数あると推定されるものの).
おたふくかぜワクチンに関しては自治体によって様々な助成制度が設けられているが, それが実際に接種率上昇に寄与する内容であるかははっきりしていないことが多いだろう.
名古屋市では自己負担金が3000円となる補助金制度を導入後, 接種率が90%超まで上昇し, おたふくかぜの報告数が減少したことが報告されており(*2), こういった内容を参考にして制度設計を行ったほうがよいかもしれない.
また小児科医の視点では, 合併症に関する認知度の低さが気になった.
過去の報告にもある通り(*3), 十分な情報提供がワクチン接種に向かうことと関連していそうな結果であったことも考えれば, 個人としては合併症も含めた疾患に関する情報, 任意接種であるがおたふくかぜワクチンは推奨されるものであることを広く知ってもらうようにすべきであろうと改めて感じた.
参考文献
2022年1月4日火曜日
川崎病における爪の変化
川崎病は主に若年の小児でみられる原因不明の血管炎である. 全身性の汎動脈炎が生じることで全身に様々な臨床症候をきたし, 特に川崎病での診断に用いられる主要症状についてはよく知られている.
見られる頻度が高い主要症状以外でも, 比較的頻度の低い臨床所見を伴うことはあり, 「川崎病診断の手引き 改訂第6版」でも参考条項の欄に多数記載されている.(*1)
その中で爪に関しては「爪の横溝」の記載があるのみだが, 実際には様々な爪病変に関しても報告されており, 今回著者らはこれらに注目して症例報告と文献レビューを行う報告している.
著者らは過去の報告をレビューして, 川崎病に関連した爪病変を以下の5つに分類している:
・Beau’s line: 爪を横切る小さな溝としてみられる. 爪の成長とともに移動する.
・爪甲白斑症: 爪甲における白色調の変化で, 全体的なものから部分的なものまでいくつかタイプがある
・爪甲脱落症: 爪母からの爪の自然剥離
・橙褐色のクロモニキア: 急性期や亜急性期の早期に観察される爪の色調変化(クロモニキア)で, 橙褐色となっているもの.
・巻き爪変形: 川崎病の亜急性期に観察される, 爪の長軸に沿ったカーブ状の変形. 四肢の末梢循環障害と関連していると考えられている.
これらの爪病変のうちで橙褐色のクロモニキアの頻度が最も高そうであると推定され, 著者らによる自験例3例も報告されている.
またそれらの3例中2例ではダーモスコピーの所見で爪床の点状もしくは線状の出血を伴っていたことも述べている.
川崎病でこれらの爪病変がみられる頻度は高くないと推定され, 実際に診断マーカーとして用いることができるかは現時点では不明である.
ただ川崎病を疑う際には四肢末梢の変化についても確認する必要があるので, その時に少しだけ爪の変化の有無についても確認すると興味深い所見が得られるかもしれない.
2020年12月10日木曜日
小児多系統炎症性症候群(MIS-C)における皮膚粘膜症候
ただ一般で知られている限りでは, 小児においてはこれまで重症例はほとんどなく, 日本では小児多系統炎症性症候群(Multisystem Inflammatory Syndrome in Children : MIS-C)の症例も明らかなものではこれまで報告されていない.
ただ患者数の増加に伴って稀ながら日本でもMIS-Cが発生する可能性はあるため, 今後も注意が必要であり, 知見を深めておいても損はないだろう.
MIS-Cに関しては数多くの報告されることで臨床的特徴が徐々に知られるようになってきた.
その中でも皮膚粘膜症状がみられやすいというのもそのうち1つであり, 「川崎病と類似した」と初期の頃に表現された理由の1つだろう.
これまでのまとまった報告でも皮膚粘膜症状/徴候について発生頻度などは報告されていた(*1, *2)が, 詳細についてはわかっていないことも多い. そんなMIS-Cの皮膚粘膜症候に焦点を当てて研究を行ったのがJAMA DermatologyのBrief Reportに掲載された今回の報告である.
Young TK, Shaw KS, Shah JK, et al. Mucocutaneous Manifestations of Multisystem Inflammatory Syndrome in Children During the COVID-19 Pandemic. JAMA Dermatol. 2020 Dec 9.
(COVID-19パンデミック中での小児における多系統炎症性症候群の皮膚粘膜症候)
2020年の4月1日から7月14日まででニューヨーク市の2病院に入院しMIS-Cと診断された後ろ向き研究である.
診断基準としてはCDCの基準が用いられている(*3).
分析対象となったのは35人で, そのうち25人の児がMIS-Cの基準を満たした症例で, 10人の児はSARS-CoV-2の感染を示す検査所見がなくMIS-Cの可能性がある症例(probable MIS-C case)として含まれた.
それぞれの年齢の中央値は3歳(範囲: 0.7-17歳), 1.7歳(範囲, 0.2-15歳)である.
全体のうちで29人(83%)に皮膚粘膜所見がみられ, 主として以下のような所見がみられたようである:
・結膜充血: 21人(60%)
・手足の紅斑: 18人(51%)
・口唇充血: 17人(49%)
・口唇のひび割れ: 13人(37%)
・眼周囲の紅斑と浮腫: 7人(20%)
・いちご舌: 8人(23%)
・頬部の紅斑: 6人(17%)
さらにそれよりも頻度は多様な皮膚所見も報告されている.
また, 皮膚粘膜症状は発熱が先行した症例(19/29)では発熱してから平均2.7日後に発現している一方, 皮膚粘膜症状が発熱に先行した症例も存在するようである.
この研究では34人が外来で経過観察されており, そのうち9人で膜様落屑がみられていた.
また皮膚粘膜症候は3歳未満と3歳以上で明らかな違いはなく, またその有無で臨床的な重症度に明らかなは違いはなかったようである.
今回の報告で, 多彩な皮膚粘膜症候がみられる可能性があることや, どのような所見がみられやすいかという点では参考になった.
ただし今回の研究で示された皮膚粘膜症候, 特に結膜充血の発生頻度はこれまでの報告のもの(約50%)(*1, *4, *5)と比べて高いように感じたが, その中で気になったのはSARS-CoV-2感染を示す所見がない「MIS-Cの可能性がある症例」の存在であり, この中には従来からみられた川崎病がそれなりの割合が含まれているのではないかという印象をもった.
実際にMIS-Cの基準を満たした患者と比べて, MIS-Cの可能性があると考えられた患者では結膜充血がみられた頻度が高く(90% vs 48%), 川崎病もしくは不全型川崎病の基準を満たした割合が高い(90% vs 48%)ことは述べられている.
また年齢の中央値も従来のMIS-Cの報告のもの(8-10歳)(*1, *4, *6)と比べて低い(1.7歳)こともそれを示唆しているかもしれない.
(MIS-Cの基準を満たした集団の年齢も低い(3歳)が, それについては割愛する)
川崎病では結膜充血の発生頻度はとても高い(約90%)ため, 典型的な川崎病の症例が含まれると皮膚粘膜症候の発生頻度は高くなる可能性があるだろう.
現在のMIS-Cの基準は比較的非特異的であるため, 実際にはいくつかの病態が含まれているかもしれない. ただしそれにしても今回の研究全体の対象は, 従来のMIS-Cの症例と比べ多様な病態/疾患を含めている可能性が低くないため, 全体における発生率については注意が必要であろうと感じた.
<参考文献>
1) Feldstein LR, Rose EB, Horwitz SM, et al. Multisystem Inflammatory Syndrome in U.S. Children and Adolescents. N Engl J Med 2020; 383(4): 334-346.
2) Dufort EM, Koumans EH, Chow EJ, et al. Multisystem Inflammatory Syndrome in Children in New York State. N Engl J Med 2020; 383(4): 347-358.
3) Centers for Disease Control and Prevention. Multisystem inflammatory syndrome in children (MIS-C) associated with coronavirus disease 2019 (COVID-19).
4) Whittaker E, Bamford A, Kenny J, et al. Clinical Characteristics of 58 Children With a Pediatric Inflammatory Multisystem Syndrome Temporally Associated With SARS-CoV-2. JAMA 2020; 324(3): 259-269.
5) Belhadjer Z, Méot M, Bajolle F, et al. Acute Heart Failure in Multisystem Inflammatory Syndrome in Children in the Context of Global SARS-CoV-2 Pandemic. Circulation 2020; 142(5): 429-436.
6) Kaushik S, Aydin SI, Derespina KR, et al. Multisystem Inflammatory Syndrome in Children Associated with Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2 Infection (MIS-C): A Multi-institutional Study from New York City. J Pediatr 2020; 224: 24-29.
2020年11月15日日曜日
小児多系統炎症性症候群(MIS-C)では一部で心臓伝導系の異常がみられるかもしれない
2020年4月20日月曜日
家庭内での父親の喫煙と受動喫煙を避ける行動の, 児の受動喫煙に与える影響についての分析
背景
・受動喫煙は成人のみならず小児においても様々な健康問題を引き起こすことが知られている.・小児と関連する主な問題としては喘息発作の頻度増加や呼吸器感染症, 中耳疾患, 乳幼児突然死症候群が知られている1).
・小児, 特に若年小児においては家にいる機会が多いことから, 家庭内が重要な受動喫煙する環境であると思われる.
・家庭内での家族の喫煙状況と, 受動喫煙を避ける行動がどの程度児の受動喫煙に影響を与えるかははっきりしていない.
・今回の研究では家庭内での父親の喫煙と受動喫煙を避ける行動, および実際の児の受動喫煙の度合いについて分析している.
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Wang M, Suen Y, Chen SS, et al. Paternal Smoking and Maternal Protective Behaviors at Home on Infant's Saliva Cotinine Levels. Pediatr Res 2018; 83(5): 936-942.
方法
・香港における4つの主要な母子健康センターで, 18か月以下の児がいる喫煙しない母親(平均年齢32.6歳)を集め, 最終的に675人が参加した.・家族の喫煙に関する情報などはすべて記入してもらった質問表から収集した
・389人の児から唾液サンプルを採取してコチニン値を測定した
・コチニンはニコチンの代謝産物である
・家族の喫煙状況は3つのカテゴリーに分けた:
・家族内に喫煙者がいない
・家族内に喫煙者はいるが受動喫煙はない(父が喫煙するが家では喫煙しない)
・家族内に喫煙者がおり, 児に受動喫煙している(父が家で喫煙する)
結果
・児の唾液のコチニン値は1.07ng/mLであった・喫煙している家族がいない児と比べて喫煙している家族がいて受動喫煙している児ではコチニン値は有意に高かった.
・児の近く(1.5m以内)での父の喫煙はより高いコチニン値と関連していた
・キッチンやバルコニーなどでの喫煙といった回避行動でも減らなかった
・父が3m以上離れて喫煙している場合でさえ, 家族が喫煙していない児よりもコチニン値は有意に高かった
・母が受動喫煙を避けようとする行動や家でのたばこフリーのルールはコチニン値低下と関連していないようであった
まとめ
・家庭内で受動喫煙機会や, 児の近くでの喫煙は, 児の受動喫煙の度合いをより強めるかもしれない.・家庭内で喫煙者がいる場合, 家庭内に受動喫煙を避けようとする行動やルールでは児の受動喫煙の影響は小さくできないかもしれない
<参考文献>
1) Centers for Disease Control and Prevention. Health Effects of Secondhand Smoke.