2020年11月15日日曜日

小児多系統炎症性症候群(MIS-C)では一部で心臓伝導系の異常がみられるかもしれない


SARS-CoV-2 (新型コロナウイルス)による感染症(COVID-19)はいまだに世界中で大きな問題となっている.
COVID-19は成人・高齢者と比べて小児では重症となりにくいということがこれまでの多くの報告からわかってきている. しかし世界中でのCOVID-19流行に伴い, 稀ながら流行地域の小児で川崎病に類似した全身炎症性疾患がみられるという研究が相次いで報告されるようになった (*1). 
それらは現在では一般的には小児多系統炎症性症候群(Multisystem inflammatory syndrome in children : MIS-C)と呼ばれており, 川崎病とは異なる存在であると認識されている.

MIS-Cでは複数の臓器系(皮膚などを含む)で障害が生じることが特徴的であり, 消化器症状がみられやすいといったことが知られてきている(*2, *3).
また心血管系への影響から循環障害を伴い血管作動薬などが必要となる例も少なくない ようである. 従って管理する上で心血管系の臨床像を把握することは重要であり, それらにに焦点を当てた研究も報告されるようになってきている(*4).

そこでMIS-Cにおける心臓伝導系障害に着目したのが今回の研究である.




NewYork-Presbyterian Morgan Stanley Children’s Hospitalを受診した21歳未満のMIS-C患者を対象とした後ろ向き研究で, MIS-Cの診断はCDCの基準を用いて行われた(診断基準の日本語版は以下が参考になる(*5).
心電図は入院後にルーティンで検査されていた.

結果としては32人の患者のうち6人(19%)で入院中にI度房室ブロック(AVB)がみられていた.
I度AVBは発症後8日(中央値, 範囲5-10日)でみられ, 1人を除いては3日(中央値, 範囲1-5日)でみられなくなった.
I度AVBがみられた児だけでなく, みられなかった児でも複数の心電図異常が観察された例はあったが, 臨床的には大きな問題はみられなかった.
またI度AVBは分析した範囲では他の臨床的所見との関連性はみられなかった.

このことからMIS-CではI度AVBが一時的にみられることはあるようだが, さらなる伝導障害に進展した児はおらず, また明らかに臨床的問題につながったわけではなさそうではある.


ただし本研究の分析対象は32人とそれほど多くないため, 症例数が多くなると臨床的に問題となりえる心電図異常がみられる例もあるかもしれない. そのためMIS-Cでは, 特に急性期には心電図に関しても注意深いモニタリングを考慮すべきだろう.


心電図異常を伴う理由は明確ではないものの, MIS-Cでは全身の病態が伝導系を含めた心筋に影響を及ぼした結果かもしれない. 実際, PR延長などの房室ブロックは心筋炎やリウマチ熱でも合併することがあることは知られている.
また, MIS-Cと類似していると指摘された川崎病でも房室ブロックを合併することは知られている. 過去には川崎病患者においてPR延長が約50%でみられたとする報告はある(*6).
また川崎病の重症例と思われる川崎病ショック症候群(KDSS)では66.7%で心電図異常がみられたとする研究もある(*7).

典型的な川崎病においては経験的, また最近の報告から心電図異常を伴う頻度はそれほど割合は高くない印象ではあったが, こういった報告を読むと, 心筋傷害を引き起こしうる炎症性疾患では伝導系にも改めて目を向けるべきかもしれないと考えたところである.


<参考文献>

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