2022年8月25日木曜日

米国における新生児COVID-19の疫学 (2020年3月~2021年2月)

・新生児COVID-19に関しては様々な臨床的な情報が報告されてきているものの, 現状ではその情報は十分ではない.
・今回の研究ではデータベースの情報を用いて, 比較的多い症例の新生児COVID-19を後ろ向きに分析している

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Devin J, Marano R, Mikhael M, Feaster W, Sanger T, Ehwerhemuepha L. Epidemiology of Neonatal COVID-19 in the United States. Pediatrics. 2022 Aug 23.

米国における新生児COVID-19の疫学


方法 (Methods)

・Cerner® Real World Databaseから100万超の新生児の受診者のデータを抽出して分析した
・期間は2020年3月1日から2021年2月28日を対象とした

・COVID-19の臨床検査陽性もしくはICD-10-CM診断コードを用いてCOVID-19の診断が確認され入院した生後28日以下の新生児を対象とした
 ・年齢が不明な児は除外した

重症例の定義
・過去の報告を元にして以下の少なくとも2つを満たす場合を重症疾患(Severe illness)と定義した:
 ・体温37.5℃を超える発熱, 咳嗽, 多呼吸, 呼吸窮迫, 陥没呼吸, 酸素投与を要する, 嘔吐, 下痢のいずれかがある
 ・白血球減少(WBC<5000/μL), リンパ球減少(<1000/μL). CRP上昇(>0.5mg/dL)
 ・胸部X線での異常所見


結果 (Results)
・新生児1007269例のうちCOVID-19と診断された例は918例であり, そのうち71例(7.7%)が重症COVID-19感染症と診断されていた.
 ・臨床検査で陽性が確認された例は440例
 ・入院時の体重の中央値は3.40kg (IQR 2.93-3.88)
 ・入院時の年齢の中央値は11日(IQR 1-22)であり, 重症例での年齢の中央値は15日(四分位範囲([IQR]) 1-22)であった

重症例の疫学
・非重症例と比べて重症例では低出生体重児(出生時体重<2500g)もしくは早産児の割合がより高かった(p<0.001)
基礎疾患を有する割合も重症例でより高かった(p<0.001)
 ・重症例のうち46.5%が1つ異常の基礎疾患を有しており, そのうちでは先天奇形が最も多かった(38%)
 ・PDA以外での先天性心疾患は基礎疾患の17%を占めていた
・主な臨床像: 以下のような所見がみられていた (カッコ内は頻度):
 ・敗血症疑い(24%)
 ・黄疸(28.2%)
 ・輸血を要する貧血(7.7%)

臨床像
・63.3%では感染症の徴候は報告されていなかった
・感染症の最もよくみられた徴候は多呼吸発熱であった
・重症例の28.2%で肺炎がみられた

臨床検査所見
・血液検査所見について重症例と非重症例を比較したところ, 重症例では以下のような特徴がみられた:
 ・CRP値がより高かった(中央値 0.2mg/dL vs 0mg/dL)
 ・アルブミン値がより低かった(中央値 3.2g/dL vs. 3.6g/dL)
 ・血小板数がより低かった

呼吸サポート(Respiratory support)
・重症例の方が呼吸サポートを要する割合が高かった(50.7% vs 5.2%)
 ・重症例では11.3%で侵襲的人工換気(Invasive mechanical ventilation)が用いられた
 ・大多数は早産児で先天奇形があった
・MIS-Cを示唆する症状がみられた例が1例あり, ECMOで治療されていた

多系統炎症性症候群(Multisystem inflammatory syndrome in children; MIS-C)
・重症COVID-19カテゴリーの新生児1人が日齢17で呼吸窮迫, 低血圧および軽度の低体温で発症した.
・先天奇形や細菌感染症とは診断されていなかった
・白血球数は正常(WBC 11500/μL), リンパ球数は境界域(2000/μL), CRP値上昇(0.84mg/dL)
・貧血と血小板減少があり, Hb値の最低値は8.3g/dLで, 血小板数の最低値は1万/μLであった
・トランスアミナーゼ上昇, 総ビリルビン値上昇およびPT/APTT延長がみられた
発熱はなかったものの総合的にMIS-Cを示唆していた
・ECMOで治療が行われたが入院後11日で死亡した


結論 (Conclusion)
・新生児COVID-19の多くは無症状か軽症であるかもしれない一方で, 稀ではあるが重篤と病態を引き起こしうるかもしれない.


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・前述の通り, 研究の対象期間は2020年3月~2021年2月であり, この時期では米国ではSARS-CoV-2の野生型(Wild type)が流行していた時期からアルファ(alpha variant)に置き換わる過程の時期である. そのため, 現在(2022年8月)のオミクロン(omicron variant)優位の状況とは臨床像が異なる可能性があることを踏まえて解釈する必要はあるが, 一般論としては参考になる知見であろう.
・成人や小児例と同様に, 基礎疾患がある例では重症化しやすいことが示唆されているため, こういった例では特に周囲の感染対策や感染時の管理については注意を払う必要があるかもしれない.
・MIS-Cの1例についてはやや詳細が述べられているが, これはMIS-N (Multisystemic Inflammatory Syndrome in Neonates)とも呼ばれているものである(*1).
・MIS-Cと比べてMIS-Nはより重篤となりえることが示唆されており, それを物語るように本報告での1例も最終的に亡くなっている.
・本例および参考文献*1のシステマティックレビューでも示唆されてように, MIS-Nでは発熱がみられないことがあるため, その点は頭に置いておいたほうがよいかもしれない.

参考文献

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