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2019年8月26日月曜日

市販の小児用解熱薬について -第1版-

はじめに

小児において解熱薬はもっともよく使用されている薬の1つであると思われる。それは感染症をはじめとする発熱する病気が小児においてよくみられ, また必要度とは別として発熱という症状を軽減することにとても一般的であることが関係しているだろう.

 解熱薬は小児の医療現場においてよく処方される一方, 市販薬としても購入することができる.
 今回はこれらの薬について検討する.




市販されている代表的な小児用解熱薬とその成分

市販の小児用解熱薬はいくつか販売されている. 今回のこれらのうちいくつかを無作為に抽出して検討することとする.
 今回以下の小児用解熱薬について検討した:
・こどもパブロン坐薬
・ムヒのこども解熱鎮痛顆粒
・小児用バファリンCII

 これらは解熱薬の成分としてアセトアミノフェンを使用している. このアセトアミノフェンは小児科で処方される解熱薬の代表的な成分でもある(例: アンヒバ , アルピニー, カロナールなど).
 ちなみにそれぞれに含まれているアセトアミノフェンの量は以下の通りであった:
・こどもパブロン坐薬: 100mg/1個
・ムヒのこども解熱鎮痛顆粒: 150mg/1包
・小児用バファリンCII: 33mg/1錠




それぞれの市販の解熱薬の投与量

それぞれの市販薬について個別に年齢別の投与量について見てみることとする.

<こどもパブロン坐薬>
年齢別投与量:
・6-12歳: 1回100-200mg, 使用回数1日1回
・3-5歳: 1回量100mg, 使用回数1日1回
・1-2歳: 1回量50-100mg, 使用回数1日1回

<ムヒのこども解熱鎮痛顆粒>
年齢別投与量:
・7歳以上11歳未満: 1回150mg, 使用回数1日3回まで, 4時間以上あけて再投与可
・3歳以上7歳未満: 1回100mg, 使用回数1日3回まで, 4時間以上あけて再投与可
・1歳以上3歳未満: 1回75mg, 使用回数1日3回まで, 4時間以上あけて再投与可

<小児用バファリンCII>
年齢別投与量:
・11歳以上15歳未満: 1回約200mg, 使用回数1日3回まで, 4時間以上あけて再投与可
・7歳以上11歳未満: 1回約133mg, 使用回数1日3回まで, 4時間以上あけて再投与可
・3歳以上7歳未満: 1回約100mg, 使用回数1日3回まで, 4時間以上あけて再投与可




市販の投与量についての考察

 上記の市販薬の投与量は. 医療機関で処方される投与量よりも少なくなることが多いと考えられる. ただしこれは市販薬という条件の上で考えられた設定であると思われる.
 アセトアミノフェンの過剰投与は肝障害を引き起こす可能性があり, 肝障害は非常に重篤で命に関わる可能性もある. 従って解熱薬を使用する場合には過剰投与とならないための配慮が特に重要となる. 
 小児の適切なアセトアミノフェンの投与量は体重を用いて計算される. 従って体重が投与量を決める重要な要素である一方, 市販薬ではわかりやすい基準が求められる. そのため体重ではなくおおよその年齢を基準にしていると思われる.
 小児においては同じ年齢でも体格には個人差がある. 従ってそれらの個人差を考慮しつつ安全性を第一に考えると, 一般的に少な目となる量に設定するのが妥当である.

 ここでは医療機関で処方される投与量はどの程度であるかは言及しない.




まとめ

 小児用の市販の解熱薬は医療機関で処方される解熱薬と成分は基本的に同じであるが投与量は異なることが多いと思われる. しかしこれは「市販薬」という性質を考慮しつつ, 安全性を第一に考えた上で決定されたものであると考えられる.
 以上より市販の解熱薬は性質を理解しつつ, 商品ごとに書かれている使い方を守って使用するのが好ましいと思われる.

2018年11月7日水曜日

12歳未満の小児のゾフルーザ(バロキサビルマルボキシル) Q&A -第3版(2019年9月26日現在)-

Question

・ゾフルーザとは何ですか
・どのような効果がありますか
・これまでの薬と比べてどのようなメリットがありますか
・他の薬より早くから効果が出ると聞いたのですがどうでしょうか
・問題点はありますか
・学会ではどのようなスタンスでしょうか
・海外ではどのような状況でしょうか
・まとめるとどんな感じなのでしょうか





ゾフルーザとは何ですか

ゾフルーザはバロキサビルマルボキシル(Baloxavir marboxil)と呼ばれる新しい抗インフルエンザ薬の商品名です.
これまで使用されてきた抗インフルエンザ薬(タミフルなど)と異なるメカニズムでウイルスの増殖を抑制する薬剤です1).

メカニズムについて
 インフルエンザウイルスは細胞に感染するとウイルスの成分(蛋白やRNA)が細胞内に侵入します. 細胞内でウイルスRNAの転写が行われ, mRNAの合成とウイルスゲノムRNAの複製が行われます. 
 ゾフルーザ(Xofluza)はウイルスのポリメラーゼのうちPAのキャップ依存性エンドヌクレアーゼを阻害することによりmRNAの合成(mRNA synthesis)を阻害して, 結果としてウイルスの増殖が抑制されます.2)3)

(模式図は参考文献2より引用)
(注: 信頼できる情報源が英語版しか発見できなかったため英語版で掲載しています. 日本語版がみつかれば差し替えます)
「Cap-Dependent Endonuclease Inhibitor」の画像検索結果







どのような効果がありますか

12歳未満の小児に対して投与した場合の研究については, これまで論文では報告されていません.
つまり, 科学的に質の高い方法ではまだ効果が確認されていないと言えます.

12歳未満の小児への投与データについて知り得る情報は, 製薬会社から発表されている医薬品インタビューフォームに掲載されているもののみです.4)

12歳未満の臨床試験のデータは以下の通りです.
・薬を飲んでいることがわかっている102例が対象
・結果: (体重(症例数): 症状改善までの時間(中央値))
 ・体重40kg以上 (8例): 60.9時間
 ・体重20kg以上40kg未満(65例): 45.6時間
 ・体重10kg以上20kg未満(29例): 39.1時間

では, 効果はどうなのでしょうか. 実はよく効果はわかりません.
なぜなら薬を飲んでいない人やその他の薬を飲んでいる人がどれくらいで改善したかわからないからです.

(参考) 12歳以上の場合には,
・薬を飲んでいない人よりは約1日症状が改善
・タミフルを飲んでいた人と症状の改善は同程度
と報告している研究はあります1)





どのようなメリットがありますか

上記の参考で紹介した12歳以上の報告では, 薬を飲んでいない人やタミフルを飲んでいる人と比べてウイルス排出期間が短かったことが報告されています.
人からインフルエンザウイルスが排出され, そのウイルスが他の人にうつることで感染が引き起こされます. つまり, ウイルスが排出されている期間が短い方が, 人に感染させる期間も短い可能性が考えられます.
しかし, あくまでの可能性であって, 実際に感染させることを早期に抑えているかは確かめられていません.

また, 「飲み薬で1回で済む」というのもある程度魅力的ですが, あくまでもある程度です.効果や副作用などを総合的に判断して, 他の薬剤と同等以上であった場合にはじめて投与期間の短縮ができるかを考慮します.





他の薬より早くから効果が出る・効果が高いと聞いたのですがどうでしょうか

早くから効果が出るか
これまでの薬よりもウイルス増殖の早い段階で抑制するのは事実です2).
ただし, ウイルス増殖を早い段階で抑制することと症状が早い段階で良くなるかは別の問題です.
実際, 臨床試験では早い段階から良くなることは示されていないため, 「症状改善に」早い段階から効果が出るというわけではありません.

効果が高いか
上述に通り, 12歳未満では効果があるか, 効果が他の薬と比べてどうなのかということはわかりません.
12歳以上では, 症状を早く治すという点ではタミフルと同じ程度であり, 明らかに効果が高いことを示したデータはありません.





薬を飲んだお子さんが1日で治ったという話を聞いたことがありますが, どうなのでしょうか

インフルエンザの症状は個人差が大きいです.
例として, ゾフルーザの医薬品インタビューフォームから図を引用します4).
この図は12歳未満でゾフルーザが投与されたインフルエンザの患者さん103人のうち, 時間経過でどれくらいの割合で症状が残っていた人がいたかということをあらわした図です.
 
図で示している通り, 治療開始から比較的すぐに症状が改善している児もいれば, 改善するまでの時間がかかっている児もいます. 早く良くなった子は, あくまで全体の一部です.
このような状況は薬を飲んでいない, あるいはタミフルなどの従来の薬を投与されている場合でも同じような傾向がみられます. 従って, 薬を飲んでいない子でも1日で良くなることはあります.
つまり, ゾフルーザの効果で早く良くなったかはわからないので, それだけで効果があるとは言えません.





学会などではどのようなスタンスでしょうか

日本小児科学会は「2018/2019 シーズンのインフルエンザ治療指針」を発表しています.5) その治療指針では, 治療の選択薬は従来の4種類のみ(タミフル・リレンザ・イナビル・ラピアクタ)としており, ゾフルーザは選択肢に含まれていません.
ゾフルーザに関しては「同薬の使用については当委員会では十分なデータを持たず、現時点では検討中である。」と記載されています.

また, 日本感染症学会は「キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬(Cap-Dependent Endonuclease Inhibitor)Baloxavir marboxil (ゾフルーザ®)について」を発表していますが, そちらではゾフルーザについてのスタンスは明確には言及していません.6)





問題点はありますか

ゾフルーザではウイルス変異株についての問題点が指摘されています4)6).
上記の12歳未満の小児を対象とした臨床試験で, ゾフルーザ投与患者でウイルスの変異が評価できた77例中18例(23.3%)でアミノ酸変異株が認められました. また別の成人での臨床試験では9.7%に変異が認められました.
これらのアミノ酸変異(正確にはI38T)が起こると薬が効きにくくなる(感受性が約50倍低下)ことが確認されています.
従って, ゾフルーザでは効きにくくなるウイルスが, 特に小児において認められやすい可能性が示されています.

また12歳未満の小児を対象とした研究では, ゾフルーザが効きにくくなるウイルスが検出された児では, 効きにくくなるウイルスが検出されなかった児と比べて症状がやや長くなったり, ウイルスがより長い期間検出される可能性が示されています10).
この研究では, 特に5歳未満では検出されやすい可能性も示されていますが, 情報は乏しくはっきりしたことはわかっていません.

変異株ができると, 症状が再び出てきたり, ゾフルーザが効きにくいウイルスが周囲に広がる可能性が指摘されていました.
実際, 2018-2019年のインフルエンザシーズンにおいてゾフルーザを投与されていない児からゾフルーザ耐性ウイルスが検出された例が報告されています. つまりゾフルーザを投与されている人に耐性ウイルスが別で出現して, それが排出されて他の人に感染した可能性が高いことが示唆されています9).




海外でどのような状況でしょうか

世界に先駆けて日本で2018年3月に販売が開始されました. その後, FDA(米国食品医薬品局)が米国においてゾフルーザを承認しましたが, 対象は12歳以上のみでした.7)
FDAのリリースしている記事では12歳以上としている理由に関しては言及されていないですが, 上記の通り12歳以上と12歳未満でわけて臨床試験が行われており, 12歳以上でしか有効があることを示すデータがないために12歳以上に限定されていると推測されます.

また, 製薬会社は台湾でも申請を行なっていますが, 台湾では12歳以上のみを対象として申請しています.8)

その他, 私の知る限り, 日本以外では12歳未満での使用が承認されている国・地域はないと思われます.





まとめるとどんな感じなのでしょうか

日本では12歳未満でも使用することはできます. ただしデータが乏しいため症状を改善させる効果があるかは不明です. 一方で, 耐性ウイルス(低感受性ウイルス)が比較的誘導されやすい(特に小児で)可能性が指摘されています.
そういったこともあり, 日本小児科学会のインフルエンザ治療指針ではゾフルーザは治療薬の選択肢に含まれていません.
効果があるかわからないことが関連しているのかもしれませんが, 米国では12歳以上でのみ承認されています. また同じ製薬会社が台湾では12歳以上でのみ申請しています.
以上のことから, 現時点では12歳未満の小児に対して使用されることは好ましくないと思われます. もし投与されるような場面があれば, 上記のようなことを把握した上で考慮した方がよいのでは思います.

12歳以上に関しては
・症状を改善させる効果: タミフルと同等
・ウイルス排出を短縮させる効果: 従来の薬よりは効果がある
・周囲への感染防止効果: あるかもしれないが, 不明
・費用: これまでの薬剤よりは高い
という状況だと思われます(耐性ウイルス(低感受性ウイルス)の問題は12歳以上でも同様にあります).






参考文献
1) Baloxavir Marboxil for Uncomplicated Influenza in Adults and Adolescents. N Engl J Med 2018; 379: 913-23
2) Shionogi’s growing anti-infectives portfolio. Shionogi Pharmaceutical Research Center
7) FDA approves new drug to treat influenza. FDA News Release
10) Baloxavir marboxil in Japanese pediatric patients with influenza: safety and clinical and virologic outcomes. Clin Infect Dis. 2019 Sep 20

更新状況
第1版 2018年11月7日
第2版: 2019年9月7日 / 問題点の項目で変異についての報告を追加
第3版: 2019年9月26日 / 問題点の項目で, 文献10の内容を追加

2018年3月5日月曜日

経口第3世代セフェム系抗菌薬Q&A

まとめ

・経口第3世代セフェム系抗菌薬はよく用いられている抗菌薬で, 代表的な商品としてはフロモックスやメイアクトなどがある.
・抗菌スペクトラムが広く(効果を示す菌の種類が多い)、グラム陽性球菌にはやや活性が低いという特徴がある.
・主なデメリットとしては吸収率が低い, 一部の抗菌薬での低カルニチン血症のリスクがある, 抗菌スペクトラムが広過ぎるという点が挙げられる.
・デメリットも考慮すれば, ほとんどの場合経口第3世代セフェム系抗菌薬が他の抗菌薬を上回ることはない.
・溶連菌や肺炎, 急性中耳炎の外来治療で用いられることは少なくないが, いずれの感染症も第1選択はアモキシシリンであり, 多くの場合には適切な投与量・治療期間により十分効果が期待できる.





セフェム系抗菌薬とはどのようなものでしょうか?

β-ラクタム環をその構造に含む抗菌薬であるβ-ラクタム系抗菌薬は主に4種類に分けられ, そのうちの1種類がセフェム系抗菌薬です. セフェム系はβ-ラクタム環に六員環がつく基本構造を有しています.
 セフェム系には多くの種類があり, 発売時期に応じて第1-4世代セフェム系に分けられています.
 ちなみにセフェム系はセファロスポリン系, セファマイシン系, オキサセフェム系に分けられます.





経口第3世代セフェム系抗菌薬とはどのようなものでしょうか?

代表的な商品名としてはフロモックス, メイアクト, セフゾン, バナン, トミロン, セフスパンが挙げられます.
 ちなみに後発品の名称を含めると主に以下のようなものがあります
 ・フロモックス = セフカペンピボキシル
 ・メイアクト = セフジトレンピボキシル
 ・セフゾン = セフジニル
 ・バナン = セフポドキシムプロキセチル
 ・トミロン = セフテラムピボキシル
 ・セフスパン = セキシム / セキスパノン / セフィーナ / セフパ
 第3世代セフェム系抗菌薬を含むセフェム系と, マクロライド系とニューキノロン系を合わせると日本で処方されている内服抗菌薬の80%を占めています

<参考>
Y Muraki, et al. Nationwide surveillance of antimicrobial consumption and resistance to Pseudomonas aeruginosa isolates at 203 Japanese hospitals in 2010. Infection 2013; 41(2): 415-423.





第3世代セフェム系抗菌薬の特徴は?

全般的にセフェム系は世代が上がるこばグラム陰性桿菌に対して抗菌スペクトラムが広がり, グラム陽性球菌に関しては活性が低下する傾向があります.
 つまり第3世代セフェム系抗菌薬の特徴としては抗菌スペクトラムが広く(効果を示す菌の種類が多い)、グラム陽性球菌にはやや活性が低いことが挙げられます.





経口第3世代セフェム系抗菌薬の欠点は?

第3世代セフェム系抗菌薬にはいくつか欠点があります. 主には
 ・抗菌スペクトラムが広過ぎる
 ・一部の抗菌薬での低カルニチン血症のリスクがある
 ・吸収率が低い(飲んでも吸収されないので, 感染部位まであまり抗菌薬が届かない)
 ・代表的な抗菌薬であるアモキシシリンと比べて高価





経口第3世代セフェム系抗菌薬の吸収率はどの程度なのでしょうか?

データによりやや異なりますが, おおよそでは以下のようなデータがあります.
 ・フロモックス: 30%
 ・メイアクト: 16%
 ・セフゾン: 25%
 ・バナン: 50%
 ・トミロン: ?
 ・セフスパン: 40%
 従って, 最も良好なものでも内服した量のうち半分も吸収されていないことになります.





低カルニチン血症とは一体どのようなものでしょうか?

小児などに対するピボキシル基を有する抗菌薬の投与により低カルニチン血症が引き起こされることが報告されています. 重篤な低カルニチン血症では低血糖やけいれん, 脳症などを引き起こし後遺症を残すこともあります.
 長期投与例だけでなく, 投与開始翌日での発症例も報告されているため, 投与例すべてで注意が必要です.
 ピボキシル基により尿中へのカルニチン排泄が亢進して低カルニチン血症が引き起こされると考えられています.

 重篤な結果を招く恐れがあり2012年に日本小児科学会から注意喚起が出されています. ただその後も報告が続いていることから, 2019年には改めて「ピボキシル基含有抗菌薬の服用に関連した低カルニチン血症に係る注意喚起」が出されています.

ちなみにピボキシル基を有する経口第3世代セフェム系としてはフロモックス, メイアクト, トミロンなどが挙げられます. またオラペネムもピボキシル基を有する抗菌薬です.

<参考>
ピボキシル基含有抗菌薬投与による二次性カルニチン欠乏症への注意喚起. 日本小児科学会誌 2012; 116(4): 804-6
日本小児科学会. 「ピボキシル基含有抗菌薬の服用に関連した低カルニチン血症に係る注意喚起」(2019年7月)





カバーしている菌の種類が多い方が治療が成功する可能性が高く安全だと思うのですが?

 感染症の診療では, まず診断をして, その診断を基にして原因となっている菌を推定して抗菌薬を選択します.
 つまり適切に診断ができていれば大体の菌の予測はできるため, その予測された菌をカバーして治療を行えば基本的には問題ありません. また様々な研究で頻度の高い感染症などでは第1選択薬としてどの抗菌薬に選択すべきかということは十分に検討されており, 結果として経口第3世代セフェム系を積極的に使用すべきとされた感染症はほぼありません.
 従って, カバーする菌の種類を多くしてもそれほどメリットはなく, むしろデメリットとなっている可能性もあるため安全とも言えないです.








溶連菌感染症に対して経口第3世代セフェム系を第1選択で使用することは好ましいでしょうか?

溶連菌感染症に対してはペニシリン系が第1選択とされています. セフェム系抗菌薬の短期療法も同等の効果があることを示す報告がいくつかあり, 両者はほぼ同等と考えられています.
 小児呼吸器感染症診療ガイドライン2017では以下の理由によりペニシリン系のアモキシシリン(AMPC)を第1選択としています:
 ・AMPCよりも経口第3世代セフェム系の方が抗菌スペクトラムが広い
 ・AMPCよりも経口第3世代セフェム系の方が高価
 ・セフェム系抗菌薬ではリウマチ熱予防のエビデンスがない
 AMPC治療は10日間であることと比較してセフェム系ではより短期間であるため, 最後まで抗菌薬を内服してくれる可能性は短期療法の方が高いという有益性はあります. しかし有益性を上記の理由が上回るため, 少なくともペニシリン系が使用できる状況で経口第3世代セフェム系を選択するのは好ましくありません(適正とは言い難いです).

 ちなみに2019年に出された「抗微生物薬適正使用の手引き 第二版」ではアモキシシリンのみが第1選択薬として提示されています.

<参考>
小児呼吸器感染症診療ガイドライン作成委員会「小児呼吸器感染症診療ガイドライン2017」
厚生労働省「抗微生物薬適正使用の手引き 第二版」





外来での市中肺炎治療において, 耐性菌が心配なので経口第3世代セフェム系を使用した方がよいでしょうか?

通常, 経口第3世代セフェム系は市中肺炎での第1選択薬とはなりません. これらの薬剤と比較してアモキシシリン(AMPC)の方が数倍高い血中濃度が得られ, 耐性菌の場合でもアモキシシリンが効果を示すことは少なくありません.
 小児呼吸器感染症診療ガイドライン2017でもアモキシシリン(AMPC)が第1選択となっています. 第1選択薬で効果がみられなかった場合にその他の薬剤を考慮すべきかと思われます.
 ちなみに効果がみられない場合に重篤な経過となる恐れがある場合には外来での経口抗菌薬治療となることはほとんどないと思われるため, その心配はないかと思われます.

<参考>
小児呼吸器感染症診療ガイドライン作成委員会「小児呼吸器感染症診療ガイドライン2017」





小児の急性中耳炎でのガイドラインでは経口第3世代セフェム系も他の薬剤とともに推奨されているので使用は考慮されるでしょうか?

 経口第3世代セフェム系が必要となる場面はほとんどないと考えられます.
 理由としては多くの症例ではアモキシシリン(AMPC)あるいはアモキシシリン・クラブラン酸(AMPC/CVA)が有効であることがわかっているためです.

 AMPCを使用する場合の注意は, 投与量が少ない場合には治療失敗率が上昇して恐れがあることです. 中耳におけるでの抗菌薬の濃度を十分保つためには60mg/kg/日 分3か75-90mg/kg/日 分2で投与すべきとカナダ小児科学会のガイドラインで記載している通り, 添付文書(20-40mg/kg/日)での投与量では投与量不足となることがあります.

 AMPCの投与量を増やすと薬の量が多くなってしまうという欠点がありますが, それを理由に経口第3世代セフェム系を使用するべきではないと思われます.
 従ってAMPC 60mg/kg/日 分3 あるいは 80-90mg/kg/日 分2を第1選択治療として治療を行い, その治療反応性を見た上でその後の方針を考慮すべきだと思われます.

<参考>
N Le Saux et, al. Management of Acute Otitis Media in Children Six Months of Age and Older. Paediatr Child Health 2016; 21(1): 39-50.


第1版
2018年3月5日公開
2020年1月4日追記

2018年2月13日火曜日

小児用の市販のかぜ薬についての検討 -改訂第4版

要約

 今回, 市販されている小児用のかぜ薬60種類の成分について検討を行い, 以下のような特徴がみられました.
 ・多くの製品に解熱薬が含まれている
 ・鎮咳薬も多くの製品に含まれていた. また2019年7月より12歳未満の小児に対してジヒドロコデインリン酸は禁忌となったものの, 未だ使用され購入可能な商品もごくわずかに存在していた.
 ・明らかな効果は示されておらず, また副作用の観点から感冒には用いるべきではないとされている第1世代抗ヒスタミン薬はほぼすべての製品に含まれていた.

小児の感冒では効果がはっきりせず, また使用が好ましくない成分が含まれていることが多かったため, 市販薬の風邪薬の使用には慎重になった方がよいかもしれません.

<改訂>
第2版 (2018/3/16) : 市販薬を11種類追加して42種類で検討
第3版 (2019/4/5) : 販売状況に確認して, 市販薬の追加・削除を行い, 65種類で検討
 改訂第3版 (2019/7/12): 検討した商品名の一覧を画像データとして掲載. 一部文章内容を訂正
第4版 (2020/7/16): 一部販売中止や成分変更された製品を再確認して内容を変更



はじめに

小児の感冒(かぜ, 急性上気道炎)に対して数多くの市販薬が発売されています.
小児において感冒はもっとも一般的な疾患であることから, 多くの症例で使用されていると思われます.

小児の感冒の治療では抗ヒスタミン薬や鎮咳薬などが頻繁に使用されていますが, 近年その効果や副作用の問題から使用すべきではないとする報告が多くみられるようになってきています. 特にコデイン類に関しては死亡例が報告されていることや副作用が高率に発生する可能性が示されているため, 2019年7月から12歳未満での使用は禁忌となりました.
しかし, 市販のかぜ薬では鎮咳薬や抗ヒスタミン薬が含まれていることが多いことも知られています.

これまで, 小児の市販のかぜ薬の成分について検討した報告はほとんどありません.
今回, 複数の製品の成分を調べて市販のかぜ薬の検討を行いました.





方法

今回, 小児用の市販のかぜ薬のうち60種類を選択して検討しています.
市販薬の種類についてはGoogle(https://www.google.co.jp/)の検索エンジンを用いて, 「こども かぜ薬」と入力して表示された製品およびその販売元の他の製品に関して任意で選択しています. よってすべての市販薬を網羅しているわけではありませんが特定の製品を任意で除外することはしていません.

成分データに関しては製品ページおよび添付文書から抽出しています. 一部で製品ページと添付文書の内容が一致していない製品がありましたが, 情報が新しいと思われる法を筆者が選択して, そちらのデータを採用しました.




結果と考察



解熱薬
・今回選んだ60種類のうち, "鼻炎シロップ"もしくは"せきどめシロップ"という言葉が入っていない製品のほぼ全てに解熱薬が含まれていました.

・安全性が高く小児領域でも一般的に用いられているアセトアミノフェンがほとんどで製品で使用されていましたが, 1製品ではサリチル酸系のエテンザミドが使用されていました.
 サリチル酸はインフルエンザにおいて重篤な合併症であるReye症候群を引き起こすリスクになりえることが指摘されており, 現在小児医療で解熱薬として使用されていることはほとんどないと思われます.

・アセトアミノフェンの1回投与量はいずれも少なめで設定されており, 安全性を考慮しているためと思われます. しかしアセトアミノフェンの解熱効果は用量が多い方が効果を示す傾向があることが示唆されており, 少ない量の市販のかぜ薬では効果的と言えるかは疑問が残るところです.

・また解熱を目的としてアセトアミノフェンを用いる場合には頓用で用いるのが原則となっています. 市販のかぜ薬の内服方法だと定期的に内服することになるため, これも一般的な診療方法からは外れてしまっていて好ましくない可能性があります.


鎮咳薬・去痰薬
・鎮咳薬としてはデキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物もしくはチペピジンが主に使用されていました.
・2019年7月より12歳未満ではコデイン類の使用が禁忌という方針になりましたが, 2020年7月現在で2製品で, 12歳未満に使用できるのにも関わらず, コデイン類を含んだものが購入可能であることが確認されました.
・鎮咳薬に関してみればチぺピジンヒベンズ酸塩が含まれているものの方がまだ良いかもしれません. ただしチペピジンも感冒において咳の症状を改善させる効果があるかは, データが乏しくはっきりいません.
・ちなみに, チぺピジンヒベンズ酸塩は病院で処方されるアスベリン®の成分です

・また, 上記以外で鎮咳作用・鼻炎改善を目的としてdl-メチルエフェドリンが多くの製品で使用されていました(48/60: 80%). エフェドリンは気管支拡張作用を理由に鎮咳薬として用いられていますが, 感冒に対して気管支拡張薬では鎮咳作用は期待できないと考えられるため, エフェドリンの鎮咳効果も期待はできないと推測されました.

・去痰薬としては主にグアイフェネシン, グアヤコールスルホン酸カリウムが使用されていました.
・グアイフェネシンはフストジルという商品名で注射液と錠剤の種類がある鎮咳去痰薬ですが, これまで処方されているところを見たことはありません. コクランレビュー(Cochrane Database Syst Rev 2014; (11): CD001831)によれば, 3つのプラセボとの比較試験があり, うち1つでは効果が示され, 2つでは効果は示されなかったとされています.


抗ヒスタミン薬
・抗ヒスタミン薬は今回対象とした製品すべて(60/60; 100%)で使用されており, すべて第1世代でした.
・多くの製品は抗ヒスタミン薬としてクロルフェニラミンマレイン酸を使用していますが, 一部ではジフェンヒドラミンやトリプロリジンを用いている製品もありました.
・第1世代抗ヒスタミン薬は副作用の観点から, 感冒には用いるべきではないとされています. 今回のことから, 市販のかぜ薬は第1世代抗ヒスタミン薬が含まれているという点だけで好ましくないものが非常に多いことが示唆されました.


無水カフェイン
・抗ヒスタミン薬の副作用の眠気に対する覚醒効果などを期待した無水カフェインが20種類で含まれていました.
・子どものカフェインの影響についてはわかっていないことも多いですが, 有害事象が起こる懸念から米国小児科学会は摂取の制限を推奨しています(Pediatrics 2011; 127(3): 511-28)
・無水カフェインが感冒の治療に効果的とする明らかなエビデンスはないことから, 無水カフェインは摂取しない方が好ましいかと思われます.


その他
・その他, 一部の製品には以下のようなものが含まれている製品がありました:
 ・生薬(例: ナンテンジツ, キキョウ, セネガ, カンゾウ, ニンジン, サイシン), 漢方(葛根湯, 小青竜湯)
 ・ビタミンC, ビタミンB2, ビタミンB1
・生薬はいずれも鎮咳・去痰目的で使用されるもののようです.






まとめ

・鎮咳薬としてエフェドリンが使用されている製品は多く, また2020年7月現在でもジヒドロコデインリン酸塩が使われている製品がごくわずかに存在することが確認されました.
・抗ヒスタミン薬はほとんどの市販のかぜ薬に含まれて, そのすべてが第1世代のものでした.
・小児の感冒では効果がはっきりせず, また使用が好ましくない成分が含まれていることが多かったため, 市販薬の風邪薬の使用には慎重になった方がよいかもしれません.

2017年12月7日木曜日

ステロイドパルス療法に関連した洞性徐脈

Sinus Bradycardia After Intravenous Pulse Methylprednisolone.
Pediatrics 2007; 119(3), e778-82

メチルプレドニゾロン(mPSL)によるステロイドパルス療法中に洞性徐脈を起こした5人のリウマチ性疾患の小児患者の報告

・すべて同様のプロトコールで治療された(mPSL 30mg/kg[最大1g] 30-60分かけて投与)
・投与前, 中, 後にバイタルサインを持続的にモニタリングした

・初回投与後から徐脈の発生まで時間の中央値は50時間
・記録されている心拍数の最低値は5パーセンタイルを下回った
 ・安静時の心拍数がベースラインで35-50%減少した
・徐脈は安静時や睡眠中に最も目立った
・1人のみで血圧が99%パーセンタイルを上回ったが, その他4人は血圧正常であった
・心電図で5人全員で施行され, 全員が洞性徐脈であった
 ・1人でQT延長が認められた
・1人で低カルシウム血症, 1人で血清リンとマグネシウムがボーダーラインの低さであった
 ・補正後も徐脈は続いた
・徐脈は無症候性で, 特別な治療をせずに3-10日で改善した

2017年3月15日水曜日

ステロイド治療と洞性徐脈

Sinus Bradycardia After Intravenous Pulse methylprednisolone
Pediatrics 2007; 119(3): e778-782

 本報告ではメチルステロイドパルス療法の連日投与期間中に洞性徐脈を発症した5人のリウマチ性疾患の患者を報告している
・心拍数: 安静時の心拍数がベースラインで35-50%減少した
・症状: 全員無症状
・発症時期: 治療開始から徐脈発症までの平均時間は44時間 (26-60時間)
・持続時間: 少なくとも72時間は持続した


◆ステロイドパルス療法と副作用
主な副作用(Indian J Pediatr 2008; 75(10): 1057-66)
・高血圧(既に高血圧がある小児において)
・けいれん発作
・アナフィラキシー
・異常行動(気分の変容, 過活動, 精神病, 見当識障害, 睡眠障害など)
 ・約10%でみられる
・高血糖
・低カリウム血症
・感染症
・循環器系の問題: 突然死, 不整脈, 血圧低下
 ・通常はmPSLの急速投与後に起こるが, 徐脈は投与量や速度と関係なく発生する

JIA患者を対象としたメチルプレドニゾロンパルス療法の研究での副作用( 2008 Nov;27(11):1371-5):
・頻脈(13.3%), 高血圧(8.3%), 頭痛(1.7%), 顔面紅潮(1.7%)



◆経口ステロイド療法
・標準的な投与量でのステロイド内服でも徐脈が発生することがある(Arab J Nephrol Transplant. 2012 Jan;5(1):47-9)