2018年12月12日水曜日

小児のヒトパレコウイルス3型感染症の臨床データと神経学的経過

Human Parechovirus 3 in Infants: Expanding Our Knowledge of Adverse Outcomes.
Pediatr Infect Dis J 2019; 38(1): 1-5


新生児・乳児早期でのヒトパレコウイルス3型感染症の臨床データと神経学的経過を評価したオーストラリアでの後ろ向き研究

 ヒトパレコウイルス3型(HPeV3)は新生児や生後3か月未満で敗血症様疾患や髄膜脳炎を引き起こし1), これらが注目されるようになってきている.
 急性期には主に易刺激性や頻脈, 発熱, 紅斑, 腹部膨満といった症状がみられやすいことが知られている2)3).
 フランスでの研究ではHPeV3による髄膜脳炎症例の約40%で神経学的後遺症を残したことが報告されている4). また髄膜脳炎症例だけでなく, 敗血症様疾患の症例でも神経学的後遺症を残す可能性があることがオランダの研究で示唆されている5).
 今回の研究では, HPeV3感染症のデータと神経学的経過について評価を行っている.




方法

・2013年11月から2016年6月までにオーストラリアのクイーンズランドで診断されたHPeV感染症の全症例が対象となった.
 ・PCRにて確認されたもので診断を行っている,
・様々なデータを診療録から後ろ向きに収集して検討した.
・発達に関する経過観察の時期や方法は標準化されていなかった.




結果

・対象となった症例は202例あった.
・HPeV PCRが陽性となった検体
 ・髄液 142検体
  ・臨床情報がわかる145例中104例(90.4%)で陽性だった
 ・その他の検体で臨床情報がわかる検体において:
  ・便: 検査を行なった63例中56例(88.9%)が陽性だった
  ・呼吸器: 検査を行なった29例中25例(86.2%)が陽性だった


臨床症候
・臨床情報がわかる145例で検討した
・入院時, 127例(87.5%)が生後3か月未満で, 54例(37.2%)が新生児(生後28日未満)だった
・33例(22.7%)がICUに入院した
・主な臨床症状と頻度:
 ・易刺激性: 94.5%
 ・頻脈: 88%
 ・哺乳不良: 87.6%
 ・発熱: 82.1%
 ・発疹: 74.5%
・14例(9.7%)は発症時から第3病日までにけいれん発作を起こした


経過
・145例中77例(53.1%)で, 急性期後4-12週間隔で一般小児外来での経過観察が予定された
・評価が行われたうち11例で神経発達的問題が特定された
・67例で聴力の評価が行われたが, 感音性難聴は1例もなかった
・神経学的問題がみられた児では. 新生児期に発症した, 症状としてけいれん・発熱・無呼吸みられた, あるいは早産の既往があった割合がより高いようであった.
・さらに神経学的問題がみられた児では, 急性期にICU入院や侵襲的呼吸補助や強心剤の投与を必要とした割合が高いようであった.


神経画像検査
・入院中に20例で頭部MRIが施行され, 15例で異常がみられた:
 ・もっとも頻度の高い所見は深部白質における拡散制限であった.
・頭部MRIで異常所見がみられた15例中, 7例では経過観察中に神経学的問題が特定され, 8例では問題はみられていなかった(経過観察期間は6-15か月)
 ・7例中5例では, 急性期以後の頭部MRIで継続して異常所見がみられた
・頭部MRIで正常だった5例中4例では経過観察中に神経学的問題はみられていなかった.

・頭部超音波検査は14例で施行され, 13例では異常所見はみられなかった:
 ・8例はその後頭部MRIが施行され, 7例で異常所見を認めた




まとめ

・HPeV3感染症罹患後, 神経学的問題がみられる症例は稀ではなかった
・急性期での頭部MRIで異常所見がみられた症例において, 経過観察中に神経学的問題がみられた症例が多くみられていた. ただその一方で異常所見がなかったうちでも神経学的問題がみられた症例も存在し, また頭部MRIが施行された例は限定的であったことなどから, さらなる検討は必要だろう.




参考文献
1) Human parechovirus infection, Denmark. Emerg Infect Dis. 2014; 20(1): 83-7
2) Human parechoviruses as an important viral cause of sepsislike illness and meningitis in young children. Clin Infect Dis. 2008; 47: 358-63
3) Human parechovirus 3 causing sepsis-like illness in children from midwestern United States. Pediatr Infect Dis J. 2011; 30: 238-42
4) Human parechovirus causes encephalitis with white matter injury in neonates. Ann Neurol 2008; 64: 266-73
5) Cerebral imaging and neurodevelopmental outcome after entero- and human parechovirus sepsis in young infants. Eur J Pediatr. 2017; 176(12): 1595-1602

2018年11月22日木曜日

肘内障 (工事中)

[工事中です]


(肘内障についてのまとめ)

・肘内障は1-4歳に起こりやすく, 性別としては男女差がないというものや, 女児の方が起こりやすいというものもある1)2)3).
・左腕にやや起こりやすい傾向がみられている1)2).

・引っ張られておこることが典型的であるものの, 引っ張られる以外のエピソードでも起こることはある. ある報告では, 女児での肘内障発症と関連する要因として
 ・腕を引っ張られる
 ・転ぶ
 ・服を着る
 が挙げられている10).

 ・2つのシステマティックレビューおよびメタアナリシスでは回内法の方が回外法よりも成功率が高かった4)5).
・初回整復の成功率は80-90%弱程度6)7).
・整復の成功時にクリック音を聴取するのは約70%との報告がある1).
・初回失敗後の2回目の整復でも回内法の方が成功率は高いことが示されている4).

・再発率は報告により様々だが, 約30%との報告もあり3)8), 再発例は少なくない
・再発例は2歳までに多い9)


参考文献
1) Investigation on 2331 cases of pulled elbow over the last 10 years. Pediatr Rep. 2014; 6(2): 5090
2) Epidemiology of nursemaid's elbow. West J Emerg Med. 2014; 15(4): 554-7
3) A Comparison of Supination/Flexion to Hyperpronation in the Reduction of Radial Head Subluxations. Pediatrics. 1998; 102(1): e10
4) Manipulative interventions for reducing pulled elbow in young children. Cochrane Database Syst Rev. 2017; 7: CD007759
5) Effectiveness of reduction maneuvers in the treatment of nursemaid's elbow: A systematic review and meta-analysis. Am J Emerg Med. 2017; 35(1): 159-63
6) Efficacy of reduction maneuvers for "pulled elbow" in children: a prospective study of 115 cases. J Pediatr Orthop. 2014; 34(4): 432-6
7) Comparison of success and pain levels of supination-flexion and hyperpronation maneuvers in childhood nursemaid's elbow cases. Am J Emerg Med. 2013; 31(7): 1078-81
8) Radial head subluxation: epidemiology and treatment of 87 episodes. Ann Emerg Med. 1990; 19(9): 1019-23
9) Prospective study of recurrent radial head subluxation. Arch Pediatr Adolesc Med. 1996; 150(2): 164-6
10) No longer a "nursemaid's" elbow: mechanisms, caregivers, and prevention. Pediatr Emerg Care. 2012; 28(8): 771-4

2018年11月18日日曜日

小児の抗菌薬治療に関するChoosing Wisely

"Choosing Wisely"は患者と医師に対して過剰医療についての情報を提供することで医師と患者との関係を密にし, 患者中心医療の推進を目的とするキャンペーンです(JAMA 2012; 307(17): 1801-2).
日本では"賢明な選択"などと呼ばれることが多いです.
このキャンペーンでは, 根拠に乏しいにも関わらず行われている様々な過剰な医療行為を, 根拠に基づいて見直してリストアップしています.

米国の各学会が指針を発表しており, 米国小児科学会(American Academy of Pediatrics: AAP)も現在10項目発表しており, 当ブログでも紹介しています.
(記事: 米国小児科学会におけるChoosing Wisely)

2018年11月12日にAAPで新たに抗菌薬治療戦略に関する5項目が発表されたので, 紹介します.
内容としては, どちらかというと重症感染症のものが中心となっているようです.




American Academy of Pediatrics – Committee on Infectious Diseases and the Pediatric Infectious Diseases Society
Five Things Physicians and Patients Should Question


1. 侵襲性細菌感染症が疑われる患者において, 例外的な症例を除いて, 血液, 尿およびその他の適切培養が得られていることを最初に確認せずに, エンピリックな抗菌薬治療を開始しない.
 抗菌薬治療を開始する前に適切な培養検査を提出すべきという内容です. ただし, 抗菌薬治療開始前にすべての検体を提出できない(臨床的に状態が不安定なことを理由として)場合でも, 静脈路確保の時に血液培養を採取して, その他も速やかに提出する, といったことにも言及しています.
 また, 症例によってはウイルス感染も考慮することなどについても触れています.
(タイトルと説明にやや乖離があるような気もしますが)



2. 合併症のない清潔手術および準清潔手術で切開部が閉鎖された後, 周術期および継続的な予防として広域スペクトラム抗菌薬を使用しない.
 周術期の予防的抗菌薬は術後感染症を減らすことができますが, 長期や広域な抗菌薬投与の有益性は示されておらず, 耐性菌を生み出したり, C. difficile感染症などを引き起こす可能性があるため, 適切な投与量・投与期間で行うべき, という内容です.



3. その他が健康で予防接種を受けている, 合併症のない市中肺炎の入院患者ではアンピシリン以上に広域な抗菌薬で治療しない.
 その他が健康で予防接種を受けている合併症のない市中肺炎ではアンピシリンで十分治療が可能であり, AAPのガイドラインでもアンピシリンが推奨されています. それよりも広域スペクトラムの抗菌薬使用と比べても治療失敗率は変わらず, また耐性菌を生み出したり, C. difficile感染症の原因となっていることが示されています.
 ただし, 膿胸などの合併症がある場合や, 地域で細菌の薬剤耐性化がより進んでいる場合などではより広域スペクトラムが必要となる場合はあります.



4. 狭域スペクトラムの抗菌薬に耐性を有する病原体の既知のリスクがない限り, NICU患者にエンピリックでバンコマイシンやカルバペネムは使用しない.
 バンコマイシンとカルバペネムなどの抗菌薬はその他の抗菌薬に反応しない高度な抗菌薬耐性菌に対して有効ですが, これらの抗菌薬の過剰使用は選択圧に影響を及ぼし, 治療できない感染症による問題が発生するリスクを上昇させる可能性があります.



5. 適切な抗菌薬に移行できる感染症に罹患している, その他が健康な児では末梢留置型中心静脈カテーテルの留置や持続的な静注抗菌薬の使用を行わない.
 末梢留置型中心静脈カテーテル(PICC)は抗菌薬などの静注薬の長期投与が必要な場合に留置されることがあります.
 ただし, ほとんどの感染症は一定期間の抗菌薬静注後, 経口抗菌薬への反応は良好となります. PICCの長期留置によるリスクもあるため, 経口にスイッチできる場合には経口スイッチを考慮します.



2018年11月16日金曜日

5歳未満の小児での敗血症様疾患や髄膜炎患者でのルーティンでの髄液検体でのエンテロウイルス・ヒトパレコウイルス検査の導入とその結果の評価

Outcome of routine cerebrospinal fluid screening for enterovirus and human parechovirus infection among infants with sepsis-like illness or meningitis in Cornwall, UK
Eur J Pediatr 2018; 177(1): 1523-9

小児における敗血症様疾患や髄膜炎に対するエンテロウイルス(EV)とヒトパレコウイルス(HPeV)のルーティンの髄液検査の導入前後で評価したイギリスでの後ろ向き研究

EVは小児において髄膜炎などを引き起こす原因としてよく知られている.
HPeV感染症は新生児や乳児早期では敗血症様疾患(SLI)や髄膜炎を引き起こす原因として認識されてきている1)
HPeVによるSLI症例では, 一部に神経学的後遺症を残す可能性が報告されており2), 当ブログの記事でも紹介している.
今回の研究では, 小児期でのSLIや髄膜炎に対してルーティンでの髄液検体でのHPeV/EV検査を導入して, その前後での結果について評価を行なっている.


方法

・対象: イギリスのCornwallで敗血症様疾患や髄膜炎を発症した5歳未満の小児
・髄液検体のルーティンでのウイルススクリーニングの導入前後でEV/HPeV感染症と診断された数を後ろ向きに評価
・髄液検査:
 ・2012-2015年で, 細胞数増加(WBC>5/mm3)あるいは蛋白増加(蛋白>0.45g/L)があった場合, 単純ヘルペスウイルス(HSV)・水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)・EVのPCR検査をルーティーンで提出した
  ・いくらかの検体はHPeVに関しても検査を行なった
 ・2015年4月: HSV, VZV, EV, HPeVを含めた検査を導入
 ・2016年1月: 上記ウイル検査スに関して細胞数増加や生化学的検査の結果によらず提出するようになった
・ウイルスに関してはリアルタイムマルチプレックスRT-PCRアッセイを用いて検査を行なった





結果

・2012年1月から2016年12月までで789例のCSF検体が提出された
 ・検体の79.3%は生後3か月未満の小児のものであった


2012-2015年の結果(髄液検査の結果に基づいてウイルス検査を提出)
・2012-2015年では髄液検査634検体が提出された
・634検体のうち98検体(15.4%)が基準を満たしたためウイルス検査が行われた
 ・20検体(20.4%)でEVが検出され, HSV, VZVは検出しなかった
 ・54検体(55%) でHPeVに対する検査が行われたが, 検出した検体はなかった


2016年の結果(髄液検査結果によらずウイルス検査を提出)
・155検体が提出され, そのうち140検体が使用するのに十分な量があった
・EVが20検体(19%), HPeVが14検体(10%)で検出された
・HSV, VZVが検出された検体はなかった


研究期間全体での検討
・全研究期間で, EV/HPeVが検出されたうち検体のうち90.1%が3か月未満の児のものだった
2012-2015年の基準のウイルス検査提出基準を用いると, 2016年ではEVは48.1%(13/27), HPeVは78.5%(11/14)が見逃されていた可能性がある.
・2012-2015年ではEVは20例のうち11例が5-7月の間で検出されていた
・2016年ではHPeVは14例のうち12例(85.7%), EVは27例のうち13例(48%)が5-7月に検出されていた


2016年のEV/HPeV陽性例の検討
・HPeV陽性患者14例のうち, 12例(85.7%)は生後2か月未満だった
 ・EV陽性患者の年齢分布はHPeVと同様であった
・HPeV陽性患者とEV陽性患者の間で臨床症候に大きな差はなかった
 ・班状丘疹はHPeV陽性患者の方がEV陽性患者よりも多くみられる傾向があった(42.9% vs 22.2%)
・HPeV/EV陽性患者でCRP 1.0mg/dLを超えたのは36.5%のみだった
・髄液細胞検査:
 ・髄液細胞数はHPeV陽性患者よりもEV患者の方が有意に高かった
 ・HPeV陽性患者14例で髄液細胞数増加(WBC>5mm3)がみられた患者はいなかった
  ・蛋白増加は3例(21.4%)のみでみられた
 ・EV陽性患者の66%は髄液細胞数正常であった


入院期間と抗菌薬投与
・同じコホート内において, EV/HPeV陽性患者では, 病原体が検出されなかった患者と比べて以下の通りであった:
 ・平均入院期間が短かった(3.8日vs 5.9日)
 ・平均抗菌薬投与期間が短かった(2.8日 vs 4.7日)



まとめ

・HPeV/EV陽性患者では髄液細胞数や生化学的検査で正常な患者は少なくなかった(特にHPeV陽性患者はほとんどが正常)
・HPeV/EV陽性患者に対してルーティンで髄液検体でのウイルス検査を施行すると入院期間や抗菌薬投与期間が短くなるかもしれない


参考文献
1) Human parechoviruses as an important viral cause of sepsis-like illness and meningitis in young children. Clin Infect Dis 47(3):358-63
2) Cerebral imaging and neurodevelopmental outcome after entero- and human parechovirus sepsis in young infants. Eur J Pediatr 2017; 176: 1595-602

2018年11月13日火曜日

ノロウイルスによる軽症胃腸炎関連けいれんの発生率と特徴

Incidence and characteristics of norovirus-associated benign convulsions with mild gastroenteritis, in comparison with rotavirus ones. Brain Dev. 2018; 40(8): 699-706

軽症胃腸炎関連けいれん(CwG)において, ロタウイルスが原因のCwGと比べた場合のノロウイルスが原因のCwGでの特徴などを検討した韓国での後ろ向き研究


胃腸炎に伴う無熱性けいれんを起こす病気のうちで, その他のけいれんの原因がないものを軽症胃腸炎関連けいれん(CwG)と呼ばれる.

ロタウイルスワクチン導入以前, CwGの原因としてはロタウイルスがもっとも多かった(40-50%)ことが数多く報告されている1).

しかし, ロタウイルスワクチンにはロタウイルスによる胃腸炎関連けいれんを減少させることが報告されており2), 以前の韓国の研究でもロタウイルスワクチン導入後, CwGの原因に占めるロタウイルスの割合が低下していることが指摘されている3).
その一方で, 相対的にノロウイルスが最も多い原因となっていることも示されている.

今回の研究では以前に最も多い原因であったロタウイルスによるCwGと, 現在最も優位となっているノロウイルスによるCwGを比較し検討している.





方法

・2014年3月から2017年2月までの間でChonnam National University Hospital (CNUH)に入院した生後3か月から3歳までのCwG患者の診療記録を後ろ向きに分析した
・CwGは以下の項目を満たすものと定義:
 ・急性胃腸炎症状を伴う無熱性けいれん
 ・低血糖, 電解質異常, 髄液検査異常がない
 ・発達は正常
 ・脳波検査(EEG)所見は正常か軽度な異常のみ
 ・脳画像検査正常
・ノロウイルスとロタウイルスによるCwGを比較するため, 2005年3月から2014年2月までの症例も合わせて検討した





結果

最近3年でのウイルスの検出状況
・2014年3月から2017年2月までの間で42人がCwGと診断されていた
・42人のうち40人(95.2%)で便検査が施行されていた
・40人のうち32人(80%)の便検体からウイルスが検出された:
 ・ノロウイルス: 27人 (67.5%)
 ・ロタウイルス: 3人 (7.5%)
 ・アデノウイルス: 2人 (5.0%)


ノロウイルスとロタウイルスによるCwGの臨床像の比較
・140人が対象となった: (原因ウイルスと人数は以下の通りだった)
 ・ノロウイルス: 44人
 ・ロタウイルス: 26人
・どちらのウイルスによるCwGも冬(12月-2月)に多くみられた
 ・ノロウイルス: 63.6%
 ・ロタウイルス: 46.2%
・春にみられる頻度はノロウイルスの方が低かった
・全CwG患者において, けいれん発症時に嘔吐は82.9%, 下痢は85.7%でみられていた
 ・ロタウイルスによるCwGと比べて, ノロウイルスによるCwGでは嘔吐がみられていた割合が高かった(97.7% vs 80.8%)
消化器症状出現からけいれん発症までの期間はノロウイルスによるCwGの方がロタウイルスによるCwGよりも短かった(2.00±1.06日 vs 2.58±1.21日)

・けいれん群発は68.6%でみられ, ウイルス別ではノロウイルスによるCwGの時に頻度が高い傾向はみられた(p = 0.05)
 ・ノロウイルス: 79.5%
 ・ロタウイルス: 57.7%
・ほとんどの症例でけいれんの持続時間は5分未満だった


脳波検査(EEG)所見
・多くの症例ではEEG所見は正常であったが, ロタウイルスによるCwGと比較して後頭部徐波がみられる頻度はノロウイルスによるCwGで高かった(11.5% vs 34.9%)





まとめ

・CwG症例の便検体の多くからノロウイルスが検出された
・ノロウイルスが原因のCwGではロタウイルスによるものと比べて以下のような特徴があるかもしれない:
 ・春にみられる頻度が低い
 ・発症時までの消化器症状として嘔吐がみられている頻度が高い
 ・消化器症状出現からけいれん発症までの期間が短い
 ・脳波検査で後頭部徐波がみられる頻度が高い



参考文献

2018年11月11日日曜日

溶連菌性咽頭炎

はじめに

溶連菌性咽頭炎は"溶連菌"とよく呼ばれるA群β溶血性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)による咽頭炎で, 小児の代表的な細菌感染症の1つです.
溶連菌性咽頭炎は治療は単純ですが, 診断・管理などでは色々考慮すべきこともありますので, 簡単にまとめてみました.





疫学


<要約>
・5-15歳に見られやすく, 咽頭炎の20-30%を占めるが, 低年齢ではより頻度は低い
・1年中みられるが, 特に冬から春にかけて流行しやすい


 溶連菌性咽頭炎は小児や若年成人において, もっとも頻度の高い細菌性咽頭炎で1), 5-15歳の咽頭炎の原因のうち20-30%を占める2).
 2010年のメタアナリシスでは18歳未満の小児の咽頭炎のうちで溶連菌が占める割合は37%だったが, 5歳未満では24%と低かった4).
 さらに3歳未満に関しては10-14%で, さらにASO(溶連菌に対する抗体)の上昇がみられる場合に限ると0-6%と報告されている15)16).
 溶連菌性咽頭炎は1年を通してみられるもの, 特に冬から春にかけてみられやすい3).





臨床症状


<要約>
・発熱, 咽頭痛, 頭痛など様々な症状がみられる
・3歳以上では典型的な症状がみられる一方, 3歳未満では症状は非典型的であり注意が必要.

 2012年のシステマティックレビューでは, 主要な症状の出現率は以下の通りであった:5)
 ・咽頭発赤: 93%
 ・食欲不振: 62%
 ・発熱: 50%
 ・頭痛: 39%
 ・腹痛: 24%
 また, 上記の研究では約70%の症例では鼻汁や咳嗽は認めていなかった. 猩紅熱様発疹はみられる頻度は低い(8%)ものの, 特異度は高い(98%). 発疹は急性期以外でも, 発症後7日以上経過してから出現する遅発性発疹が2%程度でみられたとする報告がある7).
 ただし, 上記のような典型的な症状がみられるのは3歳以上であり, 3歳未満では非典型的であるため6), 3歳以上と3歳未満では分けて考えるのが好ましい


3歳以上
 溶連菌性咽頭炎の症状としては発熱, 咽頭痛, 頭痛, 腹痛, 嘔気・嘔吐, 頸部リンパ節腫脹などが典型的な症状がみられる.
 上述の通り, 咳嗽や鼻汁がみられないケースは多い.


3歳未満
 3歳以上とは異なり, 鼻汁や鼻閉などが目立つことがある.


急性期の合併症
・主な急性期の合併症: 扁桃周囲膿瘍, 咽後膿瘍, 化膿性頸部リンパ節炎, 乳様突起炎, 急性副鼻腔炎, 急性中耳炎, 肺炎
・急性中耳炎:
 合併頻度は低く, 3%程度という報告がある6)
 その他の急性中耳炎と比べると, 片側性が多い, 発熱や嘔吐を伴う頻度が低い, 鼓膜穿孔・乳様突起炎を合併しやすいといった特徴が報告されている8).


晩期の合併症
・主な晩期の合併症: リウマチ熱, 溶連菌感染後急性糸球体腎炎(PSAGN), post-streptococcal reactive arthritis (PSRA), 小児自己免疫性溶連菌関連精神神経障害 (Pediatric autoimmune neuropsychiatric disorders associated with streptococcal infection: PANDAS)
・リウマチ熱:
 ・咽頭炎からAGN発現までの期間は平均18日
 ・C群およびG群溶連菌性咽頭炎ではリウマチ熱は続発しない
・溶連菌感染後急性糸球体腎炎(PSAGN)
 ・咽頭炎からAGN発現までの期間は平均10日
 ・咽頭炎ではGASのM12型、膿皮症ではGASのM49型が腎炎を惹起しやすいとされている




診断


<要約>
・臨床症状や身体所見のみでは診断はできない
・診断には咽頭スワブを用いた迅速検査や培養検査が有用だが, 一般的には迅速検査がよく用いられている
・IDSAのガイドラインでは3歳未満では通常検査の適応とならないとされている


どのような場合に溶連菌性咽頭炎を疑うか
一般的には年齢や流行状況や症状, 身体所見などから総合的に判断する.
 具体的な指標としては
・ウイルス性が強く疑われる流行状況
・ウイルス性が強く疑われる症状(例: 咳嗽, 鼻汁, 嗄声, 口腔内潰瘍)
がある場合には, 可能性が低いと判断される.
 例えば, 発熱や咽頭痛がなくて咳が強く続いているような状態であれば, 溶連菌が関与している可能性はとても低いと考えられる.
 また逆に溶連菌性咽頭炎がより疑われる指標としては2012年のシステマティックレビューでは
 ・猩紅熱様発疹
 ・口蓋点状出血
 ・滲出性咽頭炎
 ・嘔吐
 ・有痛性頸部リンパ節腫脹
が示されている6)
 ただし, 症状や徴候などの組み合わせで臨床的に高い精度で診断できるかも検討しているが, 現時点で知られている方法では臨床的に高い精度で診断することはできないと報告されている6)


検査
 診断には臨床的に疑って検査を用いて診断する必要がある. 検査としては以下のものが上げられる:
・咽頭スワブを用いた迅速検査
・咽頭培養
のいずれかが用いられる.
 迅速検査は培養検査と比べると感度が低い(迅速: 70-90% vs 培養 90-95%)ものの, 速やかに結果が得られることから, 一般的な臨床現場では迅速検査が用いられていることが多いと思われる2)
 不要な検査は課題となっているが, 2018年のアメリカの研究では介入により不要な検査が23.5%減少した(64.0→40.5%)と報告している. ちなみに不要な検査の理由で1番多かったのは2つ以上のウイルス性の症状(鼻汁・咳嗽など)の存在であった13)


IDSAのガイドラインにおける検査の位置付け
米国感染症学会(IDSA)のガイドラインでは, 以下の理由により3歳未満では通常診断的検査の適応とならないとしている:2)
・3歳未満ではリウマチ熱は稀
・3歳未満では咽頭炎のうちで溶連菌が占める割合が低い
・3歳未満では典型的な症状を示すことが少ない
 ちなみに, 兄弟で溶連菌性咽頭炎と診断された人がいる, といった危険因子がある場合には考慮されるかも知れないとされている.





治療・管理


<要約>
・抗菌薬治療が必要だが, 主な目的は合併症の予防
・抗菌薬治療の第1選択はペニシリン系であり, 日数短縮だけを目的にして第2選択は選ばない
・溶連菌感染後の全例での尿検査は不要だと考えられる


治療の目的
溶連菌性咽頭炎と診断された場合には後述の通り抗菌薬で治療を行うが, 治療することにより以下に対して有益であることが知られている:9)
・有症状期間の短縮10)
・周囲への感染のリスクの軽減
・溶連菌による合併症(扁桃周囲膿瘍など)のリスクの軽減
・リウマチ熱のリスクの軽減
ただし, 無治療でも通常3-5日で症状は改善がみられるため11), 重要な治療の目的は合併症の予防である.


抗菌薬治療
溶連菌感染症に対してはペニシリン系が第1選択.
セフェム系抗菌薬の短期療法も同等の効果があることを示す報告がいくつかあり, 両者はほぼ同等と考えられている.
 小児呼吸器感染症診療ガイドライン2017では以下の理由によりペニシリン系のアモキシシリン(AMPC)を第1選択としている:
 ・AMPCよりも経口第3世代セフェム系の方が抗菌スペクトラムが広い
 ・AMPCよりも経口第3世代セフェム系の方が高価
 ・セフェム系抗菌薬ではリウマチ熱予防のエビデンスがない
 AMPC治療は10日間であることと比較してセフェム系ではより短期間(5日間)であるため, 最後まで抗菌薬を内服してくれる可能性は短期療法の方が高いという有益性はある. しかし有益性を上記の理由が上回るため, 少なくともペニシリン系が使用できる状況で経口第3世代セフェム系を選択する必要はなく, 適切とは言えない(第3世代セフェム系がペニシリン系の代わりにはならない).


反復症例での治療・管理
 5-15%の症例では短期間に繰り返すことがありますが, 治療は初期にはアモキシシリンで治療可能です. ただし2-3回繰り返している場合にはクリンダマイシンや第1世代セフェム系を考慮すべきかもしれない9). 特にクリンダマイシンではカプセルの顆粒は苦味が強いため, カプセルで内服できない場合には後者を考慮する.
また, 治療終了後に検査で除菌されたかどうかの確認は不要.


尿検査
全例(スクリーニング)で行う必要はないと考えられる.
 溶連菌性咽頭炎の罹患後2週間程度で溶連菌観戦後急性糸球体腎炎(PSAGN)と呼ばれる合併症を発症することがある. 適切な抗菌薬治療を行ってもその合併症は予防できないため, その発見目的で, 溶連菌感染後2-3週間で全例で尿検査が行われていることは少なくないと思われる.
 全例で検査する上では少なくとも以下の点を考慮すべきかと思われる:
・早期発見することの有益性はあるのか
・尿検査の時期の設定の適切性と, 尿検査後の発症例の可能性についてどのように考えるか
・軽症例をどのように取り扱うか(軽度の血尿のみの場合, 良性家族性血尿などとの鑑別の困難さ, その後のフォローの適切性)

 早期発見することの有益性はこれまで知られていないため効果があるかどうかは不明である.
 尿検査の時期の適切性については
・2週間後に尿検査 → 2週間後以降で発症する例は結局見逃すことになるのでは?(尿検査を行っていない状況と同じではないのか?)
・3週間後に尿検査 → 2週間程度で発症する例では尿検査は間に合わない(尿検査を行っていない状況と同じではないのか?)
という問題が生じると思われる.
 従って, 必要性および検査時期もいずれも曖昧な点が多いことから, 受診やコストなどの負担も考慮すれば全例でのスクリーニングは不要と考えられる.
 2017年の日本での報告では, 肉眼的血尿眼瞼浮腫を指標にすることが有用で, PSAGNに対する全例の尿検査スクリーニングは不要ではないことが示されている14).





キャリア


<要約>
・症状がみられなくなったあとも溶連菌が咽頭に持続的みられることがあり, キャリアを呼ばれる.
・有効な治療を行なっても5-25%でキャリアが生じる


溶連菌性咽頭炎は適切な抗菌薬治療により多くの症例では, 早期に検査で菌を認めなくなります. しかし一定の割合で症状は改善しても咽頭に溶連菌を持続して認める状態となることがあり, その状態はキャリアと呼ばれています.
 ある報告では有効な治療を行なったあとでも5-25%程度でキャリアが生じるとされている17).
 キャリアに対してはルーティーンでは治療は推奨されていない. 理由としては
・リウマチ熱を引き起こすリスクが極めて低い
・周囲へ感染させるリスクが低い
が挙げられる. ただし, 家族内などで感染を繰り返している場合などでは治療が考慮されることはある.
 通常は治療は不要であるため, キャリアかどうか(除菌されているかどうか)の検査も不要.
 また, キャリア状態での長期的な影響については特に報告されていない.





出席停止期間


<要約>
・抗菌薬治療後24時間するまでは出席停止
・2018年に米国では治療開始後12時間までに短縮された


溶連菌性咽頭炎では適切な抗菌薬開始から24時間経過するまでは出席停止と決められている. これは以前の研究で, 治療開始後24時間で, 多くの症例において菌がみられなくなったことによる18)
 ある研究で治療開始後12-23時間の再検査で溶連菌陽性だった患者は9%のみだったということが示されており19), 米国では治療開始後12時間に短縮された20).
 従って, 日本でも今後出席停止の期間は短縮されるかもしれない.



参考文献
1) Acute Pharyngitis. N Engl J Med 2001; 344: 205-11
2) Clinical practice guideline for the diagnosis and management of group A streptococcal pharyngitis: 2012 update by the Infectious Diseases Society of America. Clin Infect Dis 2012; 55(10): e86-102
3) Burden of acute sore throat and group A streptococcal pharyngitis in school-aged children and their families in Australia. Pediatrics 2007; 120(5): 950-7
4) Prevalence of streptococcal pharyngitis and streptococcal carriage in children: a meta-analysis. Pediatrics 2010; 126(3): e557-64
12) 小児呼吸器感染症診療ガイドライン2017
14) A群溶連菌感染後の尿検査の必要性. 日児誌 2017; 121(7): 161-5
15) Group A beta-hemolytic streptococcal pharyngitis in preschool children aged 3 months to 5 years. Clin Pediatr (Phila) 1999; 38: 357-60
16) Group A beta-hemolytic streptococcal pharyngitis in children younger than 5 years. Isr J Med Sci 1994; 30: 619-22
18) Duration of positive throat cultures for group A streptococci after initiation of antibiotic therapy. Pediatrics 1993; 91(6): 1166-70

2018年11月7日水曜日

12歳未満の小児のゾフルーザ(バロキサビルマルボキシル) Q&A -第1版(2018年11月7日版)-

Question

・ゾフルーザとは何ですか
・どのような効果がありますか
・これまでの薬と比べてどのようなメリットがありますか
・他の薬より早くから効果が出ると聞いたのですがどうでしょうか
・問題点はありますか
・学会ではどのようなスタンスでしょうか
・海外ではどのような状況でしょうか
・まとめるとどんな感じなのでしょうか
・個人的にはどのような課題があると思われますか





ゾフルーザとは何ですか

ゾフルーザはバロキサビルマルボキシルと呼ばれる新しい抗インフルエンザ薬の商品名です.
これまで使用されてきた抗インフルエンザ薬(タミフルなど)と異なるメカニズムでウイルスの増殖を抑制する薬剤です1).

メカニズムについて
 インフルエンザウイルスは細胞に感染するとウイルスの成分(蛋白やRNA)が細胞内に侵入します. 細胞内でウイルスRNAの転写が行われ, mRNAの合成とウイルスゲノムRNAの複製が行われます. 
 ゾフルーザ(Xofluza)はウイルスのポリメラーゼのうちPAのキャップ依存性エンドヌクレアーゼを阻害することによりmRNAの合成(mRNA synthesis)を阻害して, 結果としてウイルスの増殖が抑制されます.2)3)

(模式図は参考文献2より引用)
(注: 信頼できる情報源が英語版しか発見できなかったため英語版で掲載しています. 日本語版がみつかれば差し替えます)
「Cap-Dependent Endonuclease Inhibitor」の画像検索結果







どのような効果がありますか

12歳未満の小児に対して投与した場合の研究については, これまで論文では報告されていません.
12歳未満の小児への投与データについて知り得る情報は, 製薬会社から発表されている医薬品インタビューフォームに掲載されているもののみです.4)

12歳未満の臨床試験のデータは以下の通りです.
・薬を飲んでいることがわかっている102例が対象
・結果: (体重(症例数): 症状改善までの時間(中央値))
 ・体重40kg以上 (8例): 60.9時間
 ・体重20kg以上40kg未満(65例): 45.6時間
 ・体重10kg以上20kg未満(29例): 39.1時間

では, 効果はどうなのでしょうか. 実はよく効果はわかりません.
なぜなら薬を飲んでいない人やその他の薬を飲んでいる人がどれくらいで改善したかわからないからです.

(参考) 12歳以上の場合には,
・薬を飲んでいない人よりは約1日症状が改善
・タミフルを飲んでいた人と症状の改善は同程度
と報告している研究はあります1)





どのようなメリットがありますか

上記の参考で紹介した12歳以上の報告では, 薬を飲んでいない人やタミフルを飲んでいる人と比べてウイルス排出期間が短かったことが報告されています.
人からインフルエンザウイルスが排出され, そのウイルスが他の人にうつることで感染が引き起こされます. つまり, ウイルスが排出されている期間が短い方が, 人に感染させる期間も短い可能性が考えられます.
しかし, あくまでの可能性であって, 実際に感染させることを早期に抑えているかは確かめられていません.

また, 「飲み薬で1回で済む」というのもある程度魅力的ですが, あくまでもある程度です.効果や副作用などを総合的に判断して, 他の薬剤と同等以上であった場合にはじめて投与期間の短縮ができるかを考慮します.





他の薬より早くから効果が出る・効果が高いと聞いたのですがどうでしょうか

早くから効果が出るか
これまでの薬よりもウイルス増殖の早い段階で抑制するのは事実です2).
ただし, ウイルス増殖を早い段階で抑制することと症状が早い段階で良くなるかは別の問題です.
実際, 臨床試験では早い段階から良くなることは示されていないため, 「症状改善に」早い段階から効果が出るというわけではありません.

効果が高いか
上述に通り, 12歳未満では効果があるか, 効果が他の薬と比べてどうなのかということはわかりません.
12歳以上では, 症状を早く治すという点ではタミフルと同じ程度であり, 明らかに効果が高いことを示したデータはありません.





薬を飲んだお子さんが1日で治ったという話を聞いたことがありますが, どうなのでしょうか

インフルエンザの症状は個人差が大きいです.
例として, ゾフルーザの医薬品インタビューフォームから図を引用します.4)
この図は12歳未満でゾフルーザが投与されたインフルエンザの患者さん103人のうち, 時間経過でどれくらいの割合で症状が残っていた人がいたかということをあらわした図です.
 
図で示している通り, 治療開始から比較的すぐに症状が改善している児もいれば, 改善するまでの時間がかかっている児もいます. 早く良くなった子は, あくまで全体の一部です.
このような状況は薬を飲んでいない, あるいはタミフルなどの従来の薬を投与されている場合でも同じような傾向がみられます. 従って, 薬を飲んでいない子でも1日で良くなることはあります.
つまり, ゾフルーザの効果で早く良くなったかはわからないので, それだけで効果があるとは言えません.





学会などではどのようなスタンスでしょうか

日本小児科学会は「2018/2019 シーズンのインフルエンザ治療指針」を発表しています.5) その治療指針では, 治療の選択薬は従来の4種類のみ(タミフル・リレンザ・イナビル・ラピアクタ)としており, ゾフルーザは選択肢に含まれていません.
ゾフルーザに関しては「同薬の使用については当委員会では十分なデータを持たず、現時点では検討中である。」と記載されています.

また, 日本感染症学会は「キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬(Cap-Dependent Endonuclease Inhibitor)Baloxavir marboxil (ゾフルーザ®)について」を発表していますが, そちらではゾフルーザについてのスタンスは明確には言及していません.6)





問題点はありますか

ゾフルーザではウイルス変異株についての問題点が指摘されています.4)6)
上記の12歳未満の小児を対象とした臨床試験で, ゾフルーザ投与患者でウイルスの変異が評価できた77例中18例(23.3%)でアミノ酸変異株が認められました. また別の成人での臨床試験では9.7%に変異が認められました.
これらのアミノ酸変異(正確にはI38T)が起こると薬が効きにくくなる(感受性が約50倍低下)ことが確認されています.
従って, ゾフルーザでは効きにくくなるウイルスが, 特に小児において認められやすい可能性が示されています.

変異株ができると, 症状が再び出てきたり, ゾフルーザが効きにくいウイルスが周囲に広がる可能性がありますが, あくまで可能性です.
実際, 症状への影響, 周囲への影響などについてはデータはないため, それらへの影響はわからないというのが現状です.





海外でどのような状況でしょうか

世界に先駆けて日本で2018年3月に販売が開始されました. その後, FDA(米国食品医薬品局)が米国においてゾフルーザを承認しましたが, 対象は12歳以上のみでした.7)
FDAのリリースしている記事では12歳以上としている理由に関しては言及されていないですが, 上記の通り12歳以上と12歳未満でわけて臨床試験が行われており, 12歳以上でしか有効があることを示すデータがないために12歳以上に限定されていると推測されます.

また, 製薬会社は台湾でも申請を行なっていますが, 台湾では12歳以上のみを対象として申請しています.8)

その他, 私の知る限り, 日本以外では12歳未満での使用が承認されている国・地域はないと思われます.





まとめるとどんな感じなのでしょうか

日本では12歳未満でも使用することはできます. ただしデータが乏しいため症状を改善させる効果があるかは不明です. 一方で, 耐性ウイルス(低感受性ウイルス)が比較的誘導されやすい(特に小児で)可能性が指摘されています.
そういったこともあり, 日本小児科学会のインフルエンザ治療指針ではゾフルーザは治療薬の選択肢に含まれていません.
効果があるかわからないことが関連しているのかもしれませんが, 米国では12歳以上でのみ承認されています. また同じ製薬会社が台湾では12歳以上でのみ申請しています.
以上のことから, 現時点では12歳未満の小児に対して使用されることは好ましくないと思われます. もし投与されるような場面があれば, 上記のようなことを把握した上で考慮した方がよいのでは思います.

12歳以上に関しては
・症状を改善させる効果: タミフルと同等
・ウイルス排出を短縮させる効果: 従来の薬よりは効果がある
・周囲への感染防止効果: あるかもしれないが, 不明
・費用: これまでの薬剤よりは高い
という状況だと思われます(耐性ウイルス(低感受性ウイルス)の問題は12歳以上でも同様にあります).





個人的にはどのような課題があると思われますか

ここからは一般小児科医(および大学院生)の個人的な考察です.
上記であげた図を再掲します2)
「Cap-Dependent Endonuclease Inhibitor」の画像検索結果

ここで気になるのは, ウイルスゲノムRNAの複製は保たれているということです. 確かにmRNA合成が阻害されることによって最終的なウイルス増殖は抑制されるとは思います.
しかしウイルスゲノムRNAが複製されると細胞内での自然免疫反応を引き起こされる状況には変わりはありません.
Figure 2
(参考Fig. 参考文献9より引用)
細胞内では, ウイルスなどの非自己RNAを認識するタンパクがあります. インフルエンザウイルスのRNAはRIG-Iというパターン認識受容体(PRR)によって認識されます.
ウイルス由来のRNAがRIG-Iによって認識されることによってインターフェロンやその他サイトカインが誘導されます.

ウイルス増殖を抑制するという点ではインターフェロン産生が保たれている方が有利だと思いますが, 逆に発熱などの症状はそれらの反応の影響を受けている可能性もあると思います. ウイルス排出と臨床症状の改善の効果で差がみられるのは, こういったことの影響も一部受けているのではないかと個人的には考えています.
(もっと詳しい方がいらっしゃれば是非教えていただけると幸いです)



参考文献
1) Baloxavir Marboxil for Uncomplicated Influenza in Adults and Adolescents. N Engl J Med 2018; 379: 913-23
2) Shionogi’s growing anti-infectives portfolio. Shionogi Pharmaceutical Research Center
7) FDA approves new drug to treat influenza. FDA News Release