2020年4月20日月曜日

家庭内での父親の喫煙と受動喫煙を避ける行動の, 児の受動喫煙に与える影響についての分析

背景

・受動喫煙は成人のみならず小児においても様々な健康問題を引き起こすことが知られている.
・小児と関連する主な問題としては喘息発作の頻度増加や呼吸器感染症, 中耳疾患, 乳幼児突然死症候群が知られている1).
・小児, 特に若年小児においては家にいる機会が多いことから, 家庭内が重要な受動喫煙する環境であると思われる.
・家庭内での家族の喫煙状況と, 受動喫煙を避ける行動がどの程度児の受動喫煙に影響を与えるかははっきりしていない.
・今回の研究では家庭内での父親の喫煙と受動喫煙を避ける行動, および実際の児の受動喫煙の度合いについて分析している.




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Wang M, Suen Y, Chen SS, et al. Paternal Smoking and Maternal Protective Behaviors at Home on Infant's Saliva Cotinine Levels. Pediatr Res 2018; 83(5): 936-942.

方法

・香港における4つの主要な母子健康センターで, 18か月以下の児がいる喫煙しない母親(平均年齢32.6歳)を集め, 最終的に675人が参加した.
 ・家族の喫煙に関する情報などはすべて記入してもらった質問表から収集した
・389人の児から唾液サンプルを採取してコチニン値を測定した
 ・コチニンはニコチンの代謝産物である
・家族の喫煙状況は3つのカテゴリーに分けた:
 ・家族内に喫煙者がいない
 ・家族内に喫煙者はいるが受動喫煙はない(父が喫煙するが家では喫煙しない)
 ・家族内に喫煙者がおり, 児に受動喫煙している(父が家で喫煙する)





結果

・児の唾液のコチニン値は1.07ng/mLであった
・喫煙している家族がいない児と比べて喫煙している家族がいて受動喫煙している児ではコチニン値は有意に高かった.
児の近く(1.5m以内)での父の喫煙はより高いコチニン値と関連していた
 ・キッチンやバルコニーなどでの喫煙といった回避行動でも減らなかった
・父が3m以上離れて喫煙している場合でさえ, 家族が喫煙していない児よりもコチニン値は有意に高かった
・母が受動喫煙を避けようとする行動や家でのたばこフリーのルールはコチニン値低下と関連していないようであった





まとめ

・家庭内で受動喫煙機会や, 児の近くでの喫煙は, 児の受動喫煙の度合いをより強めるかもしれない.
・家庭内で喫煙者がいる場合, 家庭内に受動喫煙を避けようとする行動やルールでは児の受動喫煙の影響は小さくできないかもしれない



<参考文献>
1) Centers for Disease Control and Prevention. Health Effects of Secondhand Smoke.

2020年2月29日土曜日

小児における市中肺炎回復後の経過観察時の胸部X線所見についての分析

背景

・市中肺炎は小児においてよくみられる下気道感染症の1つである.
・市中肺炎は通常発熱や呼吸器症状などの臨床症状と, 胸部X線などの放射線学的所見に基づいて診断される.
・小児の合併症のない市中肺炎では通常胸部X線写真における異常所見に基づいて診断される.
今回の研究では市中肺炎で入院した児における, 退院後の胸部X線の役割について分析している




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Virkki R, Juven T, Mertsola J, et al. Radiographic Follow-Up of Pneumonia in Children. Pediatr Pulmonol 2005; 40(3): 223-227.

方法

・フィンランドでの3年間の前向き試験
・対象: 1993年1月1日から1995年12月31日まで市中肺炎で入院した児296人のうちで, 基準を満たした196人
・肺炎の診断基準: 以下のいずれもが同時に存在することに基づいて診断された:
 ・胸部X線での浸潤影
 ・発熱(>37.5 ℃) and/or 呼吸器症状
・入院時に正面・側面の2方向で胸部X線撮影を行い, X線写真は後ろ向きに3人の小児放射線科医によって個別で読影された
・退院後3-7週でも胸部X線撮影を行なわれ, X線写真は同様に3人の小児放射線科医が読影された
・退院後8-10年での状態について診療記録の分析とアンケートを行い分析した
 ・前者は196人中182人, 後者は196人中195人に対して行なった





結果

・児の年齢の中央値は2.4歳であった
・可能性がある病因は84%で特定された:
 ・細菌性が20%, ウイルス性が33%, 細菌性/ウイルス性の混合が31%であった
 ・頻度の高い病原体としては肺炎球菌(37%), RSウイルス(31%), ライノウイルス(18%)が挙げられた

・退院後3-7週での胸部X線で30%の児に異常所見がみられた:
 ・主な所見: 単独の間質性浸潤影(67%), 無気肺(47%), リンパ節腫脹(28%)
・特定の病原体や血液検査所見と, 経過観察時でのX線所見の間で明らかな関連性はみられなかった
経過観察時での胸部X線所見の異常がみられた児で治療が変わった児はおらず, その後胸部X線撮影は行われなかった.

・8-10年後の経過観察では, 194人で分析が行われた
・26人が新たな肺炎に罹患しており, 7人が喘息, 6人が異なる基礎疾患に罹患していた.
 ・いずれの疾患も経過観察時の胸部X線所見と明らかな関連性はなさそうであった.





まとめ

・肺炎で入院した児において, 退院後3-7週の胸部X線でも30%で異常所見がみられた
・退院後3-7週の胸部X線での異常所見の存在はその後の治療方針や長期的な予後に影響はなさそうであり, 問題なく回復した市中肺炎での経過観察においてルーティンでの胸部X線は不要であろう.





関連記事

・肺炎が疑われた児において, 胸部X線の陰性的中率は極めて高かった(Susan CL, et al. Pediatrics 2018)

2020年2月10日月曜日

ヒトメタニューモウイルスによる重症肺疾患のかかりやすさには母の喘息が関連しているかもしれない.


はじめに

・ヒトメタニューモウイルス(human metapneumovirus : hMPV)は2001年に発見されたウイルスで, 主に小児において発熱や鼻水, 咳などの起こす呼吸器感染症の原因の1つとして知られている.
・hMPVはパラミクソウイルス科のウイルスであるが, 同じパラミクソウイルス科のウイルスであるRSウイルス(RSV)と似た臨床像がみられる
・一方で, hMPVはRSVとはやや異なる特徴もあることが知られるようになってきている.
・hMPVでは時に急性細気管支炎や肺炎を引き起こし, 重篤となりえることもある.
・今回の研究では, 重症な臨床像と関連する因子について分析している.





Role for Maternal Asthma in Severe Human Metapneumovirus Lung Disease Susceptibility in Chilndren. J Infect Dis 2020 Jan 22.

ヒトメタニューモウイルスによる重症肺疾患にかかりやすくなる要因について分析したアルゼンチンの研究

方法

・前向き多施設アクティブサーベイランス研究
・研究期間: 2011-2013年
・場所: Buenos Airesにおける低所得地域

・対象となった児: 重症下気道感染症(LRTI)に罹患し入院した2歳未満の児
 ・以下の1つ以上満たすものをLRTIの定義:
 ・突然発症した咳嗽, wheezing, 陥没呼吸や聴診でcracklesが聴取される
 ・発熱の有無は問わない
 ・救急外来到着時にroom airで酸素飽和度(SpO2)<93% もしくは酸素投与を必要とする
 ・以下の1つ以上満たすものを重篤な疾患(Life-threatening Disease : LTD)と定義した:
  ・入院時SPO2≦87%
  ・人工呼吸管理やICUへの入院を必要とした

・鼻咽頭吸引液を入院時に採取して, リアルタイム逆転写PCR (RT-PCR)を用いてhMPVの検査を行った
・同時にRSウイルス(RSV), ヒトライノウイルス(hRV), インフルエンザウイルスの検査を行った.




結果
・4045人が基準を満たし, 最終的に3947人が研究に参加した
・3947人中383人でhMPVが検出された
 ・383人中75人(20%)はRSV, 64人(17%)はhRV, 1人はインフルエンザも重複感染していた
 ・6人はhMPV, RSV, hRVに同時に感染していた
・84%は入院時に1歳未満であった(平均年齢7.4か月)
・入院例のうち10.2%はLTDであった(平均年齢 6か月)

母に喘息がない場合と比較して母に喘息がある場合, hMPVに感染している児ではLTDとなる割合は高かった
 ・RSVやhRV, インフルエンザAでは明らかな差はみられなかった




まとめ

重症なhMPVによる下気道感染症で入院した2歳未満の児において, 母に喘息の既往のある児ではより重症な肺疾患となりやすいかもしれない.



以前にNoteでヒトメタニューモウイルスについてのQ&Aを記事にしていますので, そちらも参考にして頂ければと思います.

2019年12月14日土曜日

小児科の役立つかもしれないリンク集 (工事中)

(工事中)

総合

小児科用語集 (日本小児科学会)
・普段あまり使わない用語が適切であるかの確認や, 英語を日本語訳するときに適切な日本語を選択する場合に役立つことがある

小児臨床検査基準値 (国立成育医療研究センター)



感染症

Pediatric Treatment Recommendations (CDC)
・CDCのAppropriate Antibiotics Use (抗菌薬適正使用)内のページ
・小児の一般的な感染症における疫学・診断・管理についてまとめられている

抗微生物薬適正使用の手引き第二版 (厚生労働省)
・「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」に基づき、医療機関における抗微生物薬の適切な処方を支援することにより, 薬剤耐性を抑制することを目的として作成されたもの
・第二版から生後3か月以上から学童期未満の乳幼児の急性気道感染症, 急性下痢症, 急性中耳炎に関わる内容が新たに追記されている



予防接種

日本小児科学会の「知っておきたいわくちん情報」(日本版Vaccine information statement (VIS)) (日本小児科学会)
・予防接種の総論・各論のまとめ
・一般の方を意識して作成されているが, 小児科医など予防接種業務に携わる人でも十分役立つ

Epidemiology and Prevention of Vaccine-Preventable Diseases (Pink Book) (CDC)
・ワクチン接種で予防できる疾患と予防接種の情報がまとめ
・最新版は第13版 (2015年版)


ガイドライン

Minds ガイドラインライブラリ
小児慢性機能性便秘症診療ガイドライン
小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2017
小児けいれん重積治療ガイドライン2017
小児急性脳症診療ガイドライン2016
小児急性中耳炎診療ガイドライン 2018年版


2019年10月15日火曜日

2015年の熱性けいれん診療ガイドラインの発表前後での診療方針の変化

はじめに

・熱性けいれんは小児で最もよく経験されるけいれん性疾患である.
・日本では日本小児神経学会が2015年に熱性けいれん診療ガイドラインを作成している.
・熱性けいれんはよく経験される疾患であるものの, 日本ではガイドラインが1998年に発表されており(「熱性けいれんの指導ガイドライン」), それ以降長い間作成されてこなかった..
・2015年に新たな熱性けいれんに対するガイドラインが作成されたことで, ガイドラインに基づいた診療が行われ, その結果として診療方針に変化がみられたと考えられる.
・今回の研究では, 2015年のガイドライン発表前後での, 主に単純型熱性けいれんに対する診療方針について分析している.




Tanaka M, et al. The effect of the guidelines for management of febrile seizures 2015 on clinical practices: Nationwide survey in Japan. Brain Dev 2020; 41(2): 28-34.


日本における熱性けいれん診療ガイドラインと診療方針の変化について分析した研究

方法

・2016年9月に全512の小児科研修施設と全47都道府県の小児科医会にアンケートを送付した
 ・研修施設では幅広い年齢の3人の小児科医が回答した
 ・都道府県別の小児科医会は, 会長が10 人の開業医を選別した

・アンケートに関しては2パートに分けられた
 ・1つ目は熱性けいれん診療ガイドライン2015について知っているか・使用しているかについて
 ・2つ目は2013-2014年と2016年のそれぞれにおける熱性けいれんの管理方針について
・アンケートでは以下のような質問を行った:
 ・救急外来での初回単純型熱性けいれんの小児に対する腰椎穿刺, 血液検査およびジアゼパム坐薬の使用
 ・2, 3回の単純型熱性けいれんの既往のある2歳の小児における有熱性疾患罹患時の予防的ジアゼパム坐薬の使用
  ・再発の予測因子は不明の設定としている




結果

・1327 人(66.2%)から回答があった (そのうち977人が研修施設所属)
 ・1327人中1002人(75.5%)が小児科専門医であった
・1225人(92.4%)が熱性けいれん診療ガイドライン2015について知っていた
・726人(54.7%)が医療機関において熱性けいれんの患者の管理はガイドラインに基づいて行われていると回答した


管理方針の変化
・2013-2014年と2016年で, 救急外来での初回単純型熱性けいれんの小児に対する腰椎穿刺, 血液検査およびジアゼパム坐薬の使用割合はいずれも低下していた: (2013-2014年 → 2016年)
 ・腰椎穿刺: 2.0% → 1.2%
 ・血液検査: 61.3% → 53.1%
 ・ジアゼパム坐薬: 51.9% → 36.7%

・それぞれの回数の熱性けいれんのエピソードを持つ児に対して, ジアゼパム坐薬の使用を”強く推奨する”, あるいは”推奨する”と回想した割合は, 2013-2014年と比べて2016年にかけて低下していた:
 ・過去2回の既往あり: 45.7% → 31.0%
 ・過去3回の既往あり: 82.4% → 65.0%




まとめ

・熱性けいれんガイドライン2015は実臨床における熱性けいれんの管理に影響を与えているようである
・ジアゼパム坐薬の適応は過去のエピソードの回数のみでは推奨していないものの, 3回以上のエピソードがみられた患者に対しては使用される頻度は低くなかった




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補足
ジアゼパム坐薬(ダイアップ®)の適応
 熱性けいれん診療ガイドライン2015では, ジアゼパム坐薬の以下の適応基準を推奨している:
 遷延性発作(持続時間 15 分以上) または
または
次の i~iv のうち,二つ以上を満たした熱性けいれんが二回以上反復した場合:
i. 焦点性発作または 24 時間以内に反復する
ii. 熱性けいれん出現前より存在する神経学的異常,発達遅滞
iii. 熱性けいれんまたはてんかんの家族歴
vi. 12 か月未満
v. 発熱後 1 時間未満での発作
iv. 38℃未満での発作
 また, 地域の治療体制や家族の不安・心配も考慮するとしている.

 この基準に基づけば, 単純に熱性けいれんのエピソードが多いだけでは推奨された適応基準を満たさないことになる.
 もちろんけいれんのエピソードが多いことを理由にして予防的なジアゼパム坐薬の処方が考慮されることもあるかもしれず, それがすべて否定されるわけではない. 重要なことは回数のみで基準を作ってルーチンで予防的にジアゼパム坐薬を処方するのではなく, 適応基準を含めた総合的な判断のもとで個々に処方するかどうかを判断することの方が望ましいということである.

2019年10月4日金曜日

急性リウマチ熱および急性リウマチ熱の心炎について分析したイタリアでの後ろ向き研究

はじめに

・急性リウマチ熱(acute rheumatic fever: ARF)は溶連菌性咽頭炎の有名な合併症の1つとして知られている.
・溶連菌性咽頭炎にペニシリン10日間投与がARF予防に効果的であることが知られ, その治療が確立されてからARFに罹患する患者は非常に少なくなった.
・ただしARF患者がまったくいなくなったわけではなく, むしろ患者が少なくなったことによって診断に至るまでに遅れが出たりするリスクがあると考えられる. ARFでは様々な臨床像がみられ, 特に心炎は重要な臨床像の1つである.
・今回の研究では, 高所得国であるイタリアにおける, 近年の急性リウマチ熱を, 特に心炎に着目して検討している.


Carditis in Acute Rheumatic Fever in a High-Income and Moderate-Risk Country. J Pediatr 2019

近年での急性リウマチ熱(acute rheumatic fever: ARF)における心炎について分析したイタリアでの研究

方法

・2003年1月から2015年9月までにARFと診断された患者の単施設後ろ向き研究
・対象患者: 4-15歳
・ARFが疑われた患者では包括的な心臓の精査が行われた:
 ・身体診察
 ・心電図検査(ECG)
 ・心臓超音波検査


診断
・ARFの診断:
   ・2015年以前に受診した患者では1992年のJonesの基準に診断していた
 ・2015年のJonesの基準はその後の診断で用いていた
・心炎の診断: 以下の1つ以上を満たすものと定義し:
 ・新たな病的な心雑音
 ・心臓超音波検査での病的な弁逆流




結果

・98人(そのうち男児が63.3%)の患者が研究に登録された
・診断時の平均年齢は8.81±3.04歳であった
・ARFの症状出現から診断までの期間は0.98±0.85か月であった

・入院時, 咽頭培養は19.8%で陽性, 64.8%が陰性であった(15.4%は実施していない
・98人中59人(60.2%)に咽頭感染症の既往があり, そのうち48人(81.3%)で抗菌薬投与が行われていた
・投与されていた抗菌薬の種類:
 ・ペニシリン: 54.1%
 ・マクロライド: 16.7%
 ・セファロスポリン: 8.5%
 ・マクロライド/セフォロスポリン併用: 4.2%
 ・その他の組み合わせの治療: 14.6%
抗菌薬治療の平均期間は5.9±3.1日であった
 ・マクロライド系を除くと, 6.2±2.5日であった
・抗菌薬投与を受けていた48人のうち28人(58.3%)ではその後に心炎を発症していた


心炎について
・診断時, 57.1%で心炎を発症していた
・心炎を発症していた患者では以下のような臨床所見が併存していた:
 ・関節炎: 57.1%
 ・輪状紅斑: 10.7%
 ・舞踏病: 21.%
・26.8%では心臓超音波検査でのみ異常がみられた心炎であった

・僧帽弁逆流は87.6%でみられた:
・軽度: 36.7% / 中等度: 32.7% / 重度: 30.6%
大動脈弁逆流は64.3%でみられた:
・軽度: 63.9% / 中等度 27.8% / 重度: 8.3%
・51.8%の患者では大動脈弁逆流と僧帽弁逆流が併存していた




まとめ

・溶連菌性咽頭炎における急性リウマチ熱の予防方法は確立されているものの, 未だに発症する患者は存在する
・発症患者で投与されていた抗菌薬の期間は短い傾向があり, 急性リウマチ熱発症と関連があるかもしれない
・ARF患者の約半数で心炎がみられ, 多くの患者で弁逆流が認められた

2019年9月26日木曜日

小児のインフルエンザに対するバロキサビル(ゾフルーザ®)投与の安全性と転帰の検討

はじめに

・ゾフルーザはバロキサビルマルボキシル(Baloxavir marboxil)と呼ばれる新しい抗インフルエンザ薬の商品名である.
・これまで使用されてきた抗インフルエンザ薬(タミフルなど)と異なるメカニズムでウイルスの増殖を抑制する薬剤である.
・2018年3月に販売開始となり, 小児においても10kg以上であれば使用可能である.
・販売は承認されているものの, これまで12歳未満の小児で効果を確認した研究はこれまで発表されておらず, 効果は不明である.
・その他のデータについても12歳未満の小児では特にデータが乏しい.
・ゾフルーザはアメリカなど他の国・地域でも承認されているところはあるが, 本ブロクの著者の知る限りいずれも12歳以上のみである.


・今回は以下の文献について紹介する.

Baloxavir marboxil in Japanese pediatric patients with influenza: safety and clinical and virologic outcomes. Clin Infect Dis. 2019 Sep 20

小児のインフルエンザに対するバロキサビル投与の安全性と臨床・ウイルス学的転帰を分析した日本での研究

方法

・日本で行われた2016-2017年シーズンにおける小児科外来での前向きオープランラベル多施設研究
・すべての患者でバロキサビルの単回投与が行われた
 ・投与量は患者の体重に基づいて決定された


患者の条件
・年齢: 1歳以上12歳未満
・体重: 5kg以上
・体温38℃以上の発熱とインフルエンザ迅速検査陽性によってインフルエンザと診断された患者
・7歳以上の場合には中等度以上の呼吸器症状(咳嗽や鼻汁・鼻閉)が1つ以上ある場合に研究に登録された
・発症(最初に体温が37.5℃以上となった時)からスクリーニングまでの時間は48時間以内であった


評価方法
・安全性の評価については, 有害事象(adverse events: AEs),の発生率と重症度, 治療関連のAEs, バイタルサイン, 臨床検査で評価した
・体温測定は第3病日までは1日4回, 第4-14病日は1日2回(朝夕)に行なった
・咳嗽や鼻汁・鼻閉の重症度の評価は第9病日までは1日2回(朝夕), 第10-14病日は1日1回(夕)行なった
・ウイルス学的検査を行うために鼻咽頭スワブ検体を第1, 2, 3, 4, 6, 9病日に採取した
・血清でのhemagglutinin inhibition (HAI)抗体検査は第1, 15病日に行なった


評価項目
・主要臨床エンドポイント: 投与から改善までの時間
・改善は以下の定義を満たして, かつ21.5時間以上続いた場合をさす
 ・咳嗽と鼻汁・鼻閉の両者がないか軽度
 ・腋窩で測定した体温が37.5℃未満

・上記以外でも以下について評価を行なった
 ・ウイルス検出が最初に認めなくなる, および持続的に認めなくなるまでの時間
 ・発熱がみられなくなるまでの時間
 ・再発熱
 ・インフルエンザ関連合併症の発生率


ゾフルーザ低感受性ウイルスの評価
・ゾフルーザが低感受性となるPA/I38X置換ウイルスの検出のために治療前後のスワブ検体で評価を行なった




結果

・108人が研究にと黒くされ, 107人でバロキサビルが投与された
 ・107人中3人ではRT-PCRでインフルエンザ陰性であったために除外された
・患者の年齢の中央値は8歳
・83.7%がインフルエンザA (H3N2)ウイルスであった
・84.6%で発症後24時間以内に治療が開始された


有害事象
・37人(34.6%)の患者で49件のAEsが報告された
・最も多いAEsは消化管障害(15.0%)で, 8人(7.5%)で嘔吐がみられた
 ・その他の有害事象の発生率は比較的低かった


臨床的評価
・改善までの時間の中央値は44.6時間(95%信頼区間[CI]: 38.9-62.5時間)であった
 ・81.6%の患者では治療開始後120時間までには改善していた
・改善までの時間はインフルエンザBとインフルエンザA (H3N2)で同等であった
・発熱がみられなくなるまでの期間の中央値は21.4時間(95%CI: 19.8-25.8時間)であった
・第3, 4病日以降での再発熱の発生率は約10%でみられた


ウイルス学的評価
・バロキサビル投与から持続的なウイルスが検出しなくなるまでの期間の中央値はインフルエンザAよりもインフルエンザBの方が長かった(24.0時間 vs. 144.0時間)


ゾフルーザ低感受性ウイルスの評価
・77人で治療前後でのPA/I38X置換ウイルスについての評価を行うことができた
 ・治療前では変異ウイルスが検出された患者はいなかった
 ・最後に陽性となった検体においてPA/I38T/M置換ウイルスは23.4%で検出された
  ・第6病日が10人, 第9病日が8人
・PA/I38/M置換ウイルスがみられた患者では, みられなかった患者と比べて以下のような特徴がみられた:
・ウイルスが持続的にみられなくなるまでの期間の中央値は長かった(180.0時間 vs 24.0時間)
・第3病日でのウイルス価の上昇がみられた割合が高かった(72.2% vs 13.6%)
・改善するまでの期間の中央値が長かった(79.6時間 vs 42.8時間)
・発熱がみられなくなるまでの時間が長かった(29.5時間 vs 20.8時間)
 ・治療後72時間以降での一過性の発熱と症状の発生率が高かった(23.5%と37.5% vs 8.5%と20.5%)
・PA/I38T/M置換ウイルスは以下の患者ではより出現率が高かった:
・ベースラインでのHAI抗体価<40(HIA抗体価≧40と比べて)
・5歳以下(それより年長の児と比べて)




まとめ

・投与された児のうち32.4%で有害事象がみられ, そのうち消化器障害(特に嘔吐)の頻度が高かった
・ゾフルーザに低感受性のウイルスは23.4%で検出された
・ゾフルーザに低感受性のウイルスが検出された患者では, ウイルスが検出されなくなるまでの期間が長くなり, 症状改善までにも時間を要するかもしれない.
・ゾフルーザの効果については今回の研究では評価されておらず, 効果については不明なままである.