2020年12月10日木曜日

小児多系統炎症性症候群(MIS-C)における皮膚粘膜症候

コロナウイルス感染症2019 (Coronavirus disease 2019 :COVID-19)は依然として日本でも広がりをみせており, それに伴って小児例も増加しているようである. 

ただ一般で知られている限りでは, 小児においてはこれまで重症例はほとんどなく, 日本では小児多系統炎症性症候群(Multisystem Inflammatory Syndrome in Children : MIS-C)の症例も明らかなものではこれまで報告されていない.
ただ患者数の増加に伴って稀ながら日本でもMIS-Cが発生する可能性はあるため, 今後も注意が必要であり, 知見を深めておいても損はないだろう.

MIS-Cに関しては数多くの報告されることで臨床的特徴が徐々に知られるようになってきた.

その中でも皮膚粘膜症状がみられやすいというのもそのうち1つであり, 「川崎病と類似した」と初期の頃に表現された理由の1つだろう.

これまでのまとまった報告でも皮膚粘膜症状/徴候について発生頻度などは報告されていた(*1, *2)が, 詳細についてはわかっていないことも多い. そんなMIS-Cの皮膚粘膜症候に焦点を当てて研究を行ったのがJAMA DermatologyのBrief Reportに掲載された今回の報告である.




Young TK, Shaw KS, Shah JK, et al. Mucocutaneous Manifestations of Multisystem Inflammatory Syndrome in Children During the COVID-19 Pandemic. JAMA Dermatol. 2020 Dec 9.
(COVID-19パンデミック中での小児における多系統炎症性症候群の皮膚粘膜症候)



2020年の4月1日から7月14日まででニューヨーク市の2病院に入院しMIS-Cと診断された後ろ向き研究である.
診断基準としてはCDCの基準が用いられている(*3).


分析対象となったのは35人で, そのうち25人の児がMIS-Cの基準を満たした症例で, 10人の児はSARS-CoV-2の感染を示す検査所見がなくMIS-Cの可能性がある症例(probable MIS-C case)として含まれた.
それぞれの年齢の中央値は3歳(範囲: 0.7-17歳), 1.7歳(範囲, 0.2-15歳)である.


全体のうちで29人(83%)に皮膚粘膜所見がみられ, 主として以下のような所見がみられたようである:
・結膜充血: 21人(60%)
・手足の紅斑: 18人(51%)
・口唇充血: 17人(49%)
・口唇のひび割れ: 13人(37%)
・眼周囲の紅斑と浮腫: 7人(20%)
・いちご舌: 8人(23%)
・頬部の紅斑: 6人(17%)

さらにそれよりも頻度は多様な皮膚所見も報告されている.
また, 皮膚粘膜症状は発熱が先行した症例(19/29)では発熱してから平均2.7日後に発現している一方, 皮膚粘膜症状が発熱に先行した症例も存在するようである.

この研究では34人が外来で経過観察されており, そのうち9人で膜様落屑がみられていた.

また皮膚粘膜症候は3歳未満と3歳以上で明らかな違いはなく, またその有無で臨床的な重症度に明らかなは違いはなかったようである.




今回の報告で, 多彩な皮膚粘膜症候がみられる可能性があることや, どのような所見がみられやすいかという点では参考になった.
ただし今回の研究で示された皮膚粘膜症候, 特に結膜充血の発生頻度はこれまでの報告のもの(約50%)(*1, *4, *5)と比べて高いように感じたが, その中で気になったのはSARS-CoV-2感染を示す所見がない「MIS-Cの可能性がある症例」の存在であり, この中には従来からみられた川崎病がそれなりの割合が含まれているのではないかという印象をもった.



実際にMIS-Cの基準を満たした患者と比べて, MIS-Cの可能性があると考えられた患者では結膜充血がみられた頻度が高く(90% vs 48%), 川崎病もしくは不全型川崎病の基準を満たした割合が高い(90% vs 48%)ことは述べられている.

また年齢の中央値も従来のMIS-Cの報告のもの(8-10歳)(*1, *4, *6)と比べて低い(1.7歳)こともそれを示唆しているかもしれない.
(MIS-Cの基準を満たした集団の年齢も低い(3歳)が, それについては割愛する)
川崎病では結膜充血の発生頻度はとても高い(約90%)ため, 典型的な川崎病の症例が含まれると皮膚粘膜症候の発生頻度は高くなる可能性があるだろう.


現在のMIS-Cの基準は比較的非特異的であるため, 実際にはいくつかの病態が含まれているかもしれない. ただしそれにしても今回の研究全体の対象は, 従来のMIS-Cの症例と比べ多様な病態/疾患を含めている可能性が低くないため, 全体における発生率については注意が必要であろうと感じた.





<参考文献>
1) Feldstein LR, Rose EB, Horwitz SM, et al. Multisystem Inflammatory Syndrome in U.S. Children and Adolescents. N Engl J Med 2020; 383(4): 334-346.
2) Dufort EM, Koumans EH, Chow EJ, et al. Multisystem Inflammatory Syndrome in Children in New York State. N Engl J Med 2020; 383(4): 347-358.
3) Centers for Disease Control and Prevention. Multisystem inflammatory syndrome in children (MIS-C) associated with coronavirus disease 2019 (COVID-19).
4) Whittaker E, Bamford A, Kenny J, et al. Clinical Characteristics of 58 Children With a Pediatric Inflammatory Multisystem Syndrome Temporally Associated With SARS-CoV-2. JAMA 2020; 324(3): 259-269.
5) Belhadjer Z, Méot M, Bajolle F, et al. Acute Heart Failure in Multisystem Inflammatory Syndrome in Children in the Context of Global SARS-CoV-2 Pandemic. Circulation 2020; 142(5): 429-436.
6) Kaushik S, Aydin SI, Derespina KR, et al. Multisystem Inflammatory Syndrome in Children Associated with Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2 Infection (MIS-C): A Multi-institutional Study from New York City. J Pediatr 2020; 224: 24-29.


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