2023年11月22日水曜日

発疹で救急外来を受診した6歳未満の小児における臨床診断と病原体検出


・小児科外来を受診する小児で発疹を呈している症例は少なくない.
・鑑別診断は多岐にわたるが, 一般的に臨床的に診断される川崎病や突発性発疹, 手足口病だけでなく, 様々な原因によるものを含有した非特異的な"ウイルス性発疹症"も挙げられうる.
・MRワクチンが導入される以前は, 麻疹や風疹といったよく知られた感染症も頻度が低くなかったものの, 現在はMRワクチンが導入され高い接種率が維持されていることから, これらの発生はかなり少なくなっている.

・今回の研究では, 麻疹や風疹が高いレベルで予防されている日本において, 6歳未満で発疹を呈した救急外来を受診した児で, 臨床診断および病原体検索を行い, それらの分析を行っている.


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Yasuda M, Shoji K, Tomita K, et al. Clinical and Laboratory Diagnosis of Exanthems Among Japanese Children Younger Than 6 Years Old in the Post-Measles-Rubella Vaccine Era . Pediatr Infect Dis J. 2023 Nov 13.


小児救急外来を受診した, 発疹を呈した6歳未満の小児における臨床診断および病原体検索を行った症例を分析した日本の前向き研究


方法
・対象患者: 発疹を呈して救急外来を受診した6歳未満の小児
・研究期間: 2019年8月~2020年3月
・水痘, 帯状疱疹, 伝染性膿痂疹, 蕁麻疹, 川崎病は臨床的に診断した
・A群溶連菌やアデノウイルス感染症の迅速検査で陽性となった咽頭炎症例では, それぞれA群溶連菌感染症, アデノウイルス感染症と診断した.
・上記以外での非特異的な発疹を呈した患者では鼻咽頭スワブで検体を採取し, 24種類の病原体を検出できるPCR assayを用いて評価を実施した
・最終診断は2人の小児科専門医と1人の小児感染症専門医による議論の末に決定された.


結果
・研究対象期間中に, 6歳未満の小児296人が発疹を呈した救急外来を受診していた
・初診時の臨床診断の内訳:
 ・蕁麻疹 37%
 ・典型的な川崎病 10%
 ・膿痂疹: 3%
 ・水痘 もしくは 帯状疱疹: 2%
 ・A群溶連菌感染症: 1%
 ・その他: 46%
・46%のその他の診断の症例(136例)のうち, 最終的に75例でPCR検査を実施され分析の対象となった
 ・年齢の中央値は2歳
 ・57%が男児
 ・伴っていた随伴症状としては発熱が最も多く, 次いで鼻汁や咳嗽が多かった
 ・発疹の部位: 体幹(77%), 下肢(52%), 上肢(49%), 顔面(44%), 頭部(3%)
 ・形態学的パターン: 紅斑(49%), 丘疹(31%), 丘疹を伴う紅斑(13%)

マルチプレックスPCRによる病原体の検出
・分析が行われた75例中49例(65%)で病原体が検出された
 ・検出された病原体が単一だったのは24例(32%), 複数だったのは25例(33%)であった
・検出された主な病原体:
 ・エンテロウイルス 14例
 ・サイトメガロウイルス(CMV): 13例
 ・HHV-6: 12例
 ・アデノウイルス: 11例
 ・HHV-7: 8例
 ・パレコウイルスA: 3例
 ・麻疹ウイルス: 1例

最終診断
・75例中55例で最終診断が決定され, 20例は原因は不明のままとされた
・47例は感染症と診断されており, その診断は主に以下の通りであった(2例以下は省略):
 ・突発性発疹: 11例
 ・エンテロウイルス感染症: 9例
 ・アデノウイルス感染症: 6例
 ・ウイルス感染症の重複(mixed virus infection): 5例
 ・インフルエンザ感染症: 3例
 ・A群溶連菌感染症: 3例
 ・パレコウイルス-A感染症: 3例
・頻度の多い感染症のうち, 突発性発疹では紅斑のみが多かったが, エンテロウイルス感染症やアデノウイルス感染症では紅斑と丘疹が同程度でみられていた.


結論
・発疹を呈して救急外来を受診していた6歳未満の小児での発疹の主な原因としては蕁麻疹や川崎病, 突発性発疹, エンテロウイルス感染症が特に多かったが, 多岐にわたっていた.


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・いわゆる"ウイルス性発疹"を引き起こす原因は多様であるが, エンテロウイルスな代表的であろうという認識であり, 今回の研究結果とも一致していた. ただアデノウイルス感染症をはじめとして認識よりも多様であるという印象を受けた.

・今回の研究では研究期間が1年未満と比較的短い. ウイルス感染症の流行パターンは種類によって大きく異なるが, 1年周期, あるいは数年に1回のものも存在するため, 比較的短い研究期間だと原因にやや偏りが生じうるかもしれない, と個人的には感じた. 研究期間やその周辺での期間における感染症の流行状況となどと併せた解釈を要するかもしれない.
・ただ現状では一般的な小児科外来では, 発疹を伴う感染症のうちでも病原体特定ができないケースも多いことから, 今回の知見はとても参考になる.


2022年8月26日金曜日

けいれん重積型(二相性)急性脳症に予測的な脳波所見

・熱性けいれんでは特にけいれんが長時間に及ぶことがあり熱性けいれん重積と呼ばれていれう.
・熱性けいれん重積では特にその他の発熱とけいれん(重積)をきたす他の疾患との鑑別が重要となってくる.
・特に鑑別が重要となってくる疾患の1つとしてけいれん重積型(二相性)急性脳症(Acute encephalopathy with biphasic seizures and late reduced diffusion; AESD)が挙げられる.
・早期発見および早期介入が予後改善に寄与するか否かのエビデンスは乏しいものの, 早期に予測することは管理上は有用であると考えられる.
・そういった背景から熱性けいれん重積症例とAESD症例とを早期に鑑別する予測因子が探索され予測スコアが提唱されてきている(*1-3)が, 確立された精度の高い予測方法はいまだに存在しない.
・今回の研究では熱性けいれん重積とAESDの早期の鑑別に有用な脳波所見について検討している.


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けいれん重積型(二相性)急性脳症: 予測的な脳波検査所見



方法 (Methods)
2009年1月から2017年8月までに愛知県の4つの大学病院と15の関連病院でAESDもしくは持続する熱性けいれん(Prolonged Febrile Seizurs: PFSs)のいずれかと診断された6歳未満の小児を対象とした後ろ向き研究

診断と定義
・AESDは以下を満たすものを定義した:
 ・発熱に伴う発作の出現
 ・数日後の群発する発作(二相目の発作)および意識障害
 ・二相目の発作後の頭部MRIの拡散強調画像での皮質下白質の異常高信号
・持続するけいれん(PFSs)は発熱により誘発された以下のいずれかのものと定義した:
 ・20分以上続くけいれん発作
 ・発作間で意識の回復がないけいれん群発(初回のけいれん発作の開始から最後のけいれん発作までをけいれん持続時間とした)
・てんかんの既往がある児や頭部MRIで異常があった児はPFSsから除外した.

脳波検査所見の評価
・すべての脳波検査は2人の小児神経専門医によって評価された.
・従って, 年齢とそれぞれのEEGの記録時期以外の臨床情報は盲検化され, それぞれ独立して評価した. 独立した評価ののち, 解釈の相違については合意のもので解決された.
・正常の基礎律動は以下のとおりとした:
 ・1歳未満: ≧5Hz
 ・1-3歳: ≧6Hz
 ・3-5歳: ≧7Hz
・基礎律動の非対称は半球間の振幅の差が50%以上と定義された.
・4Hz未満の徐波を異常な徐波(slowing)とした
・紡錘波は以下のように分類された:
 ・正常
 ・半球での減少: 反対側と比べて片側での紡錘波が70%以上減少
 ・消失
・速波(≧14Hz)は以下のように分類された:
 ・正常
 ・減少: 睡眠中に70%以上減少
 ・消失



結果 (Results)
・研究期間中, 発症後48時間以内に脳波の記録が行われたのはAESDの児22例, PFSsの児58例であった. このうち脳波のデータはそれぞれ14例, 31例を用いることができ, これらを対象とした.
・けいれん発作からEEG記録までの時間の中央値はAESDで15時間(四分位範囲 9-24時間), PFSsで16時間(四分位範囲 11-26時間)であった.
・発症時のけいれん発作の時間, 発症から脳波記録までの時間, 脳波記録時間, GCSはAESDとPFSsの児で明らかな差はなかった.
・脳波記録中に陳製薬や抗てんかん薬を使用した割合はAESDの児の方がPFSsよりも高かった(50% vs 13%, p = 0.020).

脳波検査所見
<覚醒時/刺激による覚醒中>
・覚醒/刺激による覚醒中の脳波所見はAESDの児9例(64%), PFSsの児23例(74%)でみられていた.
・基礎律動における異常や覚醒/刺激による覚醒中での徐波に関してはAESDとPFSsで明らかな違いはなかった.

<睡眠中>
・睡眠中の脳波所見はAESD 14例(100%), PFSs 29例(94%)で評価された.
紡錘波の半球での減少や消失がみられる頻度はAESDの児の方がPFSsの児よりも高かった(71% vs. 31%, p = 0.021)
 ・陽性/陰性的中率はそれぞれ0.53, 0.83であった
速波の減少や消失がみられる頻度はAESDの児の方がPFSsの児よりも高かった(21% vs 0%, p = 0.030)
 ・速波の減少や消失がみられた3例ではいずれも紡錘波の減少や消失も伴っていた.
 ・陽性/陰性的中率はそれぞれ1.00, 0.73であった
・すべてのタイプの異常な徐波(slowing)の割合はAESDとPFSsで明らかな差はなかったが, 持続的もしくは高頻度の異常な徐波(slowing)がみられる割合はAESDの方がPFSsよりも高かった(50% vs. 17%, p = 0.035)
 陽性/陰性的中率はそれぞれ0.58, 0.77であった
・AESD, PFSsのいずれも鎮静薬や抗てんかん薬が用いられた例があったが, その使用の有無で脳波所見に明らかな違いはなさそうだった.



結論 (Conclusion)
・脳波所見はAESDとPFSsの鑑別に有用かもしれない.
・睡眠中の紡錘波や速波の減少や欠損, および持続的もしくは高頻度の異常な徐波(slowing)は発熱に関連した持続的なけいれん発作を起こした小児においてAESDを示唆しているかもしれない


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・さらなる検証は必要であると思われるが, 両者の鑑別には有用となりえる知見ではないかと思われた.
・持続脳波モニタリングほどではないが, 早期の脳波検査の実施やその判読には施設間で差が存在すると思われるため, 今後使用していく上ではそういった課題となっていくかもしれない.


<参考文献>





2022年8月25日木曜日

米国における新生児COVID-19の疫学 (2020年3月~2021年2月)

・新生児COVID-19に関しては様々な臨床的な情報が報告されてきているものの, 現状ではその情報は十分ではない.
・今回の研究ではデータベースの情報を用いて, 比較的多い症例の新生児COVID-19を後ろ向きに分析している

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Devin J, Marano R, Mikhael M, Feaster W, Sanger T, Ehwerhemuepha L. Epidemiology of Neonatal COVID-19 in the United States. Pediatrics. 2022 Aug 23.

米国における新生児COVID-19の疫学


方法 (Methods)

・Cerner® Real World Databaseから100万超の新生児の受診者のデータを抽出して分析した
・期間は2020年3月1日から2021年2月28日を対象とした

・COVID-19の臨床検査陽性もしくはICD-10-CM診断コードを用いてCOVID-19の診断が確認され入院した生後28日以下の新生児を対象とした
 ・年齢が不明な児は除外した

重症例の定義
・過去の報告を元にして以下の少なくとも2つを満たす場合を重症疾患(Severe illness)と定義した:
 ・体温37.5℃を超える発熱, 咳嗽, 多呼吸, 呼吸窮迫, 陥没呼吸, 酸素投与を要する, 嘔吐, 下痢のいずれかがある
 ・白血球減少(WBC<5000/μL), リンパ球減少(<1000/μL). CRP上昇(>0.5mg/dL)
 ・胸部X線での異常所見


結果 (Results)
・新生児1007269例のうちCOVID-19と診断された例は918例であり, そのうち71例(7.7%)が重症COVID-19感染症と診断されていた.
 ・臨床検査で陽性が確認された例は440例
 ・入院時の体重の中央値は3.40kg (IQR 2.93-3.88)
 ・入院時の年齢の中央値は11日(IQR 1-22)であり, 重症例での年齢の中央値は15日(四分位範囲([IQR]) 1-22)であった

重症例の疫学
・非重症例と比べて重症例では低出生体重児(出生時体重<2500g)もしくは早産児の割合がより高かった(p<0.001)
基礎疾患を有する割合も重症例でより高かった(p<0.001)
 ・重症例のうち46.5%が1つ異常の基礎疾患を有しており, そのうちでは先天奇形が最も多かった(38%)
 ・PDA以外での先天性心疾患は基礎疾患の17%を占めていた
・主な臨床像: 以下のような所見がみられていた (カッコ内は頻度):
 ・敗血症疑い(24%)
 ・黄疸(28.2%)
 ・輸血を要する貧血(7.7%)

臨床像
・63.3%では感染症の徴候は報告されていなかった
・感染症の最もよくみられた徴候は多呼吸発熱であった
・重症例の28.2%で肺炎がみられた

臨床検査所見
・血液検査所見について重症例と非重症例を比較したところ, 重症例では以下のような特徴がみられた:
 ・CRP値がより高かった(中央値 0.2mg/dL vs 0mg/dL)
 ・アルブミン値がより低かった(中央値 3.2g/dL vs. 3.6g/dL)
 ・血小板数がより低かった

呼吸サポート(Respiratory support)
・重症例の方が呼吸サポートを要する割合が高かった(50.7% vs 5.2%)
 ・重症例では11.3%で侵襲的人工換気(Invasive mechanical ventilation)が用いられた
 ・大多数は早産児で先天奇形があった
・MIS-Cを示唆する症状がみられた例が1例あり, ECMOで治療されていた

多系統炎症性症候群(Multisystem inflammatory syndrome in children; MIS-C)
・重症COVID-19カテゴリーの新生児1人が日齢17で呼吸窮迫, 低血圧および軽度の低体温で発症した.
・先天奇形や細菌感染症とは診断されていなかった
・白血球数は正常(WBC 11500/μL), リンパ球数は境界域(2000/μL), CRP値上昇(0.84mg/dL)
・貧血と血小板減少があり, Hb値の最低値は8.3g/dLで, 血小板数の最低値は1万/μLであった
・トランスアミナーゼ上昇, 総ビリルビン値上昇およびPT/APTT延長がみられた
発熱はなかったものの総合的にMIS-Cを示唆していた
・ECMOで治療が行われたが入院後11日で死亡した


結論 (Conclusion)
・新生児COVID-19の多くは無症状か軽症であるかもしれない一方で, 稀ではあるが重篤と病態を引き起こしうるかもしれない.


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・前述の通り, 研究の対象期間は2020年3月~2021年2月であり, この時期では米国ではSARS-CoV-2の野生型(Wild type)が流行していた時期からアルファ(alpha variant)に置き換わる過程の時期である. そのため, 現在(2022年8月)のオミクロン(omicron variant)優位の状況とは臨床像が異なる可能性があることを踏まえて解釈する必要はあるが, 一般論としては参考になる知見であろう.
・成人や小児例と同様に, 基礎疾患がある例では重症化しやすいことが示唆されているため, こういった例では特に周囲の感染対策や感染時の管理については注意を払う必要があるかもしれない.
・MIS-Cの1例についてはやや詳細が述べられているが, これはMIS-N (Multisystemic Inflammatory Syndrome in Neonates)とも呼ばれているものである(*1).
・MIS-Cと比べてMIS-Nはより重篤となりえることが示唆されており, それを物語るように本報告での1例も最終的に亡くなっている.
・本例および参考文献*1のシステマティックレビューでも示唆されてように, MIS-Nでは発熱がみられないことがあるため, その点は頭に置いておいたほうがよいかもしれない.

参考文献

2022年1月5日水曜日

日本におけるおたふくかぜワクチン接種に関連する要因

・おたふくかぜワクチンはおたふくかぜ予防に有効なワクチンで, 世界中で広くルーチンで接種が推奨されているワクチンである.
・日本においてはおたふくかぜワクチンは1993年のMMRワクチンの接種中止以降, 長らく任意接種のままである.
・定期接種として実施されているワクチンとは異なり接種率については十分把握されておらず地域によっても異なることが推定されるが, 概ね60%程度と報告されている(*1)
・現状においては接種率は十分ではなく, 実際に数年おきにおたふくかぜの流行が発生している状況で難聴などの合併症が一定数発生していることが推測されるため, さらなる接種率向上が望まれる.
・接種率上昇, もしくは低下させる因子の把握は接種率上昇のための戦略をためには参考になるが, これまで接種に関連した因子は十分には知られていない.
・今回の研究では, 日本におけるおたふくかぜワクチン接種に関連する因子を分析している.

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Hara M, Koshida R, Nakano T. Parents' views on mumps, mumps vaccine, and the factors associated with vaccination in Japan. Vaccine. 2021;39(52):7677-7683.

「日本におけるムンプス, ムンプスワクチンに関する保護者の考えとワクチン接種に関連する因子」


2019年10月から2020年2月にかけて金沢市での1歳半健診で行われた調査でおたふくかぜワクチンの接種の決定に関連する要因を調査している.

結果としては主に以下のような内容であった
・55.6%の児がおたふくかぜワクチンを接種していた

・接種した理由として最も多かったのは「もし子どもがおたふくかぜに罹ったらかわいそう(申し訳ないと思う)だから」であった(56.8%)
・接種していない理由として最も多かったのは「おたふくかぜワクチンは定期接種ではないため」であった(35.9%) (ただし理由として「その他」を選んだ割合は40.8%でもあった)
・接種していないその他の理由としては主に以下のものが挙げられていた:
 ・おたふくかぜワクチンを接種できることを知らなかった(5.4%)
 ・自然におたふくかぜに関連したほうが好ましい(4.9%)
・ほとんど(96.6%)の保護者はおたふくかぜについて知っており, 多く(83.5%)はおたふくかぜに罹ることについて懸念していた.


・合併症については認知度は低く, 最も知られている合併症であった難聴でも27.2%であった.
・その他の主な合併症と知っている割合:
 ・精巣炎: 20.3%
 ・髄膜炎: 19.1%
 ・流産: 15.0%
 ・脳炎: 15.0%
・ワクチン接種に関連する因子としては以下のものが挙げられた:
 ・医師からおたふくかぜワクチンの副反応について教わった保護者
 ・子どものワクチン接種を家族構成員から推奨された保護者
 ・金沢市から提供されたワクチン接種の情報を読んでいる保護者
 ・その他の任意接種のワクチンを接種している児
 ・胃腸炎の治療を受けた児
 ・一般的にワクチンに関して深く理解している保護者
・ワクチンを接種していないことに関連する因子としては以下のものが挙げられた:
 ・ワクチン接種に関して誰からも推奨されていない
 ・子どもが2人以上いる保護者


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金沢市は1年度中に任意接種ワクチンの接種に対して, 1回あたり助成金1000円を2回まで受けられるという制度となっているが, この助成制度ではおたふくかぜワクチンの接種率向上にはあまり寄与していないことが推定される(1歳半までの接種率であるため, その後の接種による上昇は一定数あると推定されるものの).

おたふくかぜワクチンに関しては自治体によって様々な助成制度が設けられているが, それが実際に接種率上昇に寄与する内容であるかははっきりしていないことが多いだろう.

名古屋市では自己負担金が3000円となる補助金制度を導入後, 接種率が90%超まで上昇し, おたふくかぜの報告数が減少したことが報告されており(*2), こういった内容を参考にして制度設計を行ったほうがよいかもしれない.


また小児科医の視点では, 合併症に関する認知度の低さが気になった. 

過去の報告にもある通り(*3), 十分な情報提供がワクチン接種に向かうことと関連していそうな結果であったことも考えれば, 個人としては合併症も含めた疾患に関する情報, 任意接種であるがおたふくかぜワクチンは推奨されるものであることを広く知ってもらうようにすべきであろうと改めて感じた.



参考文献

*1: Morikawa Y, Morino S, Ito K, et al. Trends in varicella and mumps vaccination rates in children under 3 years of age in a tertiary children's hospital in Japan. Pediatr Int. 2019;61(9):882-888.

*2 Ozaki T, Goto Y, Nishimura N, et al. Effects of a Public Subsidy Program for Mumps Vaccine on Reducing the Disease Burden in Nagoya City, Japan. Jpn J Infect Dis. 2019;72(2):106-111.

*3 Tsuchiya Y, Shida N, Izumi S, et al. Factors associated with mothers not vaccinating their children against mumps in Japan. Public Health. 2016;137:95-105.

2022年1月4日火曜日

川崎病における爪の変化

川崎病は主に若年の小児でみられる原因不明の血管炎である. 全身性の汎動脈炎が生じることで全身に様々な臨床症候をきたし, 特に川崎病での診断に用いられる主要症状についてはよく知られている.

見られる頻度が高い主要症状以外でも, 比較的頻度の低い臨床所見を伴うことはあり, 「川崎病診断の手引き 改訂第6版」でも参考条項の欄に多数記載されている.(*1)

その中で爪に関しては「爪の横溝」の記載があるのみだが, 実際には様々な爪病変に関しても報告されており, 今回著者らはこれらに注目して症例報告と文献レビューを行う報告している.


Mitsuishi T, Miyata K, Ando A, Sano K, Takanashi JI, Hamada H. Characteristic nail lesions in Kawasaki disease: Case series and literature review. J Dermatol. 2021 Dec 16.



著者らは過去の報告をレビューして, 川崎病に関連した爪病変を以下の5つに分類している:

・Beau’s line: 爪を横切る小さな溝としてみられる. 爪の成長とともに移動する.

・爪甲白斑症: 爪甲における白色調の変化で, 全体的なものから部分的なものまでいくつかタイプがある

・爪甲脱落症: 爪母からの爪の自然剥離

・橙褐色のクロモニキア:  急性期や亜急性期の早期に観察される爪の色調変化(クロモニキア)で, 橙褐色となっているもの.

・巻き爪変形: 川崎病の亜急性期に観察される, 爪の長軸に沿ったカーブ状の変形. 四肢の末梢循環障害と関連していると考えられている.


これらの爪病変のうちで橙褐色のクロモニキアの頻度が最も高そうであると推定され, 著者らによる自験例3例も報告されている.

またそれらの3例中2例ではダーモスコピーの所見で爪床の点状もしくは線状の出血を伴っていたことも述べている.


川崎病でこれらの爪病変がみられる頻度は高くないと推定され, 実際に診断マーカーとして用いることができるかは現時点では不明である.

ただ川崎病を疑う際には四肢末梢の変化についても確認する必要があるので, その時に少しだけ爪の変化の有無についても確認すると興味深い所見が得られるかもしれない.


*1: 川崎病の診断の手引き 改訂第6版. 



2020年12月10日木曜日

小児多系統炎症性症候群(MIS-C)における皮膚粘膜症候

コロナウイルス感染症2019 (Coronavirus disease 2019 :COVID-19)は依然として日本でも広がりをみせており, それに伴って小児例も増加しているようである. 

ただ一般で知られている限りでは, 小児においてはこれまで重症例はほとんどなく, 日本では小児多系統炎症性症候群(Multisystem Inflammatory Syndrome in Children : MIS-C)の症例も明らかなものではこれまで報告されていない.
ただ患者数の増加に伴って稀ながら日本でもMIS-Cが発生する可能性はあるため, 今後も注意が必要であり, 知見を深めておいても損はないだろう.

MIS-Cに関しては数多くの報告されることで臨床的特徴が徐々に知られるようになってきた.

その中でも皮膚粘膜症状がみられやすいというのもそのうち1つであり, 「川崎病と類似した」と初期の頃に表現された理由の1つだろう.

これまでのまとまった報告でも皮膚粘膜症状/徴候について発生頻度などは報告されていた(*1, *2)が, 詳細についてはわかっていないことも多い. そんなMIS-Cの皮膚粘膜症候に焦点を当てて研究を行ったのがJAMA DermatologyのBrief Reportに掲載された今回の報告である.




Young TK, Shaw KS, Shah JK, et al. Mucocutaneous Manifestations of Multisystem Inflammatory Syndrome in Children During the COVID-19 Pandemic. JAMA Dermatol. 2020 Dec 9.
(COVID-19パンデミック中での小児における多系統炎症性症候群の皮膚粘膜症候)



2020年の4月1日から7月14日まででニューヨーク市の2病院に入院しMIS-Cと診断された後ろ向き研究である.
診断基準としてはCDCの基準が用いられている(*3).


分析対象となったのは35人で, そのうち25人の児がMIS-Cの基準を満たした症例で, 10人の児はSARS-CoV-2の感染を示す検査所見がなくMIS-Cの可能性がある症例(probable MIS-C case)として含まれた.
それぞれの年齢の中央値は3歳(範囲: 0.7-17歳), 1.7歳(範囲, 0.2-15歳)である.


全体のうちで29人(83%)に皮膚粘膜所見がみられ, 主として以下のような所見がみられたようである:
・結膜充血: 21人(60%)
・手足の紅斑: 18人(51%)
・口唇充血: 17人(49%)
・口唇のひび割れ: 13人(37%)
・眼周囲の紅斑と浮腫: 7人(20%)
・いちご舌: 8人(23%)
・頬部の紅斑: 6人(17%)

さらにそれよりも頻度は多様な皮膚所見も報告されている.
また, 皮膚粘膜症状は発熱が先行した症例(19/29)では発熱してから平均2.7日後に発現している一方, 皮膚粘膜症状が発熱に先行した症例も存在するようである.

この研究では34人が外来で経過観察されており, そのうち9人で膜様落屑がみられていた.

また皮膚粘膜症候は3歳未満と3歳以上で明らかな違いはなく, またその有無で臨床的な重症度に明らかなは違いはなかったようである.




今回の報告で, 多彩な皮膚粘膜症候がみられる可能性があることや, どのような所見がみられやすいかという点では参考になった.
ただし今回の研究で示された皮膚粘膜症候, 特に結膜充血の発生頻度はこれまでの報告のもの(約50%)(*1, *4, *5)と比べて高いように感じたが, その中で気になったのはSARS-CoV-2感染を示す所見がない「MIS-Cの可能性がある症例」の存在であり, この中には従来からみられた川崎病がそれなりの割合が含まれているのではないかという印象をもった.



実際にMIS-Cの基準を満たした患者と比べて, MIS-Cの可能性があると考えられた患者では結膜充血がみられた頻度が高く(90% vs 48%), 川崎病もしくは不全型川崎病の基準を満たした割合が高い(90% vs 48%)ことは述べられている.

また年齢の中央値も従来のMIS-Cの報告のもの(8-10歳)(*1, *4, *6)と比べて低い(1.7歳)こともそれを示唆しているかもしれない.
(MIS-Cの基準を満たした集団の年齢も低い(3歳)が, それについては割愛する)
川崎病では結膜充血の発生頻度はとても高い(約90%)ため, 典型的な川崎病の症例が含まれると皮膚粘膜症候の発生頻度は高くなる可能性があるだろう.


現在のMIS-Cの基準は比較的非特異的であるため, 実際にはいくつかの病態が含まれているかもしれない. ただしそれにしても今回の研究全体の対象は, 従来のMIS-Cの症例と比べ多様な病態/疾患を含めている可能性が低くないため, 全体における発生率については注意が必要であろうと感じた.





<参考文献>
1) Feldstein LR, Rose EB, Horwitz SM, et al. Multisystem Inflammatory Syndrome in U.S. Children and Adolescents. N Engl J Med 2020; 383(4): 334-346.
2) Dufort EM, Koumans EH, Chow EJ, et al. Multisystem Inflammatory Syndrome in Children in New York State. N Engl J Med 2020; 383(4): 347-358.
3) Centers for Disease Control and Prevention. Multisystem inflammatory syndrome in children (MIS-C) associated with coronavirus disease 2019 (COVID-19).
4) Whittaker E, Bamford A, Kenny J, et al. Clinical Characteristics of 58 Children With a Pediatric Inflammatory Multisystem Syndrome Temporally Associated With SARS-CoV-2. JAMA 2020; 324(3): 259-269.
5) Belhadjer Z, Méot M, Bajolle F, et al. Acute Heart Failure in Multisystem Inflammatory Syndrome in Children in the Context of Global SARS-CoV-2 Pandemic. Circulation 2020; 142(5): 429-436.
6) Kaushik S, Aydin SI, Derespina KR, et al. Multisystem Inflammatory Syndrome in Children Associated with Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2 Infection (MIS-C): A Multi-institutional Study from New York City. J Pediatr 2020; 224: 24-29.


2020年11月15日日曜日

小児多系統炎症性症候群(MIS-C)では一部で心臓伝導系の異常がみられるかもしれない


SARS-CoV-2 (新型コロナウイルス)による感染症(COVID-19)はいまだに世界中で大きな問題となっている.
COVID-19は成人・高齢者と比べて小児では重症となりにくいということがこれまでの多くの報告からわかってきている. しかし世界中でのCOVID-19流行に伴い, 稀ながら流行地域の小児で川崎病に類似した全身炎症性疾患がみられるという研究が相次いで報告されるようになった (*1). 
それらは現在では一般的には小児多系統炎症性症候群(Multisystem inflammatory syndrome in children : MIS-C)と呼ばれており, 川崎病とは異なる存在であると認識されている.

MIS-Cでは複数の臓器系(皮膚などを含む)で障害が生じることが特徴的であり, 消化器症状がみられやすいといったことが知られてきている(*2, *3).
また心血管系への影響から循環障害を伴い血管作動薬などが必要となる例も少なくない ようである. 従って管理する上で心血管系の臨床像を把握することは重要であり, それらにに焦点を当てた研究も報告されるようになってきている(*4).

そこでMIS-Cにおける心臓伝導系障害に着目したのが今回の研究である.




NewYork-Presbyterian Morgan Stanley Children’s Hospitalを受診した21歳未満のMIS-C患者を対象とした後ろ向き研究で, MIS-Cの診断はCDCの基準を用いて行われた(診断基準の日本語版は以下が参考になる(*5).
心電図は入院後にルーティンで検査されていた.

結果としては32人の患者のうち6人(19%)で入院中にI度房室ブロック(AVB)がみられていた.
I度AVBは発症後8日(中央値, 範囲5-10日)でみられ, 1人を除いては3日(中央値, 範囲1-5日)でみられなくなった.
I度AVBがみられた児だけでなく, みられなかった児でも複数の心電図異常が観察された例はあったが, 臨床的には大きな問題はみられなかった.
またI度AVBは分析した範囲では他の臨床的所見との関連性はみられなかった.

このことからMIS-CではI度AVBが一時的にみられることはあるようだが, さらなる伝導障害に進展した児はおらず, また明らかに臨床的問題につながったわけではなさそうではある.


ただし本研究の分析対象は32人とそれほど多くないため, 症例数が多くなると臨床的に問題となりえる心電図異常がみられる例もあるかもしれない. そのためMIS-Cでは, 特に急性期には心電図に関しても注意深いモニタリングを考慮すべきだろう.


心電図異常を伴う理由は明確ではないものの, MIS-Cでは全身の病態が伝導系を含めた心筋に影響を及ぼした結果かもしれない. 実際, PR延長などの房室ブロックは心筋炎やリウマチ熱でも合併することがあることは知られている.
また, MIS-Cと類似していると指摘された川崎病でも房室ブロックを合併することは知られている. 過去には川崎病患者においてPR延長が約50%でみられたとする報告はある(*6).
また川崎病の重症例と思われる川崎病ショック症候群(KDSS)では66.7%で心電図異常がみられたとする研究もある(*7).

典型的な川崎病においては経験的, また最近の報告から心電図異常を伴う頻度はそれほど割合は高くない印象ではあったが, こういった報告を読むと, 心筋傷害を引き起こしうる炎症性疾患では伝導系にも改めて目を向けるべきかもしれないと考えたところである.


<参考文献>