・小児科外来を受診する小児で発疹を呈している症例は少なくない.
・鑑別診断は多岐にわたるが, 一般的に臨床的に診断される川崎病や突発性発疹, 手足口病だけでなく, 様々な原因によるものを含有した非特異的な"ウイルス性発疹症"も挙げられうる.
・MRワクチンが導入される以前は, 麻疹や風疹といったよく知られた感染症も頻度が低くなかったものの, 現在はMRワクチンが導入され高い接種率が維持されていることから, これらの発生はかなり少なくなっている.
・今回の研究では, 麻疹や風疹が高いレベルで予防されている日本において, 6歳未満で発疹を呈した救急外来を受診した児で, 臨床診断および病原体検索を行い, それらの分析を行っている.
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Yasuda M, Shoji K, Tomita K, et al. Clinical and Laboratory Diagnosis of Exanthems Among Japanese Children Younger Than 6 Years Old in the Post-Measles-Rubella Vaccine Era . Pediatr Infect Dis J. 2023 Nov 13.
小児救急外来を受診した, 発疹を呈した6歳未満の小児における臨床診断および病原体検索を行った症例を分析した日本の前向き研究方法・対象患者: 発疹を呈して救急外来を受診した6歳未満の小児
・研究期間: 2019年8月~2020年3月
・水痘, 帯状疱疹, 伝染性膿痂疹, 蕁麻疹, 川崎病は臨床的に診断した
・A群溶連菌やアデノウイルス感染症の迅速検査で陽性となった咽頭炎症例では, それぞれA群溶連菌感染症, アデノウイルス感染症と診断した.
・上記以外での非特異的な発疹を呈した患者では鼻咽頭スワブで検体を採取し, 24種類の病原体を検出できるPCR assayを用いて評価を実施した
・最終診断は2人の小児科専門医と1人の小児感染症専門医による議論の末に決定された.
結果・研究対象期間中に, 6歳未満の小児296人が発疹を呈した救急外来を受診していた
・初診時の臨床診断の内訳:
・蕁麻疹 37%
・典型的な川崎病 10%
・膿痂疹: 3%
・水痘 もしくは 帯状疱疹: 2%
・A群溶連菌感染症: 1%
・その他: 46%
・46%のその他の診断の症例(136例)のうち, 最終的に75例でPCR検査を実施され分析の対象となった
・年齢の中央値は2歳
・57%が男児
・伴っていた随伴症状としては発熱が最も多く, 次いで鼻汁や咳嗽が多かった
・発疹の部位: 体幹(77%), 下肢(52%), 上肢(49%), 顔面(44%), 頭部(3%)
・形態学的パターン: 紅斑(49%), 丘疹(31%), 丘疹を伴う紅斑(13%)
マルチプレックスPCRによる病原体の検出
・分析が行われた75例中49例(65%)で病原体が検出された
・検出された病原体が単一だったのは24例(32%), 複数だったのは25例(33%)であった
・検出された主な病原体:
・エンテロウイルス 14例
・サイトメガロウイルス(CMV): 13例
・HHV-6: 12例
・アデノウイルス: 11例
・HHV-7: 8例
・パレコウイルスA: 3例
・麻疹ウイルス: 1例
最終診断
・75例中55例で最終診断が決定され, 20例は原因は不明のままとされた
・47例は感染症と診断されており, その診断は主に以下の通りであった(2例以下は省略):
・突発性発疹: 11例
・エンテロウイルス感染症: 9例
・アデノウイルス感染症: 6例
・ウイルス感染症の重複(mixed virus infection): 5例
・インフルエンザ感染症: 3例
・A群溶連菌感染症: 3例
・パレコウイルス-A感染症: 3例
・頻度の多い感染症のうち, 突発性発疹では紅斑のみが多かったが, エンテロウイルス感染症やアデノウイルス感染症では紅斑と丘疹が同程度でみられていた.
結論
・発疹を呈して救急外来を受診していた6歳未満の小児での発疹の主な原因としては蕁麻疹や川崎病, 突発性発疹, エンテロウイルス感染症が特に多かったが, 多岐にわたっていた.
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・いわゆる"ウイルス性発疹"を引き起こす原因は多様であるが, エンテロウイルスな代表的であろうという認識であり, 今回の研究結果とも一致していた. ただアデノウイルス感染症をはじめとして認識よりも多様であるという印象を受けた.
・今回の研究では研究期間が1年未満と比較的短い. ウイルス感染症の流行パターンは種類によって大きく異なるが, 1年周期, あるいは数年に1回のものも存在するため, 比較的短い研究期間だと原因にやや偏りが生じうるかもしれない, と個人的には感じた. 研究期間やその周辺での期間における感染症の流行状況となどと併せた解釈を要するかもしれない.
・ただ現状では一般的な小児科外来では, 発疹を伴う感染症のうちでも病原体特定ができないケースも多いことから, 今回の知見はとても参考になる.