2019年8月21日水曜日

菌血症を伴った尿路感染症に罹患した若年乳児における静注での抗菌薬治療期間

Parenteral Antibiotic Therapy Duration in Young Infants With Bacteremic Urinary Tract Infections. Pediatrics. 2019 Aug; e20183844


はじめに

・小児において尿路感染症(UTI)は比較的よくみられやすい細菌感染症である一方, 菌血症などを合併しやすいなど重症となりえるため, 一般小児の診療においても注意すべき病気である.
・抗菌薬治療では, なるべく早く静注から経口へスイッチすることは主に以下のようなメリットが存在する:
 ・静脈路留置の期間の短縮 
 ・入院期間の短縮

・生後6か月未満のUTIを対象とした研究では, 静注治療がshort course(≦3日間)とlong course(>3日間)で治療失敗率に差はみられず(Brady et al., 2010), 静注での治療期間は短縮される傾向にあることも示されている(Lews-de Los Angeles, et al., 2017)

・菌血症は約8-10%で合併することが知られている一方, 低年齢の方が合併しやすいことも示唆されており(Bochur et al., 1995), 低年齢においては特に菌血症合併例の治療方針は重要である. その一方で菌血症合併例におけるデータは乏しく一定した見解は存在しない.
 ・上記報告では, 新生児の21%, 1-2か月の児の13%, 2-3か月の4%, 3-6か月の児の8%で菌血症を合併していた

・今回の研究では低年齢での菌血症を伴った尿路感染症での治療期間と転帰について分析している








菌血症を伴う尿路感染症に罹患した生後60日以下の児における静注での抗菌薬治療期間と転帰の間の関連性を検討した後ろ向き研究

方法

parent study

・11の地理的に異なる小児病院の救急外来に侵襲性細菌感染症の評価が行われた児の多施設後ろ向きコホート研究から分析が行われた
 ・血液培養, 髄液培養のいずれから病原体が分離された児が対象となった

分析対象
・患者: 生後60日以下の小児
 ・2011年7月1日-2016年6月に30日までに上記の参加病院の救急外来を受診した児
 ・上記のparent studyのうち, 尿路感染症と診断され血液培養と尿培養で同じ病原体が検出された児が対象となった
・以下の場合は除外した:
 ・尿検体がパックで採取されたか, 採取方法が不明な場合
 ・細菌性髄膜炎を合併している場合
 ・局所の感染症(化膿性関節炎など)と一致した身体所見・臨床検査所見がある場合
 ・静注抗菌薬治療が完了する前に参加施設以外から移送した, もしくは死亡した場合

定義
・short-course parenteral antibiotic duration: 静注での治療期間が7日間以下
・long-course parenteral antibiotic duration: 静注での治療期間が7日間を超える

統計学的分析
・long-courseでの静注治療期間を受けた尤度を決定するためにpropensity scoreを使用した
・治療期間と転帰の間の関連性を調べるために周辺構造モデルを使用した




結果

・研究対象期間中で, 菌血症を伴うUTIの児(生後60日以下)115人が分析の対象となった
 ・52%は生後28日以下の児
 ・60%は男児
 ・89%が受診時に発熱を呈していた
・原因となった病原体のうち81%はE. coliであった

・遷延した菌血症が8人(7%)でみられたが, 全例エンピリックな抗菌薬に感受性を示す病原菌であった
・静注での抗菌薬治療期間の中央値は7日であったが, 範囲は2-24日と幅広かった
・50%がshort courseで治療されていたが, short courseが選択された割合は施設によって異なっていた 

・以下の場合, long courseで治療された割合が高かった:
 ・受診時にill appearing
 ・E. coli以外の病原菌が発育
 ・遷延した菌血症


・退院後15-30日の間で6人(5%)の患者でUTIの繰り返しがみられたが, 両方の治療群の間で再発率に明らかな差は見られなかった
・退院後30日以内での再入院やER受診が全体の13%でみられたが, 両方の治療群の間で明らかな差はみられなかった





まとめ

・受診時に重症に見える場合, E. coli以外が原因の場合, 菌血症が遷延する場合に, 抗菌薬静注治療が7日間を超える
・抗菌薬治療の静注期間が7日間以下と7日間を超える場合で再発率などに明らかな差はみられなかった




ちょっと思ったこと

・今回の研究では静注治療後の経口治療に関しては情報がなく, これらの影響に関しては検討できない. 従って治療全体での評価は困難で, あくまで静注療法が短くなった症例と長くなった症例での検討ということになるだろう.



おまけ

小児の尿路感染症に関する最近のトピックス
・尿路感染症に罹患した生後29-90日の児における細菌性髄膜炎の合併頻度について評価したシステマティックレビュー・メタアナリシス:
合併率は極めて低かった(0.25%[95%信頼区間, 0.09-0.70%])一方, 無菌性の髄液細胞数増加がみられた割合は0-29%であった(J Pediatr. 2019; 212: 102-110)

発熱を伴った尿路感染症の罹患数と腎瘢痕との関連性を分析した研究:
発熱を灯った尿路感染症の罹患数が1回のみ児と比べて2回の児では腎瘢痕形成がみられた頻度はとても高かった(JAMA Pediatr 2019 Aug 5)

・小児の尿路感染症における尿検査での亜硝酸塩について評価したメタアナリシス:
感度は2歳以上と比べて2歳未満ではとても低かった(81% vs 23%).
特異度は年齢問わず極めて高かった(約99%)(Pediatr Nephrol. 2019 Jul; 34(7): 1283-1288)

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