はじめに
RSウイルス感染症は特に新生児期・乳児期で問題となりやすい感染症です.またほとんどが2歳までに1回はかかるとされており, 症状が強く出る症例も少なくありません.
そんなRSウイルス感染症についてまとめてみました.
疫学
<要約>
・RSウイルス感染症は従来冬に流行する感染症でしたが, 近年は夏に流行が開始しています.
・2歳までに1回はRSウイルスに感染します.
・RSウイルス感染症は大人でも一般的にみられる感染症です.
RSウイルス感染症は以前は冬に流行する感染症でしたが, 近年は流行時期が前倒しになって夏に流行開始がみられるようになっています.
RSウイルス感染症は特に小さい子ども感染症のイメージがありますが, 実際には子供・大人問わずよくみられる感染症の原因の1つです1)2). ただし, 大人や年齢の高い子供ではRSウイルスの検査が行われることはないので, ほぼすべてが一般的なかぜとして扱われていると思われます.
ほとんどの小児は2歳までに1回はRSウイルス感染症に罹患します.
入院
先進国での研究でもRSウイルスによる入院は稀ではありません. 1歳未満, 特に乳児の早期ではより入院となりやすいことが報告されています26).
メモ
<RSウイルスの流行>
RSウイルス感染症は北半球では冬季にピークがあります1)3). また熱帯地域では通常雨季に関連しています.
<RSウイルス感染症の下気道疾患の危険因子>
RSウイルス感染症の下気道疾患の危険因子としては様々なものが報告されています. 2015年に報告されたメタアナリシスでは以下の危険因子が示されてました4): 早産児, 低出生体重児, 男児, 兄弟がいること, 母の喫煙, アトピー歴, 非母乳栄養, 混雑
その他では生後6か月未満16), Down症候群5)や先天性心疾患6)なども知られています.
<既往歴とRSウイルス感染症による入院の危険因子>
フィンランドの研究で, 新生児一過性多呼吸(TTN)の既往がある場合, RSV感染症による入院のリスク上昇と関連していたことが報告されています25).
病態形成
<要約>
・RSウイルス感染症の潜伏期間は通常4-6日です7)
臨床像
<要約>
・通常は急性上気道炎(かぜ)を引き起こしますが, 初感染の場合30-40%で下気道疾患に進展します
・症状としては鼻水や咳, 発熱が一般的です.
・細気管支炎などを起こすと喘鳴や呼吸障害などの症状が出現して, 重症例ではチアノーゼなどのさらに強い症状がみられるようになります.
RSウイルスに感染すると通常は急性上気道炎が引き起こされます. しかし初感染の場合下気道疾患に進展しやすく, 30-40%で細気管支炎や肺炎といった下気道疾患を発症します.
RSウイルスの症状としては鼻汁, 咳嗽, 発熱が一般的です. 通常鼻汁が最初の症状で, 咳嗽は鼻汁と同時にみられることもありますが典型的には1-3日遅れて出現します8).
細気管支炎や肺炎に進展すると咳嗽が強くなり, 呼吸障害や喘鳴がみられるようになり入院を要することもあります. さらに重症化すると体内への酸素の取り込みが非常に悪くなり呼吸数増加チアノーゼなどが出現して, 集中治療や人工呼吸を必要となることもあります.
また, RSウイルス感染症では無呼吸もみられることがあり, 乳幼児突然死症候群との関連性も指摘されています9). 細気管支炎の症例においては, 無呼吸は特に2か月未満の小児や重症例で起こりやすいことが報告されており, これらの小児では特に注意を要します10).
では, どのような場合に特に病院受診が必要でしょうか. 具体的には
・低年齢 (特に6か月未満)
・活気がない
・水分・食事摂取が困難 / 脱水徴候がある(例: 排尿が少ない, 口が乾燥している)
・頑張って呼吸しているようにみえる
・呼吸が早い (1秒に1回以上呼吸しているようにみえる)
などが主な指標のだと思います.
メモ
<初感染以降の小児や成人でのRSウイルス感染症の症状>
これらの年齢層では急性上気道炎(かぜ)で終わることが多いです. RSウイルス感染症では鼻閉や耳・副鼻腔症状がみられやすいことが指摘されています2).
<症状と危険因子>
RSウイルス感染症で入院した1歳未満の小児を対象とした研究では, 最近の受動喫煙はSpO2低値および臨床的重症度スコア高値と関連していたことが示されました15).
<急性細気管支炎での無呼吸の危険因子>
急性細気管支炎での入院例における無呼吸の危険因子を検討した米国での研究では以下の危険因子が示されました:10)
・(修正)年齢が8週未満の若年
・出生児体重が軽い(2.3kg未満)
・入院前の無呼吸の存在
・入院前の呼吸数が少ない(40回/分未満)or多い(70回/分以上) [呼吸数40-49回と比較して]
・入院前のSpO2<90%未満
合併症
<要約>
・合併症としては急性中耳炎の頻度が高いです.
・RSウイルス感染症は熱性けいれんを引き起こすことの多い感染症の1つです.
RSウイルス感染症では急性中耳炎を合併することが多いです11).
その他の細菌感染症を合併する可能性はありますが, 低年齢であっても重症感染症を合併するリスクは低いとされています12)
熱性けいれんは様々な熱性疾患によって引き起こされることがありますが, RSウイルスも一般的な誘因の1つです13). RSウイルスとその他の感染症による熱性けいれんでは特に違いなどは報告されていないと思われれます.
メモ
<RSウイルス感染症での痙攣重積>
RSウイルス感染症が原因の痙攣重積について評価した研究では, RSウイルス陰性群と比較してRSウイルス陽性群(n = 19)では集中治療を要する例が多く, また急性脳症を発症した6例のうち5例で神経学的後遺症を残したと報告しています14).
RSウイルス感染症の流行時での熱性痙攣重積には注意が必要かもしれません.
検査
<要約>
・RSウイルスでは迅速検査が一般的に用いられています.
・RSウイルスの迅速検査の保険適応は1歳未満ですので, 通常1歳以上では検査は行いません.
RSウイルスでは迅速検査が一般的に用いられています. 検査はインフルエンザの検査と似たような方法で行われます.
RSウイルスの迅速検査の保険適応は1歳未満とされています. つまり1歳以降では検査を行う場合には自費検査となります.
管理
<要約>
・RSウイルスに対する特別な治療薬はないため, 基本的には対症療法が行われます.
RSウイルス感染症に対する抗ウイルス薬はないため, 基本的には対症療法が行われます.
RSウイルスによる細気管支炎に対しては, 以前はステロイド投与や吸入治療がルーティーンで使用されていたこともありました. ただこれらの治療は効果が乏しいことが示されるようになり, 現在ではルーティーンでは用いません. 特にステロイド投与は集中治療を要する重症例で考慮されるかもしれませんが, それ以外では基本的に使用しません.
予後
<要約>
・RSウイルス感染後, 長期にわたってぜーぜー(喘鳴)を繰り返すことがありreactive airway disease (RAD)と呼ばれます.
・受動喫煙はその後の呼吸器疾患のリスクを高めることが示されており18), 周囲の禁煙がその後の呼吸器疾患の予防するための唯一の介入方法です.
RSウイルス感染症から回復したあと, 喘鳴を繰り返すことがあり, reactive airway disease (RAD)と呼ばれます. RADは気管支喘息と症状がよく似ており区別することが難しく, 気管支喘息として扱われることがあります.
またRADは将来の気管支喘息の発症につながっているのでは, という可能性が指摘されています. 事実, それを支持する研究結果もあるのですが, 逆に否定的な研究もあり, はっきりした結論は出ていません19)20).
受動喫煙はその後の呼吸器疾患のリスクを高めることが示されており18), 周囲が禁煙することは, RSウイルス感染症にかかった子どもがのちに呼吸器疾患になりにくくする唯一の方法です.
メモ
6か月未満の細気管支炎の入院症例(RSV感染症は65.9%)を対象としたフィンランドでの前向き研究では, 11-13歳時の気管支喘息を有することの危険因子として母が喘息を有すると5-7歳時でのアレルギー性鼻炎が挙げられていました23).
また6か月未満の細気管支炎の入院症例を対象とした別のフィンランドの研究では, 学童前で気管支喘息を有するの危険因子としてはアトピー性皮膚炎, RSV以外での細気管支炎, 母の喘息が挙げられていました24).
RSウイルス感染症の重症化リスクのある児への予防
<要約>
・RSウイルス感染症が重症化しやすいことがわかっている小児に対してはシナジス®が使用されています.
・シナジスは流行期間中の6か月間に月1回筋肉注射で投与します.
RSウイルスに対しては現在までのところワクチンはありません.
RSウイルスが重症化しやすい児に対しては, 抗RSウイルスヒト化モノクローナル抗体であるパリビズマブ(シナジス®)が投与されています. このシナジス®は重症化リスクのある小児に対して投与することが重症化が抑制されることが示されています.
現在対象となっている児は以下の通りです:
・在胎28週以下の早産で, 12か月齢以下の新生児および乳児
・在胎29週-35週の早産で, 6か月齢以下の新生児および乳児
・過去6か月以内に気管支肺異形成(BPD)の治療を受けた24か月齢以下の新生児, 乳児および幼児
・24か月齢以下の血行動態に異常のある先天性心疾患の新生児, 乳児および幼児
・24か月齢以下の免疫不全を伴う新生児, 乳児および幼児
・24か月齢以下のダウン症候群の新生児, 乳児および幼児
対象となる児は流行時期の6か月間で月1回筋肉注射で投与します.
メモ
パリビズマブの投与によって, のちのRAD発症のリスクが低下したとする報告があります21).
また, アトピーの家族歴のある児ではパリビズマブ投与でRADの発症が減らなかったとする報告もあります22).
<参考文献>
1) The Burden of Respiratory Syncytial Virus Infection in Young Children. N Engl J Med 2009: 360(6); 588-98
2) Respiratory Syncytial Virus Infections in Previously Healthy Working Adults. Clin Infect Dis 2001; 33(6): 792-6
3) Respiratory Syncytial Virus Seasonality - United States, 2014-2017. MMWR Morb Mortal Wkly Rep 2018; 67(2): 71-6
4) Risk Factors for Respiratory Syncytial Virus Associated with Acute Lower Infection in Children under Five Years; Systematic Review and Meta-analysis. J Glob Health 2015; 5(2): 020416
5) Children with Down Syndrome are High-risk for Severe Respiratory Syncytial Virus Disease. J Pediatr 2015; 166(3): 703-9.e2
6) Risk Factors for Respiratory Syncytial Virus Hospitalisation in Children with Heart Disease. Arch Dis Child 2009: 94(10): 785-9
7) Red Book 2015
8) NELSON Textbook of Pediatrics 20th edition
9) Association of Respiratory Virus Infections with Sudden Infant Death Syndrome. Med J Aust 1980; 1(9): 417-9
10) Apnea in Children Hospitalized With Bronchiolitis. Pediatrics 2013; 132(5): e1194-201
11) Acute Otitis Media and Respiratory Virus Infections. Pediatr Infect Dis J 1999; 8(2): 94-9
12) Risk of Serious Bacterial Infection in Young Febrile Infants With Respiratory Syncytial Virus Infections. Pediatrics 2004; 113(6): 1728-34
13) Respiratory and Enteric Virus Detection in Children. J Child Neurol 2017; 32(1): 84-93
14) Febrile Status Epilepticus dut to Respiratory Syncytial Virus Infection. Pediatr Int 2017; 59: 878-84
15) Increased severity of respiratory syncytial virus airway infection due to passive smoke exposure. Pediatr Pulmonol 2018; Jul 30
16) Rates of hospitalization for Respiratory Syncytial Virus Infection among Children in Medicaid. J Pediatr 2000; 137(6): 865-70
17) Severity of Respiratory Syncytial Virus Bronchiolitis is Affected by Cigarette Smoke Exposure and Atopy. Pediatrics 2005; 115(1): e7-14
18) Manual fo Childhood Infections 4th edition
19) Respiratory syncytial virus in early life and risk of wheeze and allergy by age 13 years. Lancet 1999; 354: 541-5
20) Asthma and allergy patterns over 18 years after severe RSV bronchiolitis in the first year of life. Thorax 2010; 65: 1045-52
21) Effect of palivizumab prophylaxis on subsequent recurrent wheezing in preterm infants. Pediatrics 2013; 132: 811-8
22) The effect of respiratory syncytial virus on subsequent recurrent wheezing in atopic and nonatopic children. J Allergy Clin Immunol 2010; 126: 256-62
23) Risk factors for asthma after infant bronchiolitis. Allergy 2018; 73(4): 916-22
24) Preschool asthma after bronchitis in infancy. Eur Respir J 2012; 39(1): 76-80
25) Transient Tachypnea of the Newborn Is Associated With an Increased Risk of Hospitalization Due to Respiratory Syncytial Virus Bronchiolitis. Pediatr Infect Dis J 2019; 38: 419-21
26) Respiratory Syncytial Virus–Associated Hospitalizations Among Children Less Than 24 Months of Age. Pediatrics 2013; Pediatrics 132(2): e341-8
<更新>
2019/3/17: 参考文献25, 26とその内容を追記
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