2019年9月26日木曜日

小児のインフルエンザに対するバロキサビル(ゾフルーザ®)投与の安全性と転帰の検討

はじめに

・ゾフルーザはバロキサビルマルボキシル(Baloxavir marboxil)と呼ばれる新しい抗インフルエンザ薬の商品名である.
・これまで使用されてきた抗インフルエンザ薬(タミフルなど)と異なるメカニズムでウイルスの増殖を抑制する薬剤である.
・2018年3月に販売開始となり, 小児においても10kg以上であれば使用可能である.
・販売は承認されているものの, これまで12歳未満の小児で効果を確認した研究はこれまで発表されておらず, 効果は不明である.
・その他のデータについても12歳未満の小児では特にデータが乏しい.
・ゾフルーザはアメリカなど他の国・地域でも承認されているところはあるが, 本ブロクの著者の知る限りいずれも12歳以上のみである.


・今回は以下の文献について紹介する.

Baloxavir marboxil in Japanese pediatric patients with influenza: safety and clinical and virologic outcomes. Clin Infect Dis. 2019 Sep 20

小児のインフルエンザに対するバロキサビル投与の安全性と臨床・ウイルス学的転帰を分析した日本での研究

方法

・日本で行われた2016-2017年シーズンにおける小児科外来での前向きオープランラベル多施設研究
・すべての患者でバロキサビルの単回投与が行われた
 ・投与量は患者の体重に基づいて決定された


患者の条件
・年齢: 1歳以上12歳未満
・体重: 5kg以上
・体温38℃以上の発熱とインフルエンザ迅速検査陽性によってインフルエンザと診断された患者
・7歳以上の場合には中等度以上の呼吸器症状(咳嗽や鼻汁・鼻閉)が1つ以上ある場合に研究に登録された
・発症(最初に体温が37.5℃以上となった時)からスクリーニングまでの時間は48時間以内であった


評価方法
・安全性の評価については, 有害事象(adverse events: AEs),の発生率と重症度, 治療関連のAEs, バイタルサイン, 臨床検査で評価した
・体温測定は第3病日までは1日4回, 第4-14病日は1日2回(朝夕)に行なった
・咳嗽や鼻汁・鼻閉の重症度の評価は第9病日までは1日2回(朝夕), 第10-14病日は1日1回(夕)行なった
・ウイルス学的検査を行うために鼻咽頭スワブ検体を第1, 2, 3, 4, 6, 9病日に採取した
・血清でのhemagglutinin inhibition (HAI)抗体検査は第1, 15病日に行なった


評価項目
・主要臨床エンドポイント: 投与から改善までの時間
・改善は以下の定義を満たして, かつ21.5時間以上続いた場合をさす
 ・咳嗽と鼻汁・鼻閉の両者がないか軽度
 ・腋窩で測定した体温が37.5℃未満

・上記以外でも以下について評価を行なった
 ・ウイルス検出が最初に認めなくなる, および持続的に認めなくなるまでの時間
 ・発熱がみられなくなるまでの時間
 ・再発熱
 ・インフルエンザ関連合併症の発生率


ゾフルーザ低感受性ウイルスの評価
・ゾフルーザが低感受性となるPA/I38X置換ウイルスの検出のために治療前後のスワブ検体で評価を行なった




結果

・108人が研究にと黒くされ, 107人でバロキサビルが投与された
 ・107人中3人ではRT-PCRでインフルエンザ陰性であったために除外された
・患者の年齢の中央値は8歳
・83.7%がインフルエンザA (H3N2)ウイルスであった
・84.6%で発症後24時間以内に治療が開始された


有害事象
・37人(34.6%)の患者で49件のAEsが報告された
・最も多いAEsは消化管障害(15.0%)で, 8人(7.5%)で嘔吐がみられた
 ・その他の有害事象の発生率は比較的低かった


臨床的評価
・改善までの時間の中央値は44.6時間(95%信頼区間[CI]: 38.9-62.5時間)であった
 ・81.6%の患者では治療開始後120時間までには改善していた
・改善までの時間はインフルエンザBとインフルエンザA (H3N2)で同等であった
・発熱がみられなくなるまでの期間の中央値は21.4時間(95%CI: 19.8-25.8時間)であった
・第3, 4病日以降での再発熱の発生率は約10%でみられた


ウイルス学的評価
・バロキサビル投与から持続的なウイルスが検出しなくなるまでの期間の中央値はインフルエンザAよりもインフルエンザBの方が長かった(24.0時間 vs. 144.0時間)


ゾフルーザ低感受性ウイルスの評価
・77人で治療前後でのPA/I38X置換ウイルスについての評価を行うことができた
 ・治療前では変異ウイルスが検出された患者はいなかった
 ・最後に陽性となった検体においてPA/I38T/M置換ウイルスは23.4%で検出された
  ・第6病日が10人, 第9病日が8人
・PA/I38/M置換ウイルスがみられた患者では, みられなかった患者と比べて以下のような特徴がみられた:
・ウイルスが持続的にみられなくなるまでの期間の中央値は長かった(180.0時間 vs 24.0時間)
・第3病日でのウイルス価の上昇がみられた割合が高かった(72.2% vs 13.6%)
・改善するまでの期間の中央値が長かった(79.6時間 vs 42.8時間)
・発熱がみられなくなるまでの時間が長かった(29.5時間 vs 20.8時間)
 ・治療後72時間以降での一過性の発熱と症状の発生率が高かった(23.5%と37.5% vs 8.5%と20.5%)
・PA/I38T/M置換ウイルスは以下の患者ではより出現率が高かった:
・ベースラインでのHAI抗体価<40(HIA抗体価≧40と比べて)
・5歳以下(それより年長の児と比べて)




まとめ

・投与された児のうち32.4%で有害事象がみられ, そのうち消化器障害(特に嘔吐)の頻度が高かった
・ゾフルーザに低感受性のウイルスは23.4%で検出された
・ゾフルーザに低感受性のウイルスが検出された患者では, ウイルスが検出されなくなるまでの期間が長くなり, 症状改善までにも時間を要するかもしれない.
・ゾフルーザの効果については今回の研究では評価されておらず, 効果については不明なままである.

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