小児におけるインフルエンザ発症とインフルエンザによる入院に対するインフルエンザワクチンの効果を診断陰性例コントロールデザインを用いて検討した日本での研究
方法
・本研究には小児科外来と小児科病棟の両方を有する22の病院が参加した・2015年11月1日から2016年3月31日の間で以下の生後6か月から15歳までの小児全員が対象となった:
・38℃以上の発熱がある
・咳嗽か鼻汁, あるいは両方がある
・小児科外来で迅速検査を受けた
・発症から14日以内にインフルエンザワクチンを接種した児は除外した
・インフルエンザの診断は鼻咽頭スワブから得られた検体を用いて行われた
・いくつかの異なる種類のキットが用いられたが, どのキットも感度や特異度は同程度である
・研究に登録される前にノイラミニダーゼ阻害薬(NAI)で治療されていた患者はいなかった
・迅速検査で陽性となった患者を症例患者, 陰性となった患者を対照患者とした
・インフルワクチンの接種情報がはっきりしない児は除外した
・診断陰性例コントロール(test-negative case control : TNCC)デザインを用いてインフルエンザワクチンの効果を評価した
・インフルエンザによる入院に対するインフルエンザワクチンの効果は症例対照研究とTNCCデザインの両方を用いて行なった
・症例対照研究に関しては, 迅速検査の結果に関わらず, インフルエンザ様疾患と診断され入院しなかった児を対照患者とした
・効果および入院に対する予防効果を2013-2016年の3シーズンでも検討した
・2013/2014年と2014/2015年シーズンで用いられたインフルエンザワクチンは3価ワクチンであった
結果
・2015/2016年シーズンで4496人の小児が研究に登録されたが, そのうち87人は除外された2015/2016年シーズンでのワクチンの効果
・それぞれの条件におけるワクチンの効果:
・インフルエンザ全体: 49%
・インフルエンザA: 57%
・インフルエンザB: 34%
・年齢別では6-11か月の小児では効果はとても低かったが, 1-12歳では効果は中等度以上であった
3シーズンでのワクチンの効果
・3シーズンでのそれぞれの条件におけるワクチンの効果:
・インフルエンザ全体: 45%
・インフルエンザA: 51%
・インフルエンザB: 32%
・3シーズンでの分析においても6-11か月の児におけるワクチンの効果は低かった
2015/2016年シーズンでの入院に対する効果
・症例対照研究:
・9741人のインフルエンザ様疾患小児が対照群となった(そのうちワクチンを接種していたのは47.1%)
・重症で入院が必要なために入院となった児は775人であった(そのうちワクチンを接種していたのは30.8%)
・それぞれの条件における入院に対するワクチンの効果:
・インフルエンザ全体: 46%
・インフルエンザA: 52%
・インフルエンザB: 28%
・TNCCデザイン:
・775人の迅速検査陽性患者が入院した(ワクチン接種率は30.8%)
・668人の迅速検査陰性患者が入院しており, これらの児を対照群とした(ワクチン接種率は47.8%)
・それぞれの条件における入院に対するワクチンの効果:
・インフルエンザ全体: 48%
・インフルエンザA: 54%
・インフルエンザB: 34%
3シーズンでの入院に対する効果
・症例対照研究:
・2997人の小児が対照群となった(そのうちワクチンを接種していたのは45.7%)
・重症で入院が必要なために入院となった児は341人であった(そのうちワクチンを接種していたのは31.1%)
・それぞれの条件における入院に対するワクチンの効果:
・インフルエンザ全体: 41%
・インフルエンザA: 55%
・インフルエンザB: 23%
・TNCCデザイン:
・341人の迅速検査陽性患者が入院した(ワクチン接種率は31.1%)
・403人の迅速検査陰性患者が入院しており, これらの児を対照群とした(ワクチン接種率は44.9%)
・それぞれの条件における入院に対するワクチンの効果:
・インフルエンザ全体: 46%
・インフルエンザA: 59%
・インフルエンザB: 26%
まとめ
・小児において, インフルエンザワクチンは発病予防だけでなく入院を防ぐ効果もあることが示唆されたちょっと思ったこと
1歳未満におけるインフルエンザワクチンをどう考えるかインフルエンザワクチンは生後6か月から接種が推奨されている. 米国小児科学会から発表されている2019/2020年シーズンでのインフルエンザに対する予防とコントロールの指針でも生後6か月以上の児に対するワクチン接種は推奨されている1).
その一方で, 本研究で示されているように年齢別で効果が異なることも多くの研究から示されている. そのため年齢別の効果について検討されているものの, 生後6-23か月がひとくくりとなって分析されている研究も多い. 従って, 6か月から1歳未満という限られた範囲の年齢層での効果については十分に評価ができていない可能性はある.
今回の研究結果では1歳未満におけるインフルエンザワクチンの効果は極めて限定的であることが示唆されている. しかしこの結果だけで1歳未満の児でワクチンの接種は不要だとは判断できない. この研究では
・1歳未満の症例数が少ないこと
・発症や入院に対する予防効果の評価に留まっている
・インフルエンザの診断に用いられた検査は迅速検査(標準はRT-PCR)
であるなど, 気になる点もある.
従って, 総合的には現状の推奨通り6か月以上の小児でインフルエンザワクチンの接種を推奨する, という考え方のよいと思われる.
参考文献
1) Recommendations for Prevention and Control of Influenza in Children, 2019–2020. Pediatrics 2019 Sep
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