2018年11月18日日曜日

小児の抗菌薬治療に関するChoosing Wisely

"Choosing Wisely"は患者と医師に対して過剰医療についての情報を提供することで医師と患者との関係を密にし, 患者中心医療の推進を目的とするキャンペーンです(JAMA 2012; 307(17): 1801-2).
日本では"賢明な選択"などと呼ばれることが多いです.
このキャンペーンでは, 根拠に乏しいにも関わらず行われている様々な過剰な医療行為を, 根拠に基づいて見直してリストアップしています.

米国の各学会が指針を発表しており, 米国小児科学会(American Academy of Pediatrics: AAP)も現在10項目発表しており, 当ブログでも紹介しています.
(記事: 米国小児科学会におけるChoosing Wisely)

2018年11月12日にAAPで新たに抗菌薬治療戦略に関する5項目が発表されたので, 紹介します.
内容としては, どちらかというと重症感染症のものが中心となっているようです.




American Academy of Pediatrics – Committee on Infectious Diseases and the Pediatric Infectious Diseases Society
Five Things Physicians and Patients Should Question


1. 侵襲性細菌感染症が疑われる患者において, 例外的な症例を除いて, 血液, 尿およびその他の適切培養が得られていることを最初に確認せずに, エンピリックな抗菌薬治療を開始しない.
 抗菌薬治療を開始する前に適切な培養検査を提出すべきという内容です. ただし, 抗菌薬治療開始前にすべての検体を提出できない(臨床的に状態が不安定なことを理由として)場合でも, 静脈路確保の時に血液培養を採取して, その他も速やかに提出する, といったことにも言及しています.
 また, 症例によってはウイルス感染も考慮することなどについても触れています.
(タイトルと説明にやや乖離があるような気もしますが)



2. 合併症のない清潔手術および準清潔手術で切開部が閉鎖された後, 周術期および継続的な予防として広域スペクトラム抗菌薬を使用しない.
 周術期の予防的抗菌薬は術後感染症を減らすことができますが, 長期や広域な抗菌薬投与の有益性は示されておらず, 耐性菌を生み出したり, C. difficile感染症などを引き起こす可能性があるため, 適切な投与量・投与期間で行うべき, という内容です.



3. その他が健康で予防接種を受けている, 合併症のない市中肺炎の入院患者ではアンピシリン以上に広域な抗菌薬で治療しない.
 その他が健康で予防接種を受けている合併症のない市中肺炎ではアンピシリンで十分治療が可能であり, AAPのガイドラインでもアンピシリンが推奨されています. それよりも広域スペクトラムの抗菌薬使用と比べても治療失敗率は変わらず, また耐性菌を生み出したり, C. difficile感染症の原因となっていることが示されています.
 ただし, 膿胸などの合併症がある場合や, 地域で細菌の薬剤耐性化がより進んでいる場合などではより広域スペクトラムが必要となる場合はあります.



4. 狭域スペクトラムの抗菌薬に耐性を有する病原体の既知のリスクがない限り, NICU患者にエンピリックでバンコマイシンやカルバペネムは使用しない.
 バンコマイシンとカルバペネムなどの抗菌薬はその他の抗菌薬に反応しない高度な抗菌薬耐性菌に対して有効ですが, これらの抗菌薬の過剰使用は選択圧に影響を及ぼし, 治療できない感染症による問題が発生するリスクを上昇させる可能性があります.



5. 適切な抗菌薬に移行できる感染症に罹患している, その他が健康な児では末梢留置型中心静脈カテーテルの留置や持続的な静注抗菌薬の使用を行わない.
 末梢留置型中心静脈カテーテル(PICC)は抗菌薬などの静注薬の長期投与が必要な場合に留置されることがあります.
 ただし, ほとんどの感染症は一定期間の抗菌薬静注後, 経口抗菌薬への反応は良好となります. PICCの長期留置によるリスクもあるため, 経口にスイッチできる場合には経口スイッチを考慮します.



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