2018年11月16日金曜日

5歳未満の小児での敗血症様疾患や髄膜炎患者でのルーティンでの髄液検体でのエンテロウイルス・ヒトパレコウイルス検査の導入とその結果の評価

Outcome of routine cerebrospinal fluid screening for enterovirus and human parechovirus infection among infants with sepsis-like illness or meningitis in Cornwall, UK
Eur J Pediatr 2018; 177(1): 1523-9

小児における敗血症様疾患や髄膜炎に対するエンテロウイルス(EV)とヒトパレコウイルス(HPeV)のルーティンの髄液検査の導入前後で評価したイギリスでの後ろ向き研究

EVは小児において髄膜炎などを引き起こす原因としてよく知られている.
HPeV感染症は新生児や乳児早期では敗血症様疾患(SLI)や髄膜炎を引き起こす原因として認識されてきている1)
HPeVによるSLI症例では, 一部に神経学的後遺症を残す可能性が報告されており2), 当ブログの記事でも紹介している.
今回の研究では, 小児期でのSLIや髄膜炎に対してルーティンでの髄液検体でのHPeV/EV検査を導入して, その前後での結果について評価を行なっている.


方法

・対象: イギリスのCornwallで敗血症様疾患や髄膜炎を発症した5歳未満の小児
・髄液検体のルーティンでのウイルススクリーニングの導入前後でEV/HPeV感染症と診断された数を後ろ向きに評価
・髄液検査:
 ・2012-2015年で, 細胞数増加(WBC>5/mm3)あるいは蛋白増加(蛋白>0.45g/L)があった場合, 単純ヘルペスウイルス(HSV)・水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)・EVのPCR検査をルーティーンで提出した
  ・いくらかの検体はHPeVに関しても検査を行なった
 ・2015年4月: HSV, VZV, EV, HPeVを含めた検査を導入
 ・2016年1月: 上記ウイル検査スに関して細胞数増加や生化学的検査の結果によらず提出するようになった
・ウイルスに関してはリアルタイムマルチプレックスRT-PCRアッセイを用いて検査を行なった





結果

・2012年1月から2016年12月までで789例のCSF検体が提出された
 ・検体の79.3%は生後3か月未満の小児のものであった


2012-2015年の結果(髄液検査の結果に基づいてウイルス検査を提出)
・2012-2015年では髄液検査634検体が提出された
・634検体のうち98検体(15.4%)が基準を満たしたためウイルス検査が行われた
 ・20検体(20.4%)でEVが検出され, HSV, VZVは検出しなかった
 ・54検体(55%) でHPeVに対する検査が行われたが, 検出した検体はなかった


2016年の結果(髄液検査結果によらずウイルス検査を提出)
・155検体が提出され, そのうち140検体が使用するのに十分な量があった
・EVが20検体(19%), HPeVが14検体(10%)で検出された
・HSV, VZVが検出された検体はなかった


研究期間全体での検討
・全研究期間で, EV/HPeVが検出されたうち検体のうち90.1%が3か月未満の児のものだった
2012-2015年の基準のウイルス検査提出基準を用いると, 2016年ではEVは48.1%(13/27), HPeVは78.5%(11/14)が見逃されていた可能性がある.
・2012-2015年ではEVは20例のうち11例が5-7月の間で検出されていた
・2016年ではHPeVは14例のうち12例(85.7%), EVは27例のうち13例(48%)が5-7月に検出されていた


2016年のEV/HPeV陽性例の検討
・HPeV陽性患者14例のうち, 12例(85.7%)は生後2か月未満だった
 ・EV陽性患者の年齢分布はHPeVと同様であった
・HPeV陽性患者とEV陽性患者の間で臨床症候に大きな差はなかった
 ・班状丘疹はHPeV陽性患者の方がEV陽性患者よりも多くみられる傾向があった(42.9% vs 22.2%)
・HPeV/EV陽性患者でCRP 1.0mg/dLを超えたのは36.5%のみだった
・髄液細胞検査:
 ・髄液細胞数はHPeV陽性患者よりもEV患者の方が有意に高かった
 ・HPeV陽性患者14例で髄液細胞数増加(WBC>5mm3)がみられた患者はいなかった
  ・蛋白増加は3例(21.4%)のみでみられた
 ・EV陽性患者の66%は髄液細胞数正常であった


入院期間と抗菌薬投与
・同じコホート内において, EV/HPeV陽性患者では, 病原体が検出されなかった患者と比べて以下の通りであった:
 ・平均入院期間が短かった(3.8日vs 5.9日)
 ・平均抗菌薬投与期間が短かった(2.8日 vs 4.7日)



まとめ

・HPeV/EV陽性患者では髄液細胞数や生化学的検査で正常な患者は少なくなかった(特にHPeV陽性患者はほとんどが正常)
・HPeV/EV陽性患者に対してルーティンで髄液検体でのウイルス検査を施行すると入院期間や抗菌薬投与期間が短くなるかもしれない


参考文献
1) Human parechoviruses as an important viral cause of sepsis-like illness and meningitis in young children. Clin Infect Dis 47(3):358-63
2) Cerebral imaging and neurodevelopmental outcome after entero- and human parechovirus sepsis in young infants. Eur J Pediatr 2017; 176: 1595-602

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