2018年11月11日日曜日

溶連菌性咽頭炎

はじめに

溶連菌性咽頭炎は"溶連菌"とよく呼ばれるA群β溶血性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)による咽頭炎で, 小児の代表的な細菌感染症の1つです.
溶連菌性咽頭炎は治療は単純ですが, 診断・管理などでは色々考慮すべきこともありますので, 簡単にまとめてみました.





疫学


<要約>
・5-15歳に見られやすく, 咽頭炎の20-30%を占めるが, 低年齢ではより頻度は低い
・1年中みられるが, 特に冬から春にかけて流行しやすい


 溶連菌性咽頭炎は小児や若年成人において, もっとも頻度の高い細菌性咽頭炎で1), 5-15歳の咽頭炎の原因のうち20-30%を占める2).
 2010年のメタアナリシスでは18歳未満の小児の咽頭炎のうちで溶連菌が占める割合は37%だったが, 5歳未満では24%と低かった4).
 さらに3歳未満に関しては10-14%で, さらにASO(溶連菌に対する抗体)の上昇がみられる場合に限ると0-6%と報告されている15)16).
 溶連菌性咽頭炎は1年を通してみられるもの, 特に冬から春にかけてみられやすい3).





臨床症状


<要約>
・発熱, 咽頭痛, 頭痛など様々な症状がみられる
・3歳以上では典型的な症状がみられる一方, 3歳未満では症状は非典型的であり注意が必要.

 2012年のシステマティックレビューでは, 主要な症状の出現率は以下の通りであった:5)
 ・咽頭発赤: 93%
 ・食欲不振: 62%
 ・発熱: 50%
 ・頭痛: 39%
 ・腹痛: 24%
 また, 上記の研究では約70%の症例では鼻汁や咳嗽は認めていなかった. 猩紅熱様発疹はみられる頻度は低い(8%)ものの, 特異度は高い(98%). 発疹は急性期以外でも, 発症後7日以上経過してから出現する遅発性発疹が2%程度でみられたとする報告がある7).
 ただし, 上記のような典型的な症状がみられるのは3歳以上であり, 3歳未満では非典型的であるため6), 3歳以上と3歳未満では分けて考えるのが好ましい


3歳以上
 溶連菌性咽頭炎の症状としては発熱, 咽頭痛, 頭痛, 腹痛, 嘔気・嘔吐, 頸部リンパ節腫脹などが典型的な症状がみられる.
 上述の通り, 咳嗽や鼻汁がみられないケースは多い.


3歳未満
 3歳以上とは異なり, 鼻汁や鼻閉などが目立つことがある.


急性期の合併症
・主な急性期の合併症: 扁桃周囲膿瘍, 咽後膿瘍, 化膿性頸部リンパ節炎, 乳様突起炎, 急性副鼻腔炎, 急性中耳炎, 肺炎
・急性中耳炎:
 合併頻度は低く, 3%程度という報告がある6)
 その他の急性中耳炎と比べると, 片側性が多い, 発熱や嘔吐を伴う頻度が低い, 鼓膜穿孔・乳様突起炎を合併しやすいといった特徴が報告されている8).


晩期の合併症
・主な晩期の合併症: リウマチ熱, 溶連菌感染後急性糸球体腎炎(PSAGN), post-streptococcal reactive arthritis (PSRA), 小児自己免疫性溶連菌関連精神神経障害 (Pediatric autoimmune neuropsychiatric disorders associated with streptococcal infection: PANDAS)
・リウマチ熱:
 ・咽頭炎からAGN発現までの期間は平均18日
 ・C群およびG群溶連菌性咽頭炎ではリウマチ熱は続発しない
・溶連菌感染後急性糸球体腎炎(PSAGN)
 ・咽頭炎からAGN発現までの期間は平均10日
 ・咽頭炎ではGASのM12型、膿皮症ではGASのM49型が腎炎を惹起しやすいとされている




診断


<要約>
・臨床症状や身体所見のみでは診断はできない
・診断には咽頭スワブを用いた迅速検査や培養検査が有用だが, 一般的には迅速検査がよく用いられている
・IDSAのガイドラインでは3歳未満では通常検査の適応とならないとされている


どのような場合に溶連菌性咽頭炎を疑うか
一般的には年齢や流行状況や症状, 身体所見などから総合的に判断する.
 具体的な指標としては
・ウイルス性が強く疑われる流行状況
・ウイルス性が強く疑われる症状(例: 咳嗽, 鼻汁, 嗄声, 口腔内潰瘍)
がある場合には, 可能性が低いと判断される.
 例えば, 発熱や咽頭痛がなくて咳が強く続いているような状態であれば, 溶連菌が関与している可能性はとても低いと考えられる.
 また逆に溶連菌性咽頭炎がより疑われる指標としては2012年のシステマティックレビューでは
 ・猩紅熱様発疹
 ・口蓋点状出血
 ・滲出性咽頭炎
 ・嘔吐
 ・有痛性頸部リンパ節腫脹
が示されている6)
 ただし, 症状や徴候などの組み合わせで臨床的に高い精度で診断できるかも検討しているが, 現時点で知られている方法では臨床的に高い精度で診断することはできないと報告されている6)


検査
 診断には臨床的に疑って検査を用いて診断する必要がある. 検査としては以下のものが上げられる:
・咽頭スワブを用いた迅速検査
・咽頭培養
のいずれかが用いられる.
 迅速検査は培養検査と比べると感度が低い(迅速: 70-90% vs 培養 90-95%)ものの, 速やかに結果が得られることから, 一般的な臨床現場では迅速検査が用いられていることが多いと思われる2)
 不要な検査は課題となっているが, 2018年のアメリカの研究では介入により不要な検査が23.5%減少した(64.0→40.5%)と報告している. ちなみに不要な検査の理由で1番多かったのは2つ以上のウイルス性の症状(鼻汁・咳嗽など)の存在であった13)


IDSAのガイドラインにおける検査の位置付け
米国感染症学会(IDSA)のガイドラインでは, 以下の理由により3歳未満では通常診断的検査の適応とならないとしている:2)
・3歳未満ではリウマチ熱は稀
・3歳未満では咽頭炎のうちで溶連菌が占める割合が低い
・3歳未満では典型的な症状を示すことが少ない
 ちなみに, 兄弟で溶連菌性咽頭炎と診断された人がいる, といった危険因子がある場合には考慮されるかも知れないとされている.





治療・管理


<要約>
・抗菌薬治療が必要だが, 主な目的は合併症の予防
・抗菌薬治療の第1選択はペニシリン系であり, 日数短縮だけを目的にして第2選択は選ばない
・溶連菌感染後の全例での尿検査は不要だと考えられる


治療の目的
溶連菌性咽頭炎と診断された場合には後述の通り抗菌薬で治療を行うが, 治療することにより以下に対して有益であることが知られている:9)
・有症状期間の短縮10)
・周囲への感染のリスクの軽減
・溶連菌による合併症(扁桃周囲膿瘍など)のリスクの軽減
・リウマチ熱のリスクの軽減
ただし, 無治療でも通常3-5日で症状は改善がみられるため11), 重要な治療の目的は合併症の予防である.


抗菌薬治療
溶連菌感染症に対してはペニシリン系が第1選択.
セフェム系抗菌薬の短期療法も同等の効果があることを示す報告がいくつかあり, 両者はほぼ同等と考えられている.
 小児呼吸器感染症診療ガイドライン2017では以下の理由によりペニシリン系のアモキシシリン(AMPC)を第1選択としている:
 ・AMPCよりも経口第3世代セフェム系の方が抗菌スペクトラムが広い
 ・AMPCよりも経口第3世代セフェム系の方が高価
 ・セフェム系抗菌薬ではリウマチ熱予防のエビデンスがない
 AMPC治療は10日間であることと比較してセフェム系ではより短期間(5日間)であるため, 最後まで抗菌薬を内服してくれる可能性は短期療法の方が高いという有益性はある. しかし有益性を上記の理由が上回るため, 少なくともペニシリン系が使用できる状況で経口第3世代セフェム系を選択する必要はなく, 適切とは言えない(第3世代セフェム系がペニシリン系の代わりにはならない).


反復症例での治療・管理
 5-15%の症例では短期間に繰り返すことがありますが, 治療は初期にはアモキシシリンで治療可能です. ただし2-3回繰り返している場合にはクリンダマイシンや第1世代セフェム系を考慮すべきかもしれない9). 特にクリンダマイシンではカプセルの顆粒は苦味が強いため, カプセルで内服できない場合には後者を考慮する.
また, 治療終了後に検査で除菌されたかどうかの確認は不要.


尿検査
全例(スクリーニング)で行う必要はないと考えられる.
 溶連菌性咽頭炎の罹患後2週間程度で溶連菌観戦後急性糸球体腎炎(PSAGN)と呼ばれる合併症を発症することがある. 適切な抗菌薬治療を行ってもその合併症は予防できないため, その発見目的で, 溶連菌感染後2-3週間で全例で尿検査が行われていることは少なくないと思われる.
 全例で検査する上では少なくとも以下の点を考慮すべきかと思われる:
・早期発見することの有益性はあるのか
・尿検査の時期の設定の適切性と, 尿検査後の発症例の可能性についてどのように考えるか
・軽症例をどのように取り扱うか(軽度の血尿のみの場合, 良性家族性血尿などとの鑑別の困難さ, その後のフォローの適切性)

 早期発見することの有益性はこれまで知られていないため効果があるかどうかは不明である.
 尿検査の時期の適切性については
・2週間後に尿検査 → 2週間後以降で発症する例は結局見逃すことになるのでは?(尿検査を行っていない状況と同じではないのか?)
・3週間後に尿検査 → 2週間程度で発症する例では尿検査は間に合わない(尿検査を行っていない状況と同じではないのか?)
という問題が生じると思われる.
 従って, 必要性および検査時期もいずれも曖昧な点が多いことから, 受診やコストなどの負担も考慮すれば全例でのスクリーニングは不要と考えられる.
 2017年の日本での報告では, 肉眼的血尿眼瞼浮腫を指標にすることが有用で, PSAGNに対する全例の尿検査スクリーニングは不要ではないことが示されている14).





キャリア


<要約>
・症状がみられなくなったあとも溶連菌が咽頭に持続的みられることがあり, キャリアを呼ばれる.
・有効な治療を行なっても5-25%でキャリアが生じる


溶連菌性咽頭炎は適切な抗菌薬治療により多くの症例では, 早期に検査で菌を認めなくなります. しかし一定の割合で症状は改善しても咽頭に溶連菌を持続して認める状態となることがあり, その状態はキャリアと呼ばれています.
 ある報告では有効な治療を行なったあとでも5-25%程度でキャリアが生じるとされている17).
 キャリアに対してはルーティーンでは治療は推奨されていない. 理由としては
・リウマチ熱を引き起こすリスクが極めて低い
・周囲へ感染させるリスクが低い
が挙げられる. ただし, 家族内などで感染を繰り返している場合などでは治療が考慮されることはある.
 通常は治療は不要であるため, キャリアかどうか(除菌されているかどうか)の検査も不要.
 また, キャリア状態での長期的な影響については特に報告されていない.





出席停止期間


<要約>
・抗菌薬治療後24時間するまでは出席停止
・2018年に米国では治療開始後12時間までに短縮された


溶連菌性咽頭炎では適切な抗菌薬開始から24時間経過するまでは出席停止と決められている. これは以前の研究で, 治療開始後24時間で, 多くの症例において菌がみられなくなったことによる18)
 ある研究で治療開始後12-23時間の再検査で溶連菌陽性だった患者は9%のみだったということが示されており19), 米国では治療開始後12時間に短縮された20).
 従って, 日本でも今後出席停止の期間は短縮されるかもしれない.



参考文献
1) Acute Pharyngitis. N Engl J Med 2001; 344: 205-11
2) Clinical practice guideline for the diagnosis and management of group A streptococcal pharyngitis: 2012 update by the Infectious Diseases Society of America. Clin Infect Dis 2012; 55(10): e86-102
3) Burden of acute sore throat and group A streptococcal pharyngitis in school-aged children and their families in Australia. Pediatrics 2007; 120(5): 950-7
4) Prevalence of streptococcal pharyngitis and streptococcal carriage in children: a meta-analysis. Pediatrics 2010; 126(3): e557-64
12) 小児呼吸器感染症診療ガイドライン2017
14) A群溶連菌感染後の尿検査の必要性. 日児誌 2017; 121(7): 161-5
15) Group A beta-hemolytic streptococcal pharyngitis in preschool children aged 3 months to 5 years. Clin Pediatr (Phila) 1999; 38: 357-60
16) Group A beta-hemolytic streptococcal pharyngitis in children younger than 5 years. Isr J Med Sci 1994; 30: 619-22
18) Duration of positive throat cultures for group A streptococci after initiation of antibiotic therapy. Pediatrics 1993; 91(6): 1166-70

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