2018年3月19日月曜日

反復性耳下腺炎

はじめに

・反復性耳下腺炎は耳下腺で発生する繰り返す炎症によって耳下腺腫脹などの症状が引き起こされる疾患である
・原因は不明であるものの, 自己免疫性や唾液腺閉塞などの機序の関与が疑われている
・英語表記ではJuvenile Recurrent Parotitis (JRP)という名称が用いられることが多い.





疫学

年齢
・一般的には3-6頃が発症年齢とされる19)
・Leerdamらの53例での後方視的研究では2-5歳と10歳の二相性のピークがみられたと報告されている. また別の研究でも6歳と10歳の二相性に発症年齢のピークが存在していたことを報告している15). このため一般的に認識されている好発年齢である幼児期以降での発症も考慮する必要があるかもしれない.


性差
・男児の方が発症しやすいとされる19)が, 性差はないとする報告もある


その他
小児の耳下腺炎のうちでムンプスの次に頻度が高いとされる17)18)
・一般小児集団における有病率についてはわかっていない.
・散発例のほか, 常染色体優性遺伝形式での報告がある25)





臨床症候

・Leerdamらの報告では以下のような症状がみられた:
 ・耳下腺腫脹(100%)
 ・疼痛(92.5%)
 ・発熱(41.5%)
・Sitheequeらの報告でも, 上記と症状の発生率はほぼ同等であった15)
・症状の持続期間は2-7(中央値3)
・症状の出現頻度は一般的に3-4か月に1回程度とされるが, 報告によっては平均7-8エピソード/年みられていたとするものもある1)15).


耳下腺腫脹
・通常は片側性であるが, 両側性となることもある
 ・両側性では, 両側が同時に腫脹する場合と片側ずつ腫脹する場合とがある
 ・様々な報告はあるが, 一般的には約70%は片側性となるとされている1)


疼痛
・耳下腺の痛みは通常軽度とされる





画像検査

・画像検査としては一般的には超音波検査が用いられているほか, 唾液腺造影が用いられている報告も少なくない.
・Leerdamらの報告ではでは81%で唾液腺拡張がみられた1)
唾液腺造影よりも超音波検査の方が異常の検出において感度は良好


超音波検査
耳下腺の内部エコーが不均一, 多数の小さな低エコーの領域を認めるのが特徴であり, その他の耳下腺疾患との鑑別に有用である可能性が示唆されている10)
 ・流行性耳下腺炎では内部エコーは均一




診断

・現在までのところではコンセンサスが得られた診断基準は存在しない. そのため一般的には臨床像や画像所見などから総合して診断する.
・Garavelloらは以下のような診断基準を提示している(表)7)

表: 反復性耳下腺炎の診断基準例
 選択基準

 年齢: 16歳未満

 反復する片側性あるいは両側性の耳下腺腫脹

 過去6か月間で少なくとも2回のエピソード

除外基準

 閉塞性病変

 不正咬合

 Sjögren症候群

 選択的IgA欠損症




鑑別診断

主な鑑別疾患
 ムンプス, ウイルス性耳下腺炎(主にインフルエンザA型, コクサッキーウイルスA), 化膿性耳下腺炎, 唾石症, 膠原病(主にSjögren症候群), 選択的IgA欠損症22)23)繰り返しの嘔吐(過食症), 粘液嚢胞, 腫瘍


ウイルス性耳下腺炎
・主な原因となるウイルス16)コクサッキーウイルスAおよびB, エコーウイルス, EBウイルス, インフルエンザウイルスA型, パラインフルエンザ1型および3型, サイトメガロウイルス, 単純ヘルペスウイルス1型, ヒトヘルペスウイルス6型, HIV
・米国におけるインフルエンザシーズンでのムンプス以外での耳下腺炎の原因を検討した賢雄では, インフルエンザウイルスA型の頻度が最も高かった.


化膿性耳下腺炎
・原因としては黄色ブドウ球菌が最も多い
・基本的には片側性であるが, 17%では両側性でみられる16).


Sjögren症候群
 小児Sjögren症候群では60%程度で反復性耳下腺腫脹がみられる. 一方, Sjögren症候群でよく知られている乾燥症状は小児ではみられないことも多く, 出現率は約50%程度と考えれているが報告により幅広い12)13)14)
・小児におけるSjögren症候群の反復性耳下腺腫脹の発症年齢は, 一般的な反復性耳下腺炎の発症年齢よりも高いことが示唆されており21), 高年齢での発症では注意が必要かもしれない24).





管理

反復性耳下腺炎に対しては鎮痛薬やステロイド, 抗菌薬といった治療薬や, 唾液腺内視鏡での治療が用いられているが, 効果について明らかではないことが多く, 2018年のGaravelloらのシステマティックレビューでも十分な結論は得られなかったとしている7).
治療のうちでは唾液腺内視鏡についての研究が多く, 別のシステマティックレビュー・メタアナリシスでは有効な可能性が示されている8)


対症療法
・鎮痛薬の投与や局所を温めるなどが行われることがある


唾液腺内視鏡
・2015年のRamakrishnaらによるシステマティックレビュー・メタアナリシスでは成功率は70-80%程度とされており, 有効な可能性が示されている8)


その他
・経過中, 54%1回以上抗菌薬投与が行われていたとする報告がある





予後

・通常, 思春期以後からは自然に改善する傾向がみられる19)
・Leerdamらの53例の報告では低ガンマグロブリン血症が2, HIV感染症が1例でみられ, 1例はSjögren症候群とのちに診断されていた1)




<参考文献>
24) 平木崇正, 他. 血管炎ならびに反復性耳下腺炎で5年間経過観察された一次性Sjögren症候群の13歳女児例. 小児科臨床 2019; 72(11): 1661-1666.

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