2018年3月5日月曜日

経口第3世代セフェム系抗菌薬Q&A

まとめ

・経口第3世代セフェム系抗菌薬はよく用いられている抗菌薬で, 代表的な商品としてはフロモックスやメイアクトなどがある.
・抗菌スペクトラムが広く(効果を示す菌の種類が多い)、グラム陽性球菌にはやや活性が低いという特徴がある.
・主なデメリットとしては吸収率が低い, 一部の抗菌薬での低カルニチン血症のリスクがある, 抗菌スペクトラムが広過ぎるという点が挙げられる.
・デメリットも考慮すれば, ほとんどの場合経口第3世代セフェム系抗菌薬が他の抗菌薬を上回ることはない.
・溶連菌や肺炎, 急性中耳炎の外来治療で用いられることは少なくないが, いずれの感染症も第1選択はアモキシシリンであり, 多くの場合には適切な投与量・治療期間により十分効果が期待できる.





セフェム系抗菌薬とはどのようなものでしょうか?

β-ラクタム環をその構造に含む抗菌薬であるβ-ラクタム系抗菌薬は主に4種類に分けられ, そのうちの1種類がセフェム系抗菌薬です. セフェム系はβ-ラクタム環に六員環がつく基本構造を有しています.
 セフェム系には多くの種類があり, 発売時期に応じて第1-4世代セフェム系に分けられています.
 ちなみにセフェム系はセファロスポリン系, セファマイシン系, オキサセフェム系に分けられます.





経口第3世代セフェム系抗菌薬とはどのようなものでしょうか?

代表的な商品名としてはフロモックス, メイアクト, セフゾン, バナン, トミロン, セフスパンが挙げられます.
 ちなみに後発品の名称を含めると主に以下のようなものがあります
 ・フロモックス = セフカペンピボキシル
 ・メイアクト = セフジトレンピボキシル
 ・セフゾン = セフジニル
 ・バナン = セフポドキシムプロキセチル
 ・トミロン = セフテラムピボキシル
 ・セフスパン = セキシム / セキスパノン / セフィーナ / セフパ
 第3世代セフェム系抗菌薬を含むセフェム系と, マクロライド系とニューキノロン系を合わせると日本で処方されている内服抗菌薬の80%を占めています

<参考>
Y Muraki, et al. Nationwide surveillance of antimicrobial consumption and resistance to Pseudomonas aeruginosa isolates at 203 Japanese hospitals in 2010. Infection 2013; 41(2): 415-423.





第3世代セフェム系抗菌薬の特徴は?

全般的にセフェム系は世代が上がるこばグラム陰性桿菌に対して抗菌スペクトラムが広がり, グラム陽性球菌に関しては活性が低下する傾向があります.
 つまり第3世代セフェム系抗菌薬の特徴としては抗菌スペクトラムが広く(効果を示す菌の種類が多い)、グラム陽性球菌にはやや活性が低いことが挙げられます.





経口第3世代セフェム系抗菌薬の欠点は?

第3世代セフェム系抗菌薬にはいくつか欠点があります. 主には
 ・抗菌スペクトラムが広過ぎる
 ・一部の抗菌薬での低カルニチン血症のリスクがある
 ・吸収率が低い(飲んでも吸収されないので, 感染部位まであまり抗菌薬が届かない)
 ・代表的な抗菌薬であるアモキシシリンと比べて高価





経口第3世代セフェム系抗菌薬の吸収率はどの程度なのでしょうか?

データによりやや異なりますが, おおよそでは以下のようなデータがあります.
 ・フロモックス: 30%
 ・メイアクト: 16%
 ・セフゾン: 25%
 ・バナン: 50%
 ・トミロン: ?
 ・セフスパン: 40%
 従って, 最も良好なものでも内服した量のうち半分も吸収されていないことになります.





低カルニチン血症とは一体どのようなものでしょうか?

小児などに対するピボキシル基を有する抗菌薬の投与により低カルニチン血症が引き起こされることが報告されています. 重篤な低カルニチン血症では低血糖やけいれん, 脳症などを引き起こし後遺症を残すこともあります.
 長期投与例だけでなく, 投与開始翌日での発症例も報告されているため, 投与例すべてで注意が必要です.
 ピボキシル基により尿中へのカルニチン排泄が亢進して低カルニチン血症が引き起こされると考えられています.

 重篤な結果を招く恐れがあり2012年に日本小児科学会から注意喚起が出されています. ただその後も報告が続いていることから, 2019年には改めて「ピボキシル基含有抗菌薬の服用に関連した低カルニチン血症に係る注意喚起」が出されています.

ちなみにピボキシル基を有する経口第3世代セフェム系としてはフロモックス, メイアクト, トミロンなどが挙げられます. またオラペネムもピボキシル基を有する抗菌薬です.

<参考>
ピボキシル基含有抗菌薬投与による二次性カルニチン欠乏症への注意喚起. 日本小児科学会誌 2012; 116(4): 804-6
日本小児科学会. 「ピボキシル基含有抗菌薬の服用に関連した低カルニチン血症に係る注意喚起」(2019年7月)





カバーしている菌の種類が多い方が治療が成功する可能性が高く安全だと思うのですが?

 感染症の診療では, まず診断をして, その診断を基にして原因となっている菌を推定して抗菌薬を選択します.
 つまり適切に診断ができていれば大体の菌の予測はできるため, その予測された菌をカバーして治療を行えば基本的には問題ありません. また様々な研究で頻度の高い感染症などでは第1選択薬としてどの抗菌薬に選択すべきかということは十分に検討されており, 結果として経口第3世代セフェム系を積極的に使用すべきとされた感染症はほぼありません.
 従って, カバーする菌の種類を多くしてもそれほどメリットはなく, むしろデメリットとなっている可能性もあるため安全とも言えないです.








溶連菌感染症に対して経口第3世代セフェム系を第1選択で使用することは好ましいでしょうか?

溶連菌感染症に対してはペニシリン系が第1選択とされています. セフェム系抗菌薬の短期療法も同等の効果があることを示す報告がいくつかあり, 両者はほぼ同等と考えられています.
 小児呼吸器感染症診療ガイドライン2017では以下の理由によりペニシリン系のアモキシシリン(AMPC)を第1選択としています:
 ・AMPCよりも経口第3世代セフェム系の方が抗菌スペクトラムが広い
 ・AMPCよりも経口第3世代セフェム系の方が高価
 ・セフェム系抗菌薬ではリウマチ熱予防のエビデンスがない
 AMPC治療は10日間であることと比較してセフェム系ではより短期間であるため, 最後まで抗菌薬を内服してくれる可能性は短期療法の方が高いという有益性はあります. しかし有益性を上記の理由が上回るため, 少なくともペニシリン系が使用できる状況で経口第3世代セフェム系を選択するのは好ましくありません(適正とは言い難いです).

 ちなみに2019年に出された「抗微生物薬適正使用の手引き 第二版」ではアモキシシリンのみが第1選択薬として提示されています.

<参考>
小児呼吸器感染症診療ガイドライン作成委員会「小児呼吸器感染症診療ガイドライン2017」
厚生労働省「抗微生物薬適正使用の手引き 第二版」





外来での市中肺炎治療において, 耐性菌が心配なので経口第3世代セフェム系を使用した方がよいでしょうか?

通常, 経口第3世代セフェム系は市中肺炎での第1選択薬とはなりません. これらの薬剤と比較してアモキシシリン(AMPC)の方が数倍高い血中濃度が得られ, 耐性菌の場合でもアモキシシリンが効果を示すことは少なくありません.
 小児呼吸器感染症診療ガイドライン2017でもアモキシシリン(AMPC)が第1選択となっています. 第1選択薬で効果がみられなかった場合にその他の薬剤を考慮すべきかと思われます.
 ちなみに効果がみられない場合に重篤な経過となる恐れがある場合には外来での経口抗菌薬治療となることはほとんどないと思われるため, その心配はないかと思われます.

<参考>
小児呼吸器感染症診療ガイドライン作成委員会「小児呼吸器感染症診療ガイドライン2017」





小児の急性中耳炎でのガイドラインでは経口第3世代セフェム系も他の薬剤とともに推奨されているので使用は考慮されるでしょうか?

 経口第3世代セフェム系が必要となる場面はほとんどないと考えられます.
 理由としては多くの症例ではアモキシシリン(AMPC)あるいはアモキシシリン・クラブラン酸(AMPC/CVA)が有効であることがわかっているためです.

 AMPCを使用する場合の注意は, 投与量が少ない場合には治療失敗率が上昇して恐れがあることです. 中耳におけるでの抗菌薬の濃度を十分保つためには60mg/kg/日 分3か75-90mg/kg/日 分2で投与すべきとカナダ小児科学会のガイドラインで記載している通り, 添付文書(20-40mg/kg/日)での投与量では投与量不足となることがあります.

 AMPCの投与量を増やすと薬の量が多くなってしまうという欠点がありますが, それを理由に経口第3世代セフェム系を使用するべきではないと思われます.
 従ってAMPC 60mg/kg/日 分3 あるいは 80-90mg/kg/日 分2を第1選択治療として治療を行い, その治療反応性を見た上でその後の方針を考慮すべきだと思われます.

<参考>
N Le Saux et, al. Management of Acute Otitis Media in Children Six Months of Age and Older. Paediatr Child Health 2016; 21(1): 39-50.


第1版
2018年3月5日公開
2020年1月4日追記

2 件のコメント:

  1. 同じ小児科医として同意しますし、呼吸器感染症では経口薬はAMPCとAMPC/CVAしか使用していないです。
    しかし、乳幼児をもつ親としては、AMPC 10%製剤を60mg/kg/dayを飲ませるのは量が多すぎてなかなか難しく、1日3回も戦争をしないといけないのは大変というのもわかります。(20%製剤を入れてもらいましたが、それでも量は多い。)

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  2. ご意見ありがとうございます.
    ご指摘の通り, AMPCは薬剤の量が多くなってしまう点は一番問題点としてよく挙げられることだと思います. 特に10%製剤だと, 他の薬の量と比べると薬の量を間違っているのでは?と思うくらいですよね.
    個人的には20%製剤でギリギリかと思いますので, 10%製剤しかないところだと, コンプライアンスも考慮すればAMPC/CVAの使用も十分妥当だと考えています.

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