要約
今回, 市販されている小児用のかぜ薬60種類の成分について検討を行い, 以下のような特徴がみられました.・多くの製品に解熱薬が含まれている
・鎮咳薬も多くの製品に含まれていた. また2019年7月より12歳未満の小児に対してジヒドロコデインリン酸は禁忌となったものの, 未だ使用され購入可能な商品もごくわずかに存在していた.
・明らかな効果は示されておらず, また副作用の観点から感冒には用いるべきではないとされている第1世代抗ヒスタミン薬はほぼすべての製品に含まれていた.
小児の感冒では効果がはっきりせず, また使用が好ましくない成分が含まれていることが多かったため, 市販薬の風邪薬の使用には慎重になった方がよいかもしれません.
<改訂>
第2版 (2018/3/16) : 市販薬を11種類追加して42種類で検討
第3版 (2019/4/5) : 販売状況に確認して, 市販薬の追加・削除を行い, 65種類で検討
改訂第3版 (2019/7/12): 検討した商品名の一覧を画像データとして掲載. 一部文章内容を訂正
第4版 (2020/7/16): 一部販売中止や成分変更された製品を再確認して内容を変更
小児において感冒はもっとも一般的な疾患であることから, 多くの症例で使用されていると思われます.
小児の感冒の治療では抗ヒスタミン薬や鎮咳薬などが頻繁に使用されていますが, 近年その効果や副作用の問題から使用すべきではないとする報告が多くみられるようになってきています. 特にコデイン類に関しては死亡例が報告されていることや副作用が高率に発生する可能性が示されているため, 2019年7月から12歳未満での使用は禁忌となりました.
しかし, 市販のかぜ薬では鎮咳薬や抗ヒスタミン薬が含まれていることが多いことも知られています.
これまで, 小児の市販のかぜ薬の成分について検討した報告はほとんどありません.
今回, 複数の製品の成分を調べて市販のかぜ薬の検討を行いました.
市販薬の種類についてはGoogle(https://www.google.co.jp/)の検索エンジンを用いて, 「こども かぜ薬」と入力して表示された製品およびその販売元の他の製品に関して任意で選択しています. よってすべての市販薬を網羅しているわけではありませんが特定の製品を任意で除外することはしていません.
成分データに関しては製品ページおよび添付文書から抽出しています. 一部で製品ページと添付文書の内容が一致していない製品がありましたが, 情報が新しいと思われる法を筆者が選択して, そちらのデータを採用しました.
解熱薬
・今回選んだ60種類のうち, "鼻炎シロップ"もしくは"せきどめシロップ"という言葉が入っていない製品のほぼ全てに解熱薬が含まれていました.
・安全性が高く小児領域でも一般的に用いられているアセトアミノフェンがほとんどで製品で使用されていましたが, 1製品ではサリチル酸系のエテンザミドが使用されていました.
サリチル酸はインフルエンザにおいて重篤な合併症であるReye症候群を引き起こすリスクになりえることが指摘されており, 現在小児医療で解熱薬として使用されていることはほとんどないと思われます.
・アセトアミノフェンの1回投与量はいずれも少なめで設定されており, 安全性を考慮しているためと思われます. しかしアセトアミノフェンの解熱効果は用量が多い方が効果を示す傾向があることが示唆されており, 少ない量の市販のかぜ薬では効果的と言えるかは疑問が残るところです.
・また解熱を目的としてアセトアミノフェンを用いる場合には頓用で用いるのが原則となっています. 市販のかぜ薬の内服方法だと定期的に内服することになるため, これも一般的な診療方法からは外れてしまっていて好ましくない可能性があります.
鎮咳薬・去痰薬
・鎮咳薬としてはデキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物もしくはチペピジンが主に使用されていました.
・2019年7月より12歳未満ではコデイン類の使用が禁忌という方針になりましたが, 2020年7月現在で2製品で, 12歳未満に使用できるのにも関わらず, コデイン類を含んだものが購入可能であることが確認されました.
・鎮咳薬に関してみればチぺピジンヒベンズ酸塩が含まれているものの方がまだ良いかもしれません. ただしチペピジンも感冒において咳の症状を改善させる効果があるかは, データが乏しくはっきりいません.
・ちなみに, チぺピジンヒベンズ酸塩は病院で処方されるアスベリン®の成分です
・また, 上記以外で鎮咳作用・鼻炎改善を目的としてdl-メチルエフェドリンが多くの製品で使用されていました(48/60: 80%). エフェドリンは気管支拡張作用を理由に鎮咳薬として用いられていますが, 感冒に対して気管支拡張薬では鎮咳作用は期待できないと考えられるため, エフェドリンの鎮咳効果も期待はできないと推測されました.
・去痰薬としては主にグアイフェネシン, グアヤコールスルホン酸カリウムが使用されていました.
・グアイフェネシンはフストジルという商品名で注射液と錠剤の種類がある鎮咳去痰薬ですが, これまで処方されているところを見たことはありません. コクランレビュー(Cochrane Database Syst Rev 2014; (11): CD001831)によれば, 3つのプラセボとの比較試験があり, うち1つでは効果が示され, 2つでは効果は示されなかったとされています.
抗ヒスタミン薬
・抗ヒスタミン薬は今回対象とした製品すべて(60/60; 100%)で使用されており, すべて第1世代でした.
・多くの製品は抗ヒスタミン薬としてクロルフェニラミンマレイン酸を使用していますが, 一部ではジフェンヒドラミンやトリプロリジンを用いている製品もありました.
・第1世代抗ヒスタミン薬は副作用の観点から, 感冒には用いるべきではないとされています. 今回のことから, 市販のかぜ薬は第1世代抗ヒスタミン薬が含まれているという点だけで好ましくないものが非常に多いことが示唆されました.
無水カフェイン
・抗ヒスタミン薬の副作用の眠気に対する覚醒効果などを期待した無水カフェインが20種類で含まれていました.
・子どものカフェインの影響についてはわかっていないことも多いですが, 有害事象が起こる懸念から米国小児科学会は摂取の制限を推奨しています(Pediatrics 2011; 127(3): 511-28)
・無水カフェインが感冒の治療に効果的とする明らかなエビデンスはないことから, 無水カフェインは摂取しない方が好ましいかと思われます.
その他
・その他, 一部の製品には以下のようなものが含まれている製品がありました:
・生薬(例: ナンテンジツ, キキョウ, セネガ, カンゾウ, ニンジン, サイシン), 漢方(葛根湯, 小青竜湯)
・ビタミンC, ビタミンB2, ビタミンB1
・生薬はいずれも鎮咳・去痰目的で使用されるもののようです.
・抗ヒスタミン薬はほとんどの市販のかぜ薬に含まれて, そのすべてが第1世代のものでした.
・小児の感冒では効果がはっきりせず, また使用が好ましくない成分が含まれていることが多かったため, 市販薬の風邪薬の使用には慎重になった方がよいかもしれません.
はじめに
小児の感冒(かぜ, 急性上気道炎)に対して数多くの市販薬が発売されています.小児において感冒はもっとも一般的な疾患であることから, 多くの症例で使用されていると思われます.
小児の感冒の治療では抗ヒスタミン薬や鎮咳薬などが頻繁に使用されていますが, 近年その効果や副作用の問題から使用すべきではないとする報告が多くみられるようになってきています. 特にコデイン類に関しては死亡例が報告されていることや副作用が高率に発生する可能性が示されているため, 2019年7月から12歳未満での使用は禁忌となりました.
しかし, 市販のかぜ薬では鎮咳薬や抗ヒスタミン薬が含まれていることが多いことも知られています.
これまで, 小児の市販のかぜ薬の成分について検討した報告はほとんどありません.
今回, 複数の製品の成分を調べて市販のかぜ薬の検討を行いました.
方法
今回, 小児用の市販のかぜ薬のうち60種類を選択して検討しています.市販薬の種類についてはGoogle(https://www.google.co.jp/)の検索エンジンを用いて, 「こども かぜ薬」と入力して表示された製品およびその販売元の他の製品に関して任意で選択しています. よってすべての市販薬を網羅しているわけではありませんが特定の製品を任意で除外することはしていません.
成分データに関しては製品ページおよび添付文書から抽出しています. 一部で製品ページと添付文書の内容が一致していない製品がありましたが, 情報が新しいと思われる法を筆者が選択して, そちらのデータを採用しました.
結果と考察
解熱薬
・今回選んだ60種類のうち, "鼻炎シロップ"もしくは"せきどめシロップ"という言葉が入っていない製品のほぼ全てに解熱薬が含まれていました.
・安全性が高く小児領域でも一般的に用いられているアセトアミノフェンがほとんどで製品で使用されていましたが, 1製品ではサリチル酸系のエテンザミドが使用されていました.
サリチル酸はインフルエンザにおいて重篤な合併症であるReye症候群を引き起こすリスクになりえることが指摘されており, 現在小児医療で解熱薬として使用されていることはほとんどないと思われます.
・アセトアミノフェンの1回投与量はいずれも少なめで設定されており, 安全性を考慮しているためと思われます. しかしアセトアミノフェンの解熱効果は用量が多い方が効果を示す傾向があることが示唆されており, 少ない量の市販のかぜ薬では効果的と言えるかは疑問が残るところです.
・また解熱を目的としてアセトアミノフェンを用いる場合には頓用で用いるのが原則となっています. 市販のかぜ薬の内服方法だと定期的に内服することになるため, これも一般的な診療方法からは外れてしまっていて好ましくない可能性があります.
鎮咳薬・去痰薬
・鎮咳薬としてはデキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物もしくはチペピジンが主に使用されていました.
・2019年7月より12歳未満ではコデイン類の使用が禁忌という方針になりましたが, 2020年7月現在で2製品で, 12歳未満に使用できるのにも関わらず, コデイン類を含んだものが購入可能であることが確認されました.
・鎮咳薬に関してみればチぺピジンヒベンズ酸塩が含まれているものの方がまだ良いかもしれません. ただしチペピジンも感冒において咳の症状を改善させる効果があるかは, データが乏しくはっきりいません.
・ちなみに, チぺピジンヒベンズ酸塩は病院で処方されるアスベリン®の成分です
・また, 上記以外で鎮咳作用・鼻炎改善を目的としてdl-メチルエフェドリンが多くの製品で使用されていました(48/60: 80%). エフェドリンは気管支拡張作用を理由に鎮咳薬として用いられていますが, 感冒に対して気管支拡張薬では鎮咳作用は期待できないと考えられるため, エフェドリンの鎮咳効果も期待はできないと推測されました.
・去痰薬としては主にグアイフェネシン, グアヤコールスルホン酸カリウムが使用されていました.
・グアイフェネシンはフストジルという商品名で注射液と錠剤の種類がある鎮咳去痰薬ですが, これまで処方されているところを見たことはありません. コクランレビュー(Cochrane Database Syst Rev 2014; (11): CD001831)によれば, 3つのプラセボとの比較試験があり, うち1つでは効果が示され, 2つでは効果は示されなかったとされています.
抗ヒスタミン薬
・抗ヒスタミン薬は今回対象とした製品すべて(60/60; 100%)で使用されており, すべて第1世代でした.
・多くの製品は抗ヒスタミン薬としてクロルフェニラミンマレイン酸を使用していますが, 一部ではジフェンヒドラミンやトリプロリジンを用いている製品もありました.
・第1世代抗ヒスタミン薬は副作用の観点から, 感冒には用いるべきではないとされています. 今回のことから, 市販のかぜ薬は第1世代抗ヒスタミン薬が含まれているという点だけで好ましくないものが非常に多いことが示唆されました.
無水カフェイン
・抗ヒスタミン薬の副作用の眠気に対する覚醒効果などを期待した無水カフェインが20種類で含まれていました.
・子どものカフェインの影響についてはわかっていないことも多いですが, 有害事象が起こる懸念から米国小児科学会は摂取の制限を推奨しています(Pediatrics 2011; 127(3): 511-28)
・無水カフェインが感冒の治療に効果的とする明らかなエビデンスはないことから, 無水カフェインは摂取しない方が好ましいかと思われます.
その他
・その他, 一部の製品には以下のようなものが含まれている製品がありました:
・生薬(例: ナンテンジツ, キキョウ, セネガ, カンゾウ, ニンジン, サイシン), 漢方(葛根湯, 小青竜湯)
・ビタミンC, ビタミンB2, ビタミンB1
・生薬はいずれも鎮咳・去痰目的で使用されるもののようです.
まとめ
・鎮咳薬としてエフェドリンが使用されている製品は多く, また2020年7月現在でもジヒドロコデインリン酸塩が使われている製品がごくわずかに存在することが確認されました.・抗ヒスタミン薬はほとんどの市販のかぜ薬に含まれて, そのすべてが第1世代のものでした.
・小児の感冒では効果がはっきりせず, また使用が好ましくない成分が含まれていることが多かったため, 市販薬の風邪薬の使用には慎重になった方がよいかもしれません.
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