・単純性股関節炎は小児期にみられ, 股関節痛を引き起こす滑膜の急性炎症による疾患
・別名:
・急性一過性滑膜炎 (acute transient synovitis: ATS)
・単純性股関節痛
・toxic synovitis
・irritable hip
疫学
発症年齢
・10歳以下の小児で、股関節痛の原因として最も多い
・好発年齢は4-10歳で平均年齢は4.7-5.4歳7)
性別
・性差: 男児に多くみられる (男児は女児の2-3倍以上) 7)
発症率
・ある前方視的研究では, 生涯の累積リスクは3%であった
・Livepoolでの研究では季節性はみられていなかった7)
・Livepoolでの研究では季節性はみられていなかった7)
病因
・明らかな原因は不明
・先行するウイルス性疾患や微小な外傷が頻繁に報告されている
・約70%の症例では発症7-14日前の非特異的な上気道感染症の既往を有する
・外傷, アレルギー, 感染が原因として挙げられている
臨床症候
・主な症候: 股関節痛, 可動域減少, 体重負荷をいやがる
・乳児では夜間の啼泣のみのことがある
・乳児では夜間の啼泣のみのことがある
股関節痛
・背部や同側の膝に痛みを認めることがある
・両側性に障害されるのは5%
・症状が片側性の場合でも, 超音波検査では25%で両側に液貯留が検出できる
・時に大腿部や膝関節に痛みが波及することがある
・Patrick test (FABER test)を行うと股関節の前側に痛みが誘発される
・Patrick testは仰臥位で股関節を屈曲, 外転, 外旋させてその足を反対側の膝に乗せる. そしてその状態から床方向に押してストレスを加えるもの
発熱
・通常発熱はないか, あるいは微熱にとどまる
臨床検査
白血球数
・白血球数は通常正常範囲内
好酸球数
・Alamriらはcontrolと比較して単純性股関節炎患者では平均好酸球数が有意に高かったことを報告した
・好酸球増加症は15.6%で認めた
・好酸球増加症の有無で入院における違いは認めなかったが, 入院期間と好酸球増加症との間の関連性は可能性がある
CRP値
・血清CRP値は比較的正常となることが一般的
・CRP値>2mg/dLは化膿性関節炎のrisk factorとして報告されている
画像検査
股関節単純X線
・単純X線写真では内側の関節裂隙の開大がみられる事がある
・ただし, ほとんど所見を認めない事も多い
超音波検査
・股関節の超音波検査は単純X線よりも好ましく, しばしば関節液貯留が示される
MRI
・関節液貯留のみを認める事が多い
鑑別診断
・主な鑑別疾患: 化膿性股関節炎, 化膿性仙腸関節炎, 骨髄炎, Legg-Calvé-Perthes病, Lyme病, 若年性特発性関節炎, 骨折, 腫瘍
化膿性股関節炎
・Kocher predictive algorithm:
・自覚的な発熱
・体重負荷をしない
・ESR≧40mm/h
・末梢血WBC>12000
・上記4項目のうちの, 満たす項目数と化膿性関節炎の予測可能性
・0項目: <0.2%
・1項目: 3%
・2項目: 40%
・3項目: 93%
・4項目: 99.6%
・その他の研究で示されたTSHよりも化膿性股関節炎を考慮させる予測因子:
・体重負荷を嫌がる
・発熱 (≧38.5℃)
・赤沈亢進
・血清WBC値高値 (≧12000)
・CRP高値 (≧4.0mg/dL)
・ShinghalらはCRP>2.0mg/dLが最も強力な独立したrisk factorであることを報告した
・体重負荷状態とCRP
>2.0mg/dLの2つのみが単純性股関節炎と化膿性股関節炎を鑑別するのに有用であった:
・いずれもなければ化膿性股関節炎の可能性は1%未満
・両方があれば, 化膿性股関節炎の可能性は74%
・Kingella kingaeによる化膿性股関節炎は症状が軽度で炎症反応も正常かそれに近いため、 Kocher predictive algorithmは感度が低いことが指摘されている
・18-24か月未満の小児においても有用性が低下する可能性が指摘されている
治療
・治療は原則的に安静および抗炎症薬で行う
・抗炎症薬と鎮痛薬は疼痛の期間を短縮する可能性がある
予後
・通常24-48時間以内に著明に改善して, 2/3から3/4の症例はは2週間以内に症状を認めなくなる
・1か月以上症状が持続する時は, その他の股関節の疾患に罹患している可能性が高い
・再発率: 0-26.3%
・ほとんどの再発は6か月以内に起こる
・再発時の経過は良好
・長期の経過観察で1-3%の単純性股関節炎の罹患児がLegg-Calvé-Perthes病を発症していた
・初期には両者は鑑別がつかないことがあるため, 関節炎患者では注意深い経過観察と評価が必要となる
後遺症
・後遺症としては大腿骨頭の過大骨頭(coxa magna)と軽度の変性変化が挙げられる
・5年間の経過観察では大腿骨頭の過大骨頭は32.1%で報告されている
<参考文献>
8) Acute
non-traumatic hip pathology in children: incidence and presentation in family practice. Fam Pract. 2010; 27(2): 166-70
9) Bilateral synovitis in symptomatic unilateral transient synovitis of the hip: an ultrasonographic study in 56 children. Acta Orthop Scand 1996; 67(2): 149-52
10) The characterization of “transient synovitis of the hip” in children. J PediatrOrthop 1986; 6(1): 11-7
10) The characterization of “transient synovitis of the hip” in children. J PediatrOrthop 1986; 6(1): 11-7
11) Moffet’s Pediatric Infectious Diseases. 5th edition, Wolters Kluwer, 2017
12) Recurrent transient synovitis of the hip in childhood. Longterm outcome among 39 patients. J Rheumatol 2006; 33(4): 810-1
12) Recurrent transient synovitis of the hip in childhood. Longterm outcome among 39 patients. J Rheumatol 2006; 33(4): 810-1
13) NELSON
Textbook of Pediatrics 20th edition.
15) Differentiating between septic arthritis and transient synovitis of the hip in children: an evidence-based clinical prediction algorithm. J Bone Joint Surg Am 1999; 81(12): 1662-70
16) A Case of Legg-Calvé-Perthes Disease due to Transient Synovitis of the Hip. Case Rep orthop 2016; 2016: 7426410
改訂:
2018/8/23: 参考文献16追加. 一部内容を追記
16) A Case of Legg-Calvé-Perthes Disease due to Transient Synovitis of the Hip. Case Rep orthop 2016; 2016: 7426410
改訂:
2018/8/23: 参考文献16追加. 一部内容を追記
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