2017年12月12日火曜日

川崎病ショック症候群(Kawasaki disease shock syndrome: KDSS)

川崎病(Kawasaki disease: KD)と毒素性ショック症候群(Toxic shock syndrome: TSS)の両者は時に似た臨床像がみられることが知られており, TSSでは名前の通りショックを伴う.
一方で川崎病においては, 第1選択の治療で用いられるγグロブリン大量静注療法(IVIG)に関連したショックはよく知られている.
ただ川崎病そのものに関連したショックは, 以前から日本で症例報告があったり8), 海外の研究で時に血圧低下などで集中治療を要する例があることを報告されていたが9), 一般的にはあまり認知されていなかった.

2009年にKanegayeらはIVIG治療前に低血圧, もしくはそれに関連する徴候がみられたKD症例が少ないものの存在することを報告し, Kawasaki disease shock syndrome (川崎病ショック症候群)(KDSS)という概念を提唱した1)
KanegayeらはKDに以下の所見のいずれかを満たすものをKDSSと定義した:1)
年齢毎の収縮期血圧のベースラインから20%以上の持続した低下
血圧の血流不良の臨床的徴候(発熱などのその他の状態が原因とならない頻脈, capillary filling time延長, 末梢冷感, 脈拍減弱, 乏尿, 精神状態の変化)

その後KDSSについて注目され様々な研究結果が報告されるようになり見識が深まっている.
ここではKDSSについていくつかの研究結果についてまとめている.





疫学

年齢
・典型的なKDと比べてKDSSの方が年齢が高い傾向があったとする報告もあるが6)11), 発症年齢に明らかな違いはみられなかったとする報告もある1)2).

性別
・一般的には川崎病では男性の比率がやや高くKDSSでも同様の傾向がみられたとする報告はあるが2)11)12), 逆にKDSSでは女児の比率が高かったとする報告もあり1)3)9), 一定の見解は得られていない

発生率
・KDSSの定義にやや違いはあるが, アメリカやイタリア, メキシコでの研究ではKD症例の5-7%が定義を満たしたと報告されている1)2)5)
・一方で, 中国・台湾での研究ではKD症例の1.23-1.9%がKDSSであったと報告しており3)11)12), 上記の国々と比べてやや低い可能性が指摘されているが, 実際にKDに占める割合が低いかははっきりしない.
・台湾での報告では, 5歳未満と比べて5歳以上のKDではKDSSの基準を満たした割合が高かったことが示されているほか12), 北インドでの10歳以上のKDを分析した研究では17.4%でショックを伴っていたと報告されている10). よって高い年齢での川崎病は高い症例ではより注意が必要かもしれない.
・日本での発生状況については不明な点が多く症例報告がわずかに存在する程度であった8)13). 2021年にSuzukiらが単施設での発生状況を報告しており, その研究ではKDSS症例はKD全体の1.1%でみられており, 発生率は他のアジア諸国からの報告と同程度であった14).

危険因子
・Kanegayeらの報告ではKDSSの症例ではショックを伴わない症例と比べて以下がみられる頻度が高かったと報告している:1)
 ・女児
 ・桿状核球の割合が高い
 ・CRP値が高い
 ・ヘモグロビン値や血小板数が低い
・また, 別の研究では以下の項目が危険因子として挙げられている3)
 ・好中球数が高く, 桿状核球の割合が高い
 ・CRP値が高い
 ・血小板数が低い
・桿状核球の比率やCRP値が高いことや血小板数が低いことは, IVIG抵抗性のリスク判断として用いられる群馬スコアにも含まれている項目である. 従って炎症が強く重症例で血圧低下を伴いやすいかもしれないが詳細は不明である.




原因

・血管炎による毛細血管漏出, 心筋機能障害, サイトカイン調節障害が原因として考えられているが, 明らかな原因は不明である3)4)




臨床症候・臨床検査所見

川崎病症状
・入院時には川崎病の診断基準を満たす臨床症候は揃っていないことが多く, 最終的にも不全型の頻度が相対的に高い可能性が指摘されている2)
 ・メキシコでの後ろ向き研究では, 入院時にtoxic shock syndrome (TSS)と診断された割合がもっとも高かった7)
・台湾からの9例の報告では, KDSSの77.8%は定型例であり, ショックを伴わないKDと同程度であったとしている3)
・皮膚症状がより強い傾向があることも示唆されている6)
その他
消化器症状(特に腹痛・嘔吐)の頻度が高く, メキシコでの研究では11例のKDSSうち91%で何らかの消化器症状がみられていた(腹痛73%, 嘔吐73%, 下痢27%)2)
・後述の通り心血管障害が起こりやすいことが指摘されているほか, 不整脈も起こりやすい可能性も示されている6)

血液検査
・上記の危険因子で挙げられたように白血球における桿状核球の割合が高いことやCRP高値, 血小板数減少がみられやすいことが指摘されている.
・それ以外でもHb低値低ナトリウム血症, 低アルブミン血症, BUN高値凝固異常を認める頻度が高い1)5)6)

超音波所見
・ショックを伴わないKDと比べてKDSS症例では左心機能障害や僧帽弁逆流を示唆する所見がややみられやすいことが示されている1)




管理

・多くの症例で輸液による蘇生アルブミン製剤血管作動薬の投与を必要としている1)2)3)6)
IVIGへの反応性不良の頻度が高いことも示唆されている1)3)




予後

・メキシコでの後ろ向き研究では死亡率は6.8%であった7)
冠動脈病変に関しては一般的にKDと比べて発生率が高いとする報告が多く注意が必要だろう2)3)7)12).



<参考文献>
5) Describing Kawasaki shock syndrome: results from a retrospective study and literature review. Clin Rheumatol 2017; 36(1): 223-228.
6) Ma L, Zhang Y, Yu H. Clinical Manifestations of Kawasaki Disease Shock Syndrome. Clin Pediatr (Phila) 2018; 57(4): 428-435.
7) Gamez-Gonzalez LB, IMoribe-Quintero I, Yamazaki-Nakashimada M, et al. Disease Shock Syndrome: A Unique and Severe Subtype of Kawasaki Disease. Pediatr Int 2018; 60(9):781-790.
8) 加藤英子ら. 心原性ショックを呈した川崎病の1中学生女児例. 小児科臨床 2000; 53: 47-52.
9) Dominguez SR, Friedman K, Glodé MP, et al. Kawasaki Disease in a Pediatric Intensive Care Unit: A Case-Control Study. Pediatrics 2008; 122(4): e786-790.
10) Jindal AK, Pilania RK, Singh S, et al. Kawasaki Disease in Children Older Than 10 Years: A Clinical Experience From Northwest India. Front Pediatr 2020; 8: 24.
11) Li Y, Zheng Q, Lu M, et al. Kawasaki Disease Shock Syndrome: Clinical Characteristics and Possible Use of IL-6, IL-10 and IFN-γ as Biomarkers for Early Recognition. Pediatr Rheumatol Online J 2019; 17(1): 1.

<改訂>
2018/8/21: 参考文献6-7を追加し, その分の内容を追記
2020/4/30: 参考文献8-9を追加し, 全体的に文章を追記・修正
2020/5/8: 参考文献10-12を追加し, それに関わる内容を追記
2021/4/14: 参考文献13, 14を追加し, それに関する内容を追記

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