2017年8月3日木曜日

乳児一過性低ガンマグロブリン血症

総論

・乳児一過性低ガンマグロブリン血症(THI), 正常では生後3-6か月で認められる生理的な免疫グロブリン値の底となる値がより低く, 底となる状態が長く続く病態
IgG, IgA, IgMの免疫グロブリンのうち1つ以上の低下を特徴とする4)



疫学

・診断時の平均年齢: 8.4±5.2か月4)
・性別: 60.4-71%が男児4)5)6)



臨床症候

副鼻腔, 呼吸器感染症
・反復性の副鼻腔呼吸器感染症を引き起こすことがある
Whelanらの報告では77.6%で反復性の中耳炎を認めていた6)
40例を検討したKiliçらの報告では重症感染症に罹患した患者はいなかった1)

アトピー性皮膚炎
アトピー症状はTHIの患者において頻繁に報告されている
Whelanらの報告では, 患者の26.5%にアトピーがあった6)
乳幼児のアトピー性皮膚炎患者では低ガンマグロブリン血症(ほとんどがIgG低値に起因する)を合併する頻度が高いことも報告されている9)



臨床検査

免疫グロブリン
40例を検討した報告では以下の通りであった: 1)
 ・IgG低値10, IgA低値2, IgM低値3
 ・IgG+IgA低値10, IgA+IgM低値6, IgG+IgM低値1



管理

抗菌薬予防投与
・抗菌薬予防投与は反復する呼吸器感染症や耳感染症の患者で考慮される

免疫グロブリン補充療法
・ほとんどの患者は軽症の感染症に罹患するか無症状のため, 免疫グロブリン補充療法を必要としない
・免疫グロブリン補充療法は抗菌薬投与治療がうまくいかない, 高頻度に繰り返す感染症や重症感染症に罹患する児で考慮する7)
・従来の治療に反応しない重症アトピー性皮膚炎を合併する症例において免疫グロブリン補充療法を行うと多くの症例でアトピー性皮膚炎の改善がみられた8)


予後

通常3歳までの自然治癒する3)
30例を検討した報告では以下のようであった:2)
 ・21人は年齢中間値27か月で正常範囲に達した
 ・9人は-2SDを下回ったままで, うち5例は様々なIgGサブクラス欠損が発見された
Kelesらの報告では, 平均68.87±36.5か月で正常化した3)
Sütçüらの報告ではIgG値は30.6±11.88か月で正常化していた4)
・治癒が遅れる予測因子として以下のものが報告されている5)
 ・アトピーの存在
 ・反復感染症の発生(>6/)
 ・入院
 ・初期のIgAIgM低値
・また, 母乳栄養の期間がより長い患者は早期に治癒していた5)
IVIGを投与されていた患者では免疫グロブリン値の回復により時間を要した5)
女児の方が有意に正常化は遅れるという報告がある6)



参考文献

1) Transient hypogammaglobulinemia of infancy: Clinical and immunologic features of 40 new cases. Pediatr Int 2000; 42: 647-650
2) Transient hypogammaglobulinemia of infancy and early childhood: outcome of 30 cases. Turk J Pediatr 2004; 46(2): 120-4
3) Transient hypogammaglobulinemia and unclassified hypogammaglobulinemia: ‘similarities and differences’. Pediatr Allergy Immunol 2010; 21(5): 843-51
4) Transient hypogammaglobulinemia of infancy: predictive factors for late recovery. Turk J Pediatr 2015; 57(6): 592-8
5) Phenotypic parameters predict time to normalization in infants with hypogammaglobulinemia. J Clin Immunol 2013; 33(8): 1336-40
6) Infants presenting with recurrent infections and low immunoglobulins: characteristics and analysis of normalization. J Clin Immunol 2006; 26(1): 7-11
7) Dose intravenous immunoglobulin therapy prolong immunodeficiency in transient hypogammaglobulinemia of infancy? Pediatr Rep 2013; 17: 5(3): e14
8) Transient hypogammaglobulinemia and severe atopic dermatitis: Open-label treatment with immunoglobulin in a case series. Allergy Rhinol (Providence) 2016; 7(2): 69-73
9) Relationship between hypogammaglobulinemia and severity of atopic dermatitis. Ann Allergy Asthma Immunol 2014; 113(4): 467-9

改訂
2018/2/19: 参考文献8, 9を追加

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